人魚姫は綺麗な海に沈み、泡となってしまいました。 人魚姫の心に後悔はありませんでした。 彼女はただ、王子様の幸せだけを望み泡となりました。 恋を知った人魚姫は、とても幸せだったのです。 人魚姫は満足です。 美しい人魚姫の心を知った神様は、その悲しい恋を憐れみました。 そして、彼女を人間にしてあげたのです。 人間になった人魚姫は浜辺で目を覚ましました。 目の前には、大好きな王子様の姿がありました。 「だいじょうぶかい?」 心配そうな王子様に、人魚姫は驚きながらも、はい、と答えました。 そして驚きました。 声がなんと出るのです。 そして、足も魚の尾ではなく、人間のままです。 自分は泡となって消えたはずなのに。 不思議におもっていると神様の声が聞こえました。 「お前の美しい心にめんじて、人間にしてやろう。そして、最初からやりなおさせてやる」 その言葉に、人魚姫は喜び、そして嬉しくて泣きました。 王子様と、これでようやく、対等になることができるのです。 人魚姫は心の中で何度も神様にお礼をいいました。 泣きだした人魚姫を王子様がおろおろしながら見つめています。 人魚姫は、大丈夫だ、と言いました。 そしてずっとずっと言いたかった事を、伝えたのです。 「あの嵐の晩、あなたを助けた時から、あなたをずっと好きでした」 好きだという言葉を、ようやく伝えられたのです。 真実を知った王子様は、人魚姫にとても感謝しました。 そして誰よりも美しく優しい人魚姫にすぐに恋をしました。 美しい王子様と人魚姫は、誰からも祝福される二人となりました。 王子様は頼もしく賢く、よい王様になるだろうと尊敬されていました。 美しく優しい人魚姫は、よい王妃様となるだろうと、慕われていました。 けれど、運命は二人を引き裂きました。 隣国の使者が、王様の元へ現れ言いました。 王子様と隣国の姫様を結婚させないと、この国と戦争をする、と。 隣国は強い兵力を持った国です。 もっともっと国を強くしようと、前から色々な国と戦争をしていました。 そしてさらに大きくなった隣国と、この国では最初から勝負にはなりません。 幸い、隣国の姫様は、美しいこの国の王子様を好きでした。 だから、結婚すれば、この国を滅ぼさないでくれると約束しました。 王様は悩みました。 そして、王子様にそのことを告げ、頼みました。 「この国のために、隣の国の姫様と結婚してくれ」 王子様は悩みました。 王子様は、とっても人魚姫のことが好きだったからです。 けれど、この国の多くの人と、自分の恋を引き換えにすることはできませんでした。 王子様は、この国の王子様だったからです。 王子様は泣きながら人魚姫に謝ります。 「君のことが好きだけど、君とは結婚できません」 人魚姫も泣きました。 けれど、王子様の優しい心を、踏みにじることはできません。 「たとえ王子様と結婚できなくても、私は王子様がずっと好きです。ずっとそばにいます」 美しい人魚姫の心に、王子様は感謝して、また泣きました。 そして王子様は隣国の姫様と結婚しました。 人魚姫は悲しかったけれど、我慢しました。 王子様は人魚姫のことが好きだといいました。 そして今は言葉を話すことができます。 ずっと一緒にいることができます。 それならいいと、思ったのです。 けれど隣国の姫様はそれが気に入りませんでした。 王子様の心が人魚姫に向かっているのが許せなかったのです。 隣国の姫様は、人魚姫が魔物の娘だと噂を流しました。 そしてこの国を滅ぼすとして、処刑したほうがいいと言いました。 王子様は必死に反対しました。 けれど、強い権力を持つ隣国の姫様には逆らえませんでした。 結局、隣国との関係が悪くなるのを恐れた国の大臣たちも賛成して、人魚姫を処刑することになりました。 処刑場で磔にされた人魚姫は、それでも心は穏やかでした。 今まで自分を慕ってくれていた人たちが、魔女だといって石を投げます。 ひどい言葉を言います。 けれど、心は穏やかでした。 王子様は、自分が好きだと、わかっていたからです。 それだけで、幸せだったからです。 王子様が泣いているのが、それだけが心配でした。 王子様が幸せになってくれればいいと、そう願いました。 槍でさされる時、人魚姫は穏やかに笑っていました。 そして、最後に言いました。 「王子様が、好きでした」 胸を張って、言いました。 そして、人魚姫は死にました。 神様はまた悲しみました。 人魚姫の美しい心が踏みにじられたことを、憐れみました。 そして、もう一度だけ生き返らせることにしました。 「お前が望むなら、もう一度だけ生き返らせてやろう」 「王子様とまた会えるなら、私は何度でも、生き返りたいです」 その願いを聞き届け、神様はまた人魚姫を生き返らせました。 人魚姫はまた王子様と出会うことができました。 そして心を通わせ、結ばれました。 人魚姫は幸せです。 でも、人魚姫は、もう王子様と離れたくないと思いました。 もう一度、神様が生き返らてくれるかは、わかりません。 ずっとずっと、王子様と一緒にいたいと思いました。 別れることが、怖くなりました。 けれど、また隣国の使者はやってきました。 王子様は泣きながら、人魚姫に別れを告げます。 仕方なく、人魚姫はそれに頷きます。 けれど、このままではまたこの前の繰り返しです。 このままでは、王子様と一緒にいることができません。 人魚姫は、王子様とずっと一緒にいたいと、そう思いました。 だから、街の薬屋を訪れ、毒薬を手に入れました。 隣国の姫様に処刑される前に、病気に見せかけて、殺してしまおうと思ったのです。 そうしたら、王子様と一緒にいることができます。 毎日、隣国の姫様の料理に、少しづつ毒薬を入れました。 隣国の姫様は少しづつ弱っていきます。 人魚姫は、焦らず、周りに変に思われないように少しづつ、毒を入れていきました。 けれど、ある日それはばれてしまいました。 台所に入る人魚姫を、家来が見ていたのです。 人魚姫は魔女として、処刑されることになりました。 王子様は、優しい人魚姫がそんな恐ろしいことをしたことに悲しみました。 自分のせいだと、苦しみました。 そんな王子様を見ながら、人魚姫は悲しみました。 王子様を苦しませたことを、後悔しました。 ごめんなさい、と何度も謝りました。 処刑上へ連れて行かれる時に、隣国の姫様を見ました。 隣国の姫様は、自分を指さして笑っていました。 とても楽しそうに笑っていました。 隣国の姫様を見て、人魚姫は祈ります。 「神様、神様、もう一度だけ生き返らせてください。隣の国の姫様にだけは、王子様を渡したくないのです」 火あぶりにされて息絶える最後まで、人魚姫は祈りました。 神様は、黙ってその願いを聞き届けました。 四度、人魚姫は王子様と出逢います。 二人は惹かれ、結ばれます。 人魚姫は考えました。 どうしたら王子様とずっと一緒にいることができるのだろう。 そして隣国の命令を聞かなければいいと思いました。 人魚姫は、王子様に伝えました。 隣の国が攻めてくるから、国を強くしたほうがいいと。 結婚すれば助けてくれるというが、それは嘘だ。 隣の国は油断したところで、この国を滅ぼそうとしていると。 人魚姫のことを愛している王子様はそれを信じました。 心優しく美しい人魚姫の言うことを、国の人たちも信じました。 みんなで訓練をして、武器を揃え、国を強くしました。 そして隣国の使者が現れた時、その使者を殺してしまいました。 隣国と、戦争がはじまりました。 けれど強い強い隣国は、簡単にこの国を滅ぼしました。 王子様と一緒に剣で切られながら、人魚姫はまた祈りました。 「王子様と一緒に死ぬことが出来て、幸せです。とても幸せです。でももし叶えてくれるなら、もう一度王子様と出会いたい」 神様は、これが最後だと言って、生き返らせてくれました。 最後の機会を、人魚姫は無駄にしませんでした。 人魚姫は税金を重くし、農民を兵として訓練し、周りの小国を滅ぼし、国を強くしました。 畑は荒れ、人は疲弊しましたが、兵は強くなりました。 足りない食料は、周りの小国から奪いました。 国を守るための砦を、奴隷たちに作らせました。 そして、隣国と戦争をし、今度こそ勝ちました。 首を斧で落とされる隣国の姫様見て、人魚姫は満足です。 辺りは血と炎で覆われていますが、人魚姫は満足です。 隣には大好きな王子様がいます。 人魚姫は満足です。 もう誰にも邪魔されません。 人魚姫は満足です。 神様が、人魚姫に問いかけました。 「満足か、人魚姫」 「はい、私はとても、満足です。ありがとうございます、神様」 「私は、お前を人間にするべきでは、なかっただろうか」 人魚姫は笑います。 「私は、ようやく人間になれました。これで、人間になれました」 人間となった人魚姫は笑います。 人魚姫の心に後悔はありませんでした。 満足そうに笑います。 恋を知り人間となった人魚姫は、とても幸せだったのです。 |