人魚姫は綺麗な海に沈み、泡となってしまいました。
人魚姫の心に後悔はありませんでした。

彼女はただ、王子様の幸せだけを望み泡となりました。
恋を知った人魚姫は、とても幸せだったのです。
人魚姫は満足です。

美しい人魚姫の心を知った神様は、その悲しい恋を憐れみました。
そして、彼女を人間にしてあげたのです。



***




人間になった人魚姫は浜辺で目を覚ましました。
目の前には、大好きな王子様の姿がありました。

「だいじょうぶかい?」

心配そうな王子様に、人魚姫は驚きながらも、はい、と答えました。
そして驚きました。

声がなんと出るのです。
そして、足も魚の尾ではなく、人間のままです。

自分は泡となって消えたはずなのに。
不思議におもっていると神様の声が聞こえました。

「お前の美しい心にめんじて、人間にしてやろう。そして、最初からやりなおさせてやる」

その言葉に、人魚姫は喜び、そして嬉しくて泣きました。
王子様と、これでようやく、対等になることができるのです。
人魚姫は心の中で何度も神様にお礼をいいました。

泣きだした人魚姫を王子様がおろおろしながら見つめています。
人魚姫は、大丈夫だ、と言いました。

そしてずっとずっと言いたかった事を、伝えたのです。

「あの嵐の晩、あなたを助けた時から、あなたをずっと好きでした」

好きだという言葉を、ようやく伝えられたのです。



***




真実を知った王子様は、人魚姫にとても感謝しました。
そして誰よりも美しく優しい人魚姫にすぐに恋をしました。

美しい王子様と人魚姫は、誰からも祝福される二人となりました。
王子様は頼もしく賢く、よい王様になるだろうと尊敬されていました。
美しく優しい人魚姫は、よい王妃様となるだろうと、慕われていました。

けれど、運命は二人を引き裂きました。

隣国の使者が、王様の元へ現れ言いました。
王子様と隣国の姫様を結婚させないと、この国と戦争をする、と。

隣国は強い兵力を持った国です。
もっともっと国を強くしようと、前から色々な国と戦争をしていました。
そしてさらに大きくなった隣国と、この国では最初から勝負にはなりません。

幸い、隣国の姫様は、美しいこの国の王子様を好きでした。
だから、結婚すれば、この国を滅ぼさないでくれると約束しました。

王様は悩みました。
そして、王子様にそのことを告げ、頼みました。

「この国のために、隣の国の姫様と結婚してくれ」

王子様は悩みました。
王子様は、とっても人魚姫のことが好きだったからです。

けれど、この国の多くの人と、自分の恋を引き換えにすることはできませんでした。
王子様は、この国の王子様だったからです。
王子様は泣きながら人魚姫に謝ります。

「君のことが好きだけど、君とは結婚できません」

人魚姫も泣きました。
けれど、王子様の優しい心を、踏みにじることはできません。

「たとえ王子様と結婚できなくても、私は王子様がずっと好きです。ずっとそばにいます」

美しい人魚姫の心に、王子様は感謝して、また泣きました。
そして王子様は隣国の姫様と結婚しました。

人魚姫は悲しかったけれど、我慢しました。
王子様は人魚姫のことが好きだといいました。
そして今は言葉を話すことができます。
ずっと一緒にいることができます。

それならいいと、思ったのです。

けれど隣国の姫様はそれが気に入りませんでした。
王子様の心が人魚姫に向かっているのが許せなかったのです。

隣国の姫様は、人魚姫が魔物の娘だと噂を流しました。
そしてこの国を滅ぼすとして、処刑したほうがいいと言いました。

王子様は必死に反対しました。
けれど、強い権力を持つ隣国の姫様には逆らえませんでした。
結局、隣国との関係が悪くなるのを恐れた国の大臣たちも賛成して、人魚姫を処刑することになりました。

処刑場で磔にされた人魚姫は、それでも心は穏やかでした。
今まで自分を慕ってくれていた人たちが、魔女だといって石を投げます。
ひどい言葉を言います。
けれど、心は穏やかでした。

王子様は、自分が好きだと、わかっていたからです。
それだけで、幸せだったからです。

王子様が泣いているのが、それだけが心配でした。
王子様が幸せになってくれればいいと、そう願いました。

槍でさされる時、人魚姫は穏やかに笑っていました。
そして、最後に言いました。

「王子様が、好きでした」

胸を張って、言いました。
そして、人魚姫は死にました。

神様はまた悲しみました。
人魚姫の美しい心が踏みにじられたことを、憐れみました。
そして、もう一度だけ生き返らせることにしました。

「お前が望むなら、もう一度だけ生き返らせてやろう」
「王子様とまた会えるなら、私は何度でも、生き返りたいです」

その願いを聞き届け、神様はまた人魚姫を生き返らせました。



***




人魚姫はまた王子様と出会うことができました。
そして心を通わせ、結ばれました。

人魚姫は幸せです。
でも、人魚姫は、もう王子様と離れたくないと思いました。
もう一度、神様が生き返らてくれるかは、わかりません。
ずっとずっと、王子様と一緒にいたいと思いました。
別れることが、怖くなりました。

けれど、また隣国の使者はやってきました。
王子様は泣きながら、人魚姫に別れを告げます。
仕方なく、人魚姫はそれに頷きます。

けれど、このままではまたこの前の繰り返しです。
このままでは、王子様と一緒にいることができません。
人魚姫は、王子様とずっと一緒にいたいと、そう思いました。

だから、街の薬屋を訪れ、毒薬を手に入れました。
隣国の姫様に処刑される前に、病気に見せかけて、殺してしまおうと思ったのです。
そうしたら、王子様と一緒にいることができます。

毎日、隣国の姫様の料理に、少しづつ毒薬を入れました。
隣国の姫様は少しづつ弱っていきます。
人魚姫は、焦らず、周りに変に思われないように少しづつ、毒を入れていきました。

けれど、ある日それはばれてしまいました。
台所に入る人魚姫を、家来が見ていたのです。

人魚姫は魔女として、処刑されることになりました。

王子様は、優しい人魚姫がそんな恐ろしいことをしたことに悲しみました。
自分のせいだと、苦しみました。

そんな王子様を見ながら、人魚姫は悲しみました。
王子様を苦しませたことを、後悔しました。
ごめんなさい、と何度も謝りました。

処刑上へ連れて行かれる時に、隣国の姫様を見ました。
隣国の姫様は、自分を指さして笑っていました。
とても楽しそうに笑っていました。
隣国の姫様を見て、人魚姫は祈ります。

「神様、神様、もう一度だけ生き返らせてください。隣の国の姫様にだけは、王子様を渡したくないのです」

火あぶりにされて息絶える最後まで、人魚姫は祈りました。
神様は、黙ってその願いを聞き届けました。



***




四度、人魚姫は王子様と出逢います。
二人は惹かれ、結ばれます。

人魚姫は考えました。
どうしたら王子様とずっと一緒にいることができるのだろう。
そして隣国の命令を聞かなければいいと思いました。

人魚姫は、王子様に伝えました。
隣の国が攻めてくるから、国を強くしたほうがいいと。
結婚すれば助けてくれるというが、それは嘘だ。
隣の国は油断したところで、この国を滅ぼそうとしていると。

人魚姫のことを愛している王子様はそれを信じました。
心優しく美しい人魚姫の言うことを、国の人たちも信じました。
みんなで訓練をして、武器を揃え、国を強くしました。

そして隣国の使者が現れた時、その使者を殺してしまいました。
隣国と、戦争がはじまりました。

けれど強い強い隣国は、簡単にこの国を滅ぼしました。
王子様と一緒に剣で切られながら、人魚姫はまた祈りました。

「王子様と一緒に死ぬことが出来て、幸せです。とても幸せです。でももし叶えてくれるなら、もう一度王子様と出会いたい」

神様は、これが最後だと言って、生き返らせてくれました。



***




最後の機会を、人魚姫は無駄にしませんでした。
人魚姫は税金を重くし、農民を兵として訓練し、周りの小国を滅ぼし、国を強くしました。
畑は荒れ、人は疲弊しましたが、兵は強くなりました。
足りない食料は、周りの小国から奪いました。
国を守るための砦を、奴隷たちに作らせました。

そして、隣国と戦争をし、今度こそ勝ちました。

首を斧で落とされる隣国の姫様見て、人魚姫は満足です。
辺りは血と炎で覆われていますが、人魚姫は満足です。

隣には大好きな王子様がいます。
人魚姫は満足です。
もう誰にも邪魔されません。
人魚姫は満足です。

神様が、人魚姫に問いかけました。

「満足か、人魚姫」
「はい、私はとても、満足です。ありがとうございます、神様」
「私は、お前を人間にするべきでは、なかっただろうか」

人魚姫は笑います。

「私は、ようやく人間になれました。これで、人間になれました」

人間となった人魚姫は笑います。
人魚姫の心に後悔はありませんでした。
満足そうに笑います。

恋を知り人間となった人魚姫は、とても幸せだったのです。





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