私は生命をとても美しく尊いものだと思うのです。 生命の輝き、それはかけがえのない、代わりのない、唯一のもの。 それを知らない人達は、とても哀れだと思うのです。 生きる素晴らしさを知ることが、生きて行く中で一番大切だと感じるのです。 だから私は、生の喜びを皆様に説き続けるのです。 アレルヤアレルヤ! 感謝の歌をもって、御前に進み行き、賛美の歌をもって、主に喜び叫びましょう。 「僕は生きることに、なんの感慨も感じない。今すぐに死んでもいいんだ」 彼はそう言いました。 それはとても悲しいことです。 生きることは喜びに満ちているのです。 その喜びを知らないとは悲痛の極み。 神が与えたもうた、人間に与えられた最大のギフト。 ですから私は彼に僭越ながら主に代わり、彼に生の喜びを教えるのです。 「やってみたいことはありませんか?」 「………別にないよ」 「今の季節は紅葉がとても美しいです。一緒に見に行きましょう」 「いいよ。必要ない。関わらないでくれ」 彼はとても頑なでした。 沢山の哀しいことが、彼の心を凍りつかせてしまったのでしょう。 その沈痛な面持ちを見るたびに、私の心は痛みます。 彼のその永遠凍土のような心に、光を照らしたいと、そう切に思いました。 「私はあなたに、触れたいのです。あなたの心に、触れたいのです」 「………」 「私は、あなたに喜びを、知ってほしい」 「適当なことを言って、近づかないでくれ!」 そう言った彼ですが、本来はとても優しい人です。 繊細で傷つきやすく、臆病なだけなのです。 根気良く接する私に、徐々に心を開いてくれました。 とてもとても、優しく穏やかな人なのです。 外に連れ出すうちに、徐々に笑顔を見せてくれるようになりました。 「はは、君は本当にしつこくて、変な奴だな。僕にこんな関わる奴なんて、いなかったのに」 「あなたはとても優しい人です。私はあなたが大好きです。あなたと一緒にいたいのです」 「………君は、本当に変な奴だ」 そう言ってはにかむ彼の笑顔の尊いこと。 私の胸は感動で打ち震えました。 生きる素晴らしさを知ってもらい、彼にもっと笑顔を見せて欲しいと思いました。 「………綺麗、だ」 彼がそう言って涙を流したのは、一面に広がるひまわり畑を見た時でした。 感受性の豊かな彼は、感動で涙を流したのです。 その涙のなんと美しかったことか! 「ありが、とう。こんな綺麗な光景を見せてくれて」 「よかった。あなたに喜んでもらうことが、あなたが生の喜びを知ることが、私の何よりの喜びなのです」 「………ありがとう」 彼はそして少し躊躇ってから、頬を染めて言いました。 青空の下、彼はとても生き生きとして見えました。 「これは、迷惑かもしれないけれど、一つだけ聞いてほしい」 「なんでしょう?」 「君が、好きだ」 その言葉が、どんなに嬉しかったか、皆様には想像がつくでしょうか。 誰かを愛おしむことはは、何にも勝る生の喜び。 自分を愛し、誰かを愛し、そうすればおのずと世界を愛することが出来るのですから。 私は勿論私も好きだと返しました。 私も彼を愛していましたから。 そして私たちは結ばれて、ささやかな時を過ごしました。 「ああ、僕は生きることになんの感慨も感じていなかった。それがどんなに勿体ないことだったのだろう。もっと素敵なものに、美しいものに沢山出会えていたかもしれないのに。君の言う生の喜びを、もっと早くに知ることが出来たかもしれないのに」 「今からでも遅くはありません。生の喜びを享受いたしましょう」 ある日、ベッドの上で、彼は言いました。 哀しそうに顔を歪めて、私に抱きつきました。 その力の強いこと。 剥き出しの肌の熱いこと。 その全てが生命の息吹を感じ、私は愛おしさに満ち溢れました。 「でも、もう、僕には時間がない」 彼は私を強く抱きしめて、声を震わせました。 そして、綺麗な綺麗な涙を流すのです。 「死にたくない………。死にたくないっ!!僕はまだ、死にたくない!!」 その言葉を聞いた時、私はどんなに嬉しかったことでしょう。 生を諦めていた彼が、生への執着を見せたのです。 幼い頃から病に侵されていた彼は、先日余命宣告をされました。 私と出会ってから元気になったものの、やはり病には敵いません。 徐々に病状は悪化しています。 もうすでに残された時間は少ないことでしょう。 私は間に合ったのです。 彼は死ぬ前に、生の喜びを知ることが出来たのですから。 「君に、出会わなければよかった。そうすれば、生きることに希望なんて、抱かなかったのに!!!」 そう言って彼は、大きな涙の粒を流しながら私にしがみつき叫びました。 その叫びの悲痛なこと。 その力の必死なこと。 その涙の切ないこと。 ああ、なんて素晴らしいのでしょう。 彼は生に執着しています。 これで生の喜びを知ることが出来ました。 生命の美しさを知ることが出来ました。 彼は最後まで死にたくない、もっと生きていたいと言いながら死んでいきました。 ああ、なんて素晴らしいのでしょう。 彼はきっと幸せだったことでしょう。 その生が美しかったからこそ後悔がある。 生命が尊いからこそ未練がある。 彼は生命をとても大切にしながら死んだのです。 それはなんて素晴らしいこと! 彼女は他人のことなんてどうでもいいと言いました。 彼女はなんでも持っていました。 美しい容貌、優しく彼女を甘やかす裕福な両親、聡明な頭脳に、類い稀なるリーダーシップ。 その恵まれた環境は、哀しいことに彼女を歪めてしまったのです。 きっと本当の彼女はとても心優しい女性だったろうに。 その傲慢な考えは、彼女を他者への攻撃へ走らせたのです。 彼女はクラスメイトをいじめ苦しめ、自死へと追いやりました。 そうやって何にもの人間を傷つけてきたのです。 なんと哀しいことでしょう。 なんと寂しいことでしょう。 他者への愛、それは何にも勝る生の喜び。 私は彼女に痛みを知ってもらいたかった。 そして他者への労わりを知ってもらいたかった。 そうすればきっと、彼女の生は何倍もの喜びを感じるのでしょうから。 「だ、誰、あんた、なんでこんなこと!」 暗い倉庫の中に縛られたまま横たわり、彼女は怒りに満ちた声を出しました。 私は彼女に生命の美しさを知ってもらおうと、彼女の下校途中にここに来てもらったのでした。 「私は知っています。きっとあなたは本当はとても優しく、美しい人です。だから少しだけ他者の痛みを知ってもらいたいのです。そうしたらあなたはきっともっと美しくなれるでしょう。そして生きる喜びを知るでしょう」 「は!?何言ってるの!?あんた何?変態!?さっさと離してよ!」 彼女の美しい容貌。 それが彼女の傲慢の元でしょう。 ですから私はその容貌を奪うことにしました。 見た目の美しさなど、心の美しさに比べれば些細なもの。 内面の美しさが人を本当に輝かせるものなのですから。 「ぎ、ぎゃああああ、あああああ、いったああああ」 頬の肉を少し削ぎ落すと、彼女は痛みにのたうちまわりゴロゴロと倉庫の床を転がりました。 その後は歯を抜き、耳を少しだけ切り落としました。 これで彼女はその容貌を誇って傲慢になることはないでしょう。 皮一枚で奢ることの馬鹿らしさを知ることが出来るはずです。 内面を見る美しさとかけがえのなさ、それを彼女は手に入れられるのです。 それを知るだけで、彼女の世界はもっともっと豊かになることでしょう。 その後はすぐに止血して手当てをしました。 彼女には生の喜びを知ってもらわないといけないのですから。 「ああ、後は足を折りましょう。大丈夫、少し障害が残るだけですから」 痛みで気を失っていた彼女を水をかけて起こし、私は最後の仕事をします。 彼女はすっかりしおらしくなっていました。 痛みを知ることが出来て、彼女は生命の尊さを知ることが出来たことでしょう。 ああ、なんて素晴らしいことなのでしょう。 「も、ひぃ、や、やら、もう、いや、ああ、やめ、おねが、やめ」 「そうすれば、あなたも他人に優しさをより知ることが出来るでしょう。そして他人に優しくできるでしょう。人を愛することが出来るでしょう」 「い、やあああああ!!」 彼女の悲痛な声は、倉庫内に響き渡りました。 その声の懇願に満ちていたこと。 生への執着に満ちていたこと。 私の心は温かさでいっぱいになりました。 「もう、他人を傷つけるようなことをしてはいけませんよ」 「は、はひ。もう、しま、せ」 「ええ、あなたはとてもいい子です。どうか他者への愛を知って、美しい生を歩んでください」 彼女はとても素直になって、私の言葉に子供のように頷きました。 やっぱり彼女は本当は美しく優しい子だったのです。 これからはきっと他人への思いやりに満ちた子になってくれることでしょう。 他者へ感謝し、想いやることが出来ること。 それはなんて美しいこと! 私は裕福な家に生まれ、何不自由ない暮らしをしてきました。 神に感謝し、私の与えられたものを少しでも周りの人に分けたいと思いました。 けれど世界は死に満ちていました。 けれど世界は絶望に満ちていました。 けれど世界は諦めに満ちていました。 私が何をしても、皆さんは絶望しているだけ。 その諦めを浮かべた目を、濁らせるだけ。 人は皆痛みと苦しみでいっぱいでした。 私の小さな手で救える人など、誰もいませんでした。 だから私はせめて知ってほしかった。 世界は綺麗なのだということを。 生は美しいのだということを。 それを知ることが出来れば、きっと幸せだと思ったのです。 私は生命をとても美しく尊いものだと思うのです。 生命の輝き、それはかけがえのない、代わりのない、唯一のもの。 それを知らない人達は、とても哀れだと思うのです。 生きる素晴らしさを知ることが、生きて行く中で一番大切だと感じるのです。 だから私は、生の喜びを皆様に説き続けるのです。 アレルヤアレルヤ! さあ、皆様生まれ変わりましょう! 人は、新しく生まれなければ、神の国を見ることはできません。 |