「お帰りなさいませ、峰矢さん」
「ああ」

長年勤めている家政婦が玄関先に出てきたので、荷物を預ける。
相変わらず無駄に広くて無駄に華美な家だ。
全部取り払ったて捨ててやったら、きっとすっきりするだろう。

「お、お帰り、峰兄」
「ああ、ただいま」

靴を脱いでいると、弟が小走りに駆け寄ってくる。
憧憬に溢れた犬のようなその目を見ていると、軽くうざったさを感じる。
思いっきり殴ってやったらどういう反応をするのだろうとたまに思う。
それでも俺に憧れて後ろを着いてくるのだろうか。

俺と接する人間は、二極化することが多い。
嫉妬し敵意を持つか、憧れすり寄ってくるか。
鷹矢は分かりやすく後者だ。
自分に自信のない人間ほど、俺に憧れ理想を重ねる。
まあ分を弁えて必要以上に出過ぎないから、邪魔にならないので放置しているが。

「鷹矢」
「守」

後ろにいた同居人が、鷹矢に駆け寄っていく。
珍しく楽しそうに口を綻ばせながら、持っていたケーキ箱と大きな紙袋を差し出す。

「これ、ケーキ。友達からおいしい店聞いたんだ。後、こっちが俺が作ったお焼きとぼたもちとおかき。鷹矢甘いもの平気だよな。辛いものの方がよかった?」
「だからお前は親戚のおばさんかよ!どんだけ作ってるんだよ!」

なんだか知らないが俺の弟を気に入っているらしい変態は、つっこまれても嬉しそうに鷹矢に話しかけている。
台所に籠ってるかと思ったら、そんなもん作ってたのか。
本当にアホだな。

「お前、鷹矢を本当に気に入ってるな」
「鷹矢、先輩のこと大好きなんですね。弟って、かわいいですね」

無表情にわずかに喜色を浮かべている。
まあ、鷹矢と寝たいとかいう訳でもないみたいなので、放っておく。
俺より優先させるのは許さないが。

「いらっしゃい。来たのね、黒幡君」

応接室に入ると、まず若づくりのババアが食えない笑顔で俺たちを迎えた。
室内にいる人間を見て、自然と眉間に皺が寄ったのが分かった。

「お久しぶりです。本日はお招きいただきありがとうございます」
「来てくれて嬉しいわ。こちらにいらっしゃい」

奥のソファセットに促されると、先に座っていた人間が立ち上がる。
こちらも笑顔を俺に向ける。

「お帰りなさい、峰矢さん」
「お帰り、峰矢」
「久しぶりだな」

母に、多忙のはずの父と兄。
また面倒くさい連中が集まっている。

「勢ぞろいだな。何企んでるんだ、ババア」

普段は家にいないことが多い親父と兄貴までいるってことは、何かあるのだろう。
ババアは俺がこいつらに会うのを嫌がっているのを知っているから、呼ぶ時は在宅の時間帯を避けていた。

「あなたが帰ってくるし、黒幡君連れてくるって聞いて、皆会いたがったのよ」
「それだけじゃねえだろ」
「ついでに雑誌の取材が入ってるの。勿論貴方も参加よ」
「聞いてねえぞ」
「言ってないからね」

本当に食えないババアだ。
何がついでだ、最初っから仕組んでやがったな。
池の人間として雑誌に載るのは、俺にとってメリットはない。
家に縛られる気もないし、七光だの訳の分からないことを言われるのも御免だ。

「付き合ってられねえな」
「峰矢さん!」

踵を返そうとすると、母のヒステリックな声が響く。
キンキンうるさくて頭痛がする。

「あら逃げるの?」
「お義母様もそういうこと言わないでください!峰矢さん、少しだから我慢して、ね」

媚びるように笑う母の態度に、苛立ちがいや増す。
しかし、ここで帰っても、後々面倒そうだ。
俺は話の通じない母を無視して、ババアに向き直る。

「主旨と俺のメリットは?」
「池家の家族の紹介ですって。誰が読むのかしらね。あんたは家業を継がず好き勝手やってる新進気鋭の芸術家の孫って紹介するわよ。作品も載せる。掲載はある程度のステータスのある人間がターゲットの経済誌。いい宣伝でしょ。メリットでしょ?」
「へえ、珍しいな」

俺が芸術で食っていくというのを認めていない家族は、俺が池の名を使うのを禁止している。
それは全然構わないが、今回はそれを全面に押し出すってのはどういうことだ。

「あんたもようやく金持ちボンボンの遊びだの、七光だの言われないぐらい名前が売れてきたしね。道楽気分でやってるお絵かきじゃ池の名の恥だけど、今ならこちらのメリットにも多少なるわね。まだまだだけど」

本当に口の減らねえババアだ。
まあ、そういうことならこちらにしても悪い話じゃない。
もう池の名に負けることもない。

「典秀は?」
「承諾済みよ。掲載前にチェックが条件」
「了解」

それで会話を終了させると、母が悔しそうに唇を噛んでいるのが見えた。
本当に面倒くさい。
俺が手に負えなかった時はババアに押しつけ、うまく実れば収穫は自分のものにしようとする。
なんともエゴイスティックで醜悪だ。

「着替えてらっしゃい。そんな恰好で私の隣に立たないで頂戴」
「こっちも隣に立つなら40年前の女じゃなくて、現役女がいいんだがな」
「峰矢さん、さ、スーツ用意してあるのよ」
「ああ」

母がここぞとばかりにすり寄ってくる。
取材用にかいつもより着飾った発情期の孔雀のような姿。
媚を売るように見上げてくる女の仕草に、甘い香り。
こいつにミルは、香水に失礼だ。

「黒幡君」
「はい」

鷹矢と隅で話していた同居人がババアに呼ばれる。
不思議そうに近寄ると、ババアが有無を言わせぬ口調で言う。

「せっかくだからあなたも写真に映りなさいな」
「は?」
「鷹矢、あなたの服貸してあげなさい」
「え、あ、はい」
「え?え?」

我関せずと他人事でいた変態がこちらを見てくる。
その助けを求めるような視線に思わず笑ってしまう。
ここまできたなら、ババアの酔狂に付き合うのもいいだろう。
毒食らわば皿までだ。

「行け」
「はあ」

俺が命令すると、納得しないまでも頷いた。
そのまま鷹矢に連れられ部屋を出ようとすると、ババアがふと気付いたように言う。

「ああ、もう少し時間があるから先に峰矢の昔の作品を見てきていいわよ」
「え」

無表情な顔が、誰にでも分かるぐらいに輝く。
しかし、それをさせる訳にはいかないだろう。

「後にしろ。使い物にならなくなる。鷹、連れてけ」
「あ、うん」

分かりやすく落胆した変態を連れて、鷹矢が出て行くと、部屋が一瞬静まり返る。
俺も着替えに出ようとすると、ソファに座っていた兄が話しかけてきた。
一見、鷹揚に笑う余裕に満ちた優しげな大人の男。

「元気だったか。最近益々名前が売れてるみたいだな。色々なところでお前について聞かれるようになった」
「おかげさまで。条件は突破できそうだ。家は頼んだぜ、兄貴」
「ああ、勿論だ。お前は自由にやるといい。精一杯の援助はするから」
「必要ないぜ?」
「はは」

本当に必要ないんだよ。
あんたと違って、俺は甲斐性あるもんでな。
あんたに優位を感じさせるために、援助を受ける義理もない。

俺と接する人間は、二極化することが多い。
嫉妬し敵意を持つか、憧れすり寄ってくるか。
兄貴は分かりづらく前者だ。

祖母と母に期待され可愛がられる俺に嫉妬して、俺に敵わないことに屈辱を感じている。
けれどそれを表に出すことは更に屈辱だと知っているので、理解のある兄の仮面をかぶる。
しかし兄のこの態度は俺に処世術を学ばせてくれたので感謝している。

笑顔の裏で俺のことをヒモだの、家の役に立たない出来そこないのクズだの言ってたのは、昔のあんたの彼女達が、全部教えてくれた。
まあ、俺はあんたに好かれようが嫌われようがどうでもいい。
俺がうまいことこの家から脱出できるように、せいぜい頑張って跡取り息子をやってくれ。
適材適所でいいことづくめ。
期待してるぜ霧矢兄さん。

「峰矢さん、やっぱりそんな危なかっしいこと続けるの?家のお仕事しながら、趣味でやっていってもいいじゃない」

癇に障る女の声が、俺の神経を逆撫でする。
本当にこの女の口に泥でも詰めて踏んでやれば、いい加減黙ってくれるだろうか。

「和子」
「だって、あなた。あなたからも言ってください。芸術家なんて、今はよくても先はどうなるか」

俺の不機嫌を感じ取ることぐらいは出来る父が、母を止める。
けれど馬鹿は止まらない。
この女の腹に十月十日もいたことが、俺の人生の汚点だな。

「峰矢、文句を言う前に、何も言わせないぐらいの実績を作りなさい」
「分かってるよ、お祖母様」

俺が暴れ出す前に、ババアがさっくり釘をさす。
檻とも感じる馬鹿ばっかりの家の中、このババアだけが幾分マシだ。



***




「馬子にも衣装だな」

落ち着く暇なく訪れた雑誌のカメラマンとライターと編集が手早くインタビューと撮影を済まして行った。
本当に同居人は、俺の大学の友人ということで写真を撮られ、才能あふれる先輩に憧れる後輩と言った感じで、コメントをまとめられていた。
まあ、嘘ではないな。
鷹矢の昔の服を着て、普段にない格好をした同居人は手入れのされていない髪も整えられて小ざっぱりとしている。
カジュアルなスーツは、しかしやや大きめだ。

「背はいいんだけど、横が足りないよな。お前ガリガリ」
「鷹矢、結構いい体してるんだな。俺も大分食べるようになってるんだけどね」

服の裾を直されながら、変態は渋面を作る。
昔よりは食べるようになったと言うが食は細く、抱くと骨が当たるぐらい貧弱だ。
もうちょい肉付きが欲しいところだ。

「黒幡君、だったかしら。はじめまして。先ほどはご挨拶も出来なくてごめんなさい」
「はじめまして。こちらこそご挨拶が遅れて申し訳ございません。いつも池さんにはお世話になっています」

母がソファに促し、お茶を勧める。
変態もそつなく頭を下げた。
父も兄も興味深そうに、俺と同居なんて出来る変わり者を質問攻めにする。

「黒幡君も、峰矢と同じ学校なんだっけ?」
「はい、先輩の二つ下の学年となります」
「何学科なんだい?」
「芸術学科です」
「峰矢と暮らすのは大変だろう。苦労してるんじゃないか?」
「いえ、俺は先輩の世話になるばっかりで、助かってます」

非常に退屈な時間を過ごしていると、母がちらりとこちらを見ながらいやらしい声を出す。
本当に面倒くさい女だ。
実母じゃなければ、殴り倒している。

「あなたのご両親も心配されているのじゃないかしら?芸術なんて、将来が不安定でしょう?」

同居人は質問を受けて、気を悪くするでもなく小さく首を傾げる。

「そうですね。確かにつぶしの効かない学問です。でもそれゆえに専門性もあるし、道もそれなりに沢山あります。後は努力次第ですね」
「でも、もっとちゃんとした学部に入って、普通にお勤めした方が安心でしょう?」

自分の決めた範囲内の物事しか認められない、哀れな女。
自慢の出来のいい息子が、『ちゃんと』していないのが気に食わなくて仕方ないらしい。
こんなことなら昔のまま私の子供じゃないって思ってもらっていた方が楽だった。

「そうかもしれませんね。でも、好きなものを諦めて一生後悔して愚痴愚痴言いながら、死んだように生きるのってつまらないと思いませんか?」
「でも!そんなつまらない学問を学んだことを後悔するかもしれないでしょう!」
「そうしたら、また考えればいいんじゃないですか?先のことなんて分からないですから。ちゃんとした学校出ても、就職出来るか分かりませんし」

凍りつく空気。
思わず笑ってしまいそうになる。
空気の読めない馬鹿は、最強だな。
ウザイ女は更にいきり立つ。

「あなたみたいに軽々しい人はそうかもしれませんけどね、峰矢さんは池の家の大事な人間なんです。あなたみたいな責任のない立場の人とは違うんです。こんな、美大なんて入って、本当に何も考えてないんだから」
「ああ、先輩の話だったんですね。失礼しました」

愚痴愚痴とみっともなく喚く女に、変態は動じず一つ頷く。
それから紅茶を啜り、僅かに笑顔を作る。

「無理ですよ。創作しない先輩なんて、社会不適合のケダモノじゃないですか。それに先輩、創作やめたら間違いなく死にますよ」

また静まり返る室内。
母が顔を真っ赤にして黙りこんでいる。
俺はもう、堪え切れなさそうだった。
けれど俺が笑いだす前に、高い澄んだ声が響く。

「おっほほほほ、おほほ」
「お義母様!」
「あなたの負けよ、和子さん。同居人の方が、母親よりも峰矢を理解しているようね」

誰よりも嫌いな義母に鼻で笑われて、母が怒りで更に顔を紅く染める。
ああ、いい色だ。
その上からブルーで色を重ねたらきっと綺麗な絵が出来るだろう。

「失礼します!」

机を叩くようにして立ち上がり、応接室から足早に出て行く。
楽しげに笑う祖母に、苦虫を噛みつぶしたような顔をする父と兄。
困ったように周りを見回す鷹矢と、不思議そうに首を傾げる馬鹿。

「すいません、俺、なんか失礼なこと言っちゃいましたか?」
「いや、上出来だ」
「そうですか?」
「ああ」
「ならいいです」

父や兄が忌々しそうに見ているのは気にならないらしい。
馬鹿は俺の顔を見て、一つ頷いた。



***




「ほら、着ろ」
「あれ、コート?持ってきてくれたんですか」

和やかなお茶の時間も恙無く済み、待ちきれないようにそわそわとする同居人を連れて実家のアトリエに訪れる。
部屋に入る前にコートを投げつける。
鷹矢が不思議そうに首を傾げた。

「コート?なんで?」
「すぐ分かる」

ドアを開くと、しばらく入っていなかった部屋は、絵具やら油やらの据えた匂いがした。
掃除はしているだろうが、少しのカビっぽさも感じる。
絵の保存のために室内の温度は低めに設定してあり、ひんやりとしていた。
電灯をつけると、最後に見た時のまま、それはそこにあった。
作り終わってしまった作品に、それほど興味はない。

「ほら、後は好きにしろ」
「はい」

後ろにいた馬鹿を促し、中に入れる。
白い顔を上気させ、勢いこんでアトリエに踏みいる。
横で息を飲む音がする。

「あ………」

部屋に入ってすぐの壁には、俺の初めての『作品』が飾られている。
三畳ほどの紙に、無造作にまき散らされた色。
絵というのもおこがましい、無秩序なぶちまけられた色の集まり。

「ま、守?」

鷹矢の驚きを含んだ声。
ちらりと横を見ると、案の定変態は泣いていた。
ボロボロボロボロと大粒の涙を流し、口を馬鹿みたいに開き、突っ立っている。

「う、あ」

涙を拭うことなく呻き、夢遊病のようにふらふらと部屋の中に入っていく。
そして部屋の真ん中でぺたりと座りこんだ。

「え、え?」

鷹矢が俺と馬鹿を見比べながら、部屋の中に入るか俺に説明を求めるか迷っている。
その動揺した様子が滑稽で、笑ってしまった。

「行くぞ、鷹」
「え、え、大丈夫なの、あれ?」
「いつものことだ。半日は使い物にならないからほっとけ」

俺が絵を描き始めてから、この家を出るまでの作品がここには残されている。
あいつが愛してやまない作品達。
逃げることは出来ないだろう。

「守ってさ、普通そうに見えて、なんか………」
「完全にイカれた変態」

語尾を小さくした鷹矢の言いたかったことを続けてやる。
弟はちらりと俺を見上げて、それから扉を閉める前に部屋の真ん中で座りこんで泣いている男を見る。

「………なんか、峰兄が、守といる理由、分かった気がする」

そして小さくそんなことを言った。



***




結局変態はアトリエから日が暮れても動かなかった。
まあ、放っておいたら夜が明けても動かなかっただろう。
十時を回ったところで、無理矢理引きずりだして、メシを喰わせた。
母は夕食の席に現れない変態を礼儀がなってないだの、これだから芸術なんてものをやってる人間はだの言っていた。
まあ、どっちも本当だから特に反論はしなかった。

どうせ今日は帰れないだろうと思っていたので、実家に泊まることにする。
客間に突っ込んできた興奮冷めやらぬ様子の同居人は、顔を上気させてふわふわとして夢見心地だった。
俺は必要ないのに残されている自室で、暇つぶしにベッドに寝転びながら本を読む。
だらだらと眠気が訪れるまで待っていると、扉が軽くノックされた。

「誰だ?」

言いながら、なんとなく予想はついていた。
ノックの音は、とても馴染んだものだった。
果たして、聞こえてきたのは予想通りの声。

「先輩、黒幡です」
「入れ」

許可すると、同居人は遠慮なく部屋の中に入ってくる。
鷹矢が貸した大きめのパジャマを着て、いつもより余計に細く見えた。

「どうした?」

答えずに、まっすぐに俺のいるベッドに向かってくる。
背の高い男が乗りあげると、スプリングがギシリと音を立てて軋んだ。
そのまま投げ出した俺の足に座り、首に巻き付き、キスをしてくる。

「ん」

入ってくる舌に応えずにいると、苛立ったように自分の舌で誘いだそうとする。
喉で小さく笑うと、ムキになって俺の口内を探る。

「は、あ」

ひとしきり味わうと、体を少し離し、熱っぽい息を吐く。
その目はさっき見た時のまま興奮していて、白い肌を赤く染めていた。
赤く染まった濡れた唇を誘うように舐めて見せつけてくる。

「発情期の雌犬だな」
「先輩のせいです。興奮して熱が冷めないんです。冷ましてください」

俺の昔の作品を見て、発情しているらしい。
足に触れる感触ですでに勃っているのが分かる。
本当にどこまでも変態だ。

「先輩、先輩、先輩」

動かない俺に焦れて、何度も繰り返し呼びながら、キスを繰り返す。
唇に、目尻に、頬に、首に、胸に、手に。

「人様の家で、よくセックスしようとか思えるな?」
「駄目です。我慢できません。お願いです、先輩、俺に欲情してください」

俺のTシャツの裾から手を入れてきて、撫でまわす。
自分の勃ったものを、俺のモノに擦りつけるようにゆったりと腰を振る。
その間にも首筋を舐め、噛みつき、必死に俺の気を引こうとする。

「ベッドを汚すつもりか?明日には何をヤったか丸わかりだな」
「汚さないように、全部俺の中に注いでください。一滴たりともこぼさないで」
「お前の大声で、家の人間全員起きるかもな」

言うと笑って、唇に吸いついてくる。
舌はいれずに、唇をただ吸って、舐める。

「ずっと塞いで?俺の声を一つ残らず飲みこんで」

淫蕩に笑う顔は、すでに理性はぶっ飛んでいるらしい。
どこが普通の人間なんだか。
常識も何もない、発情期の雌犬だ。

「お前の大声は塞ぎきれねえよ。縛った方が早そうだな」

嘲笑ってやると、変態は想像して余計に興が乗ったらしい。
俺に体を擦りつけ、無邪気に笑う。

「ああ、そうしてください。口も手も足も縛って、好きにしてください。物のように抱いてください。俺をあんたの玩具にして」

思わず、苦笑が漏れる。
俺をこんな風に笑わせるのは、こいつぐらいだ。
本当にこいつは、俺を楽しませる。

「救いきれない淫乱だな」
「俺を興奮させるのは、あんただけです」

腰を引き寄せ唇に噛みつくと、男は高い声を上げた。





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