10/01/24 泣いた

朝、家に行っていい?って柴村からメールがきた。
別に予定もないからいいって言った。
ちょっと怖かった。
でも、とりあえず話す機会があることが嬉しかった。
嫌われるにしろ、なんにしろ、ちゃんと話してからにしたい。
嫌われる理由もはっきりしないのは、辛い。

母さんは友達と出かけちゃったし、家には誰もいない。
お茶淹れて、朝作ったクッキーがあったから出した。
柴村は最初無言だった。
だから、自分から話した。
怖かったけど、頑張った。

俺は、柴村が好きだ。
友達でいてほしいと思う。
嫌われたらしょうがないけど、出来ればなんで嫌ったのか、知りたい。
全部は無理だけど、直せるなら、直したい。

柴村は驚いていた。
やっぱりこういうのはウザかっただろうか。
キモイだろうか。
そう思ったら、柴村は大笑いし始めた。
お前って直球だよなあって困ったように笑って、それから謝られた。

お前を嫌ったわけじゃない。
前に好きな奴がいるって聞いてたから、あいつがそうかもって分かった。
その時、やっぱり少しひいたし、理解できないって思った。
それに、一瞬喜んだ。
そんな自分が、最高に嫌で、どうしたらいいか分からなかった。

喜んだ?なぜ?

俺、お前に話しかけたのって横井がきっかけなんだ。
横井が、お前ってどんな奴って聞いてきたから気になって話しかけたんだ。

そうだったのか。
なんでお前話しかけてくるんだろうって思ってた。
変な奴って思ってた。

正直に言ったら、大きくため息つかれた。
変な奴って言ったのまずかっただろうか。
一瞬ビビったけど、柴村はやっぱり困ったように笑った。

正直、男同士とか理解できないし、そこは応援はできない。
でも結局そんなの関係ないって思ったし、俺もお前のこと好きだし、友達でいたいと思う。

そう言われて、ほっとして、本当にほっとして、泣いてしまった。
泣くつもりないのに、ボロボロ涙が出てきた。
予想以上に自分がビビッていたのを、その時知った。
ありがとうって何度も言ったら、俺こそごめん、ありがとうって言った。

本当に嬉しかった。
柴村がいい奴で、よかった。


10/01/25 もう一回

久々に気分が晴れた。
いい月曜日だ。
二日も休んでしまったからちょっと学校行きづらい。
でも、柴村からも横井さんからも待ってるねってメールが入ってた。
嬉しい。
だから頑張ろう。

学校行ったらみんな挨拶してくれた。
何人かは体平気かって聞いてくれた。
みんな、いい人だ。
嫌なところもあるかもしれないけど、基本的にいい人達だ。
そんなものなのかもしれない。

柴村と横井さんは特に喜んでくれた。
横井さんのしょうが湯のおかげだって言った。
よかったって笑ってくれた。
本当に横井さんかわいい。

柴村には何があったか全部話した。
深山に告白されて、付き合うことになった。
最初は好きじゃなかったけど、どんどん好きになっていった。
深山が好きだった。
でも、深山は最初から俺のことが好きでもなんでもなかった。

裏切られたと思った。
だから、悲しかった。
辛かった。
恨んだ。
ムカついた。
また、裏切られたと思った。

柴村は、本人に確かめたのかって聞いた。
本人が言っているのを聞いたのだ。
誤解でもなんでもない。

あの人、お前ともう一度話したいって言ってた。
お前を傷つけた。謝りたい、そしてもう一度話したいって言ってた。

その言葉に肺の辺りがダッシュ10本やった後みたいにキリキリ痛んだ。
持久走やった後みたいに、息が苦しい。
話すの怖い。

俺は昨日言ったように応援もしないし、何もアドバイスできない。
でも、あの人、真剣だった。
柴村が、そう言った。

もやもやしたままバイト行った。
今日はいくみさんだった。
金曜日はご迷惑おかけしましたって頭下げた。
しょうがないわよ、大丈夫?無理しないでよ!っていつもの勢いでまくしたてられた。
やっぱり苦手。
でもいい人。
嫌いじゃない。

苦手だけど、嫌いじゃない。
いい人だと思う。

人って、ひとつで決められない。
苦手だから嫌いって訳じゃない。
避けられたからって嫌われたって訳じゃない。

じゃあ、深山もそうなのかな。
そういえば、嫌いとは言われてない。
今日も、メールが入っていた。
まだ見てない。

嫌いだったら、俺がどうでもよかったら、きっとこんなにメールはしてこない。
そうだと、思う。

なら、もう一回だけ、勇気を出そう。
言いたいこと言わないで嫌われるより、言いたいこと言って嫌われたほうがいい。


10/01/26 メールを見た

今日は久々に朝走った。
ちょっと休んだだけですぐなまる。
体が重かった。
だけど気持ちがいい。

中学の最後と高校の始めは走るのが辛くてしょうがなかった。
部活に行くって思うだけで気持ち悪くもなった。
人間関係もそうだけど、俺には走る才能がなかった。
小学校の頃はなんだってずっと一位で、俺は誰よりも速いんだと思った。
でも中学校に行ったらそんなのすぐに勘違いだって気づいた。
走るのがどんどん嫌いになっていった。
部長なんてやってたのに、部活が嫌で嫌でしょうがなかった。
でも今、走るのは気持ちがいい。

お弁当も作って、横井さんとおかず取り換えたりした。
師匠には敵う気がしない。
毎日献立考えるのも大変だ。

バイトに行ったら、今日は店長さんの日だった。
テンホウさんもいた。
最近あの子見ないわね。忙しいの?って言われた。
言葉に詰まった。
それでケンカしたの?って聞かれた。
また言葉に詰まった。

テンホウさんが言った。
人との繋がりなんて作るのも失うのも一瞬だ。
店長さんが言った。
うるさいかもしれないけど、好きな人だったら後悔しないようにした方がいいわよ。
明日謝ろうって思っても、明日にはその人がいるかどうかは分からないんだから。

そういえば店長さんの旦那さんは亡くなっていた。
頑張ろうって思ったけど、怖くてまだ動いてなかった。
メールも見てなかった。
また明日って思っても、もう遅いかもしれない。

家に帰って、勇気を出してメールを見た。
ほとんど同じ文面だった。

すまない。傷つけた。悪かった。
誤解とは言えない。確かに嘘をついた。けれど、騙すつもりはなかった。
一度話したい。

1時間考えて、メールを返信した。
こんなに緊張したの、いつぐらいだろう。
初めての大会だったかな。
まだ手遅れじゃなければいい。

明日会える?話したい。

すぐに返信が来た。

ありがとう。明日なら大丈夫だ。


10/01/27 ■に■■■げ■■消え■い

深山と会わなかった。
ごめん、今日は無理だってメールだけした。
分かった。都合がよくなったら教えてくれとだけ返事が来た。

深山のところに行く時に、駅前で生野に会った。
久しぶりだな、元気か、また今度遊ぼうぜ、とか言われた。
お前連絡くれなくなって寂しいとか言っていた気がする。
よく覚えてない。
自分がなんて返したかも覚えてない。
笑えていただろうか。
ちゃんと返事していただろうか。

中学の最後の大会の前のことを思い出した。
手入れしようと思っていた靴を忘れて、部室に戻った。
何人かが残っていて、中から会話が聞こえた。

あいつ、リレーの選抜、監督から言われて諦めたらしいよ。
自分から言えよなあ、そんな速くないんだしさ。
本当に空気読めないよな。
部長だからってえばりすぎだよな。
また部のためになるならいいです、とか言ってたのかな。
うざいよなあ。いい子ぶりっこめっちゃうざい。
誰もお前なんて頼ってないって。
マジウザイ。この前ちょっとサボっただけでうるせーつの。お前先生かよ。
ていうか■われ■■■って諦めるとかプ■イドない■なー。
ま■、■いって分かって■■ろ。いい■だし、先■に■■■■ら■■がな■だろ。
そ■が■■ウ■イよ■■
本■にウ■イ。
つま■■い奴。
真■■ぶって■
つ■■ない■■
■■い方■いい。


10/01/28 落ち着いて深呼吸

昨日は取り乱してしまった。
もう大丈夫だと思っていたけど、やっぱり駄目だった。
結構心に残っているらしい。
中学校の頃、俺は真面目で大人の言うことを聞いて、口うるさい奴だった。
つまらない奴だった。
でも皆に頼りにされてると思っていた。
そんなことなかった。
嫌われていた。
真面目は、つまらない奴だ。
だから不真面目になりたかった。
でもやっぱり、自分は変えられない。

寂しくて、夜に横井さんと柴村にメールした。
他愛のない話をした。
甘えてみた。
相手してくれた。

柴村には、深山に会おうとしたけど、怖くて会えなかったって言った。
まあ、無理して会うことないだろ会いたくなった会えばいいよ、って言われた。
柴村、相談には乗らないっていったくせに、いい奴。

横井さんには、明日のおかず何にしようって聞いた。
ハートの玉子焼きとクマのおむすびはどう?って言われた。
いや、それはかわいすぎて無理。
じゃあ、ブロッコリーをハムで巻いて、冷えてもおいしいしょうが焼は?
それはおいしそう。教えて。
じゃあ、レシピ書くねって、メールでレシピ書いてくれた。
横井さんかわいい。
師匠大好き。

学校へ言っても二人は普通に話しかけてくれた。
もしかしたら、この二人も俺のことウザイって思ってるかもしれない。
でも、笑ってくれてる。
話しかけてくれてる。
ウザイって思われてても、少しは好きでいてくれてるんじゃないだろうか。

もしそう思ってもいいなら、生野もそうだったんじゃないだろうか。
俺のこと嫌いでも、少しは友達だと思っていてくれたんじゃないだろうか。

前までは、そんなこと思えなかった。
考えつかなかった。
でも、そう思えた。
そう思いたい。
前向きに考えたい。

深山はどうなんだろう。
俺のこと好きでもなんでもなかったって言っていた。
でも、少しは好きになってきてくれたんじゃないだろうか。

今度こそ聞こう。
勇気を出したい。

言いたいこと言わないで嫌われるより、言いたいこと言って嫌われたほうがいい。


10/01/29 どんなに頑張ったって無理なものは無理

頑張ろう!って思ったり、もうやっぱり駄目だ!って思ったり忙しい。
前向きになったり後ろ向きになったり。
人に嫌われる、好かれてないのは辛い。
それが自分が好きな人間なら余計に。
テンションが上がったり下がったり疲れる。
もうどうでもいいって思ったりもする。
でも、やっぱりそれは嫌だ。
深山なんて大嫌いだ、て思ったけど、でもやっぱり話したい。

勇気を出す。
逃げても何も変わらない。

深山にもう一度メールをした。
日曜日に会うことになった。

いくみさんに暗い顔してるわね、鬱陶しいわよ!って言われた。
ひどい。

人に嫌われないようにするにはどうしらいいんでしょう。
知らないわよ。
そうですか。
人に好かれようとして行動したって、全員に好かれるなんて無理だもの。だったら思うように行動して嫌われた方がいいわよ。

相変わらず無茶苦茶だ。

私はこんな性格だし、美人だから敵多かったけど、旦那とか色んな人が好きって言ってくれたもの。だからそれでいいわ。全員に好かれるなんて無理。

最後に、私は君のこと好きよ、て言ってくれた。
答えに困ったけど、なんか、ちょっと楽になった。

無理なものは無理。
それなら、好きなようにする。


10/01/30 誰かのための料理

今日はは師匠のお料理教室。
やっぱり柴村と八代さんが着いてきた。
嬉しいけど。

柴村に大丈夫か?て聞かれた。
平気って答えた。
横井にあの話したか?
してない。

そうか、て困った顔してた。
なんだろう。
悩みがあるなら言って欲しい。
俺じゃ役にたたないだろうが。

今日は簡単に出来るお菓子、パンプティングとお弁当用の見栄えのするサラダとあられの唐揚げを教わった。
さすが師匠だ。
パンの入ったプリンうまかった。
柴村がうまいうまいと何個も食ってた。
相変わらず食う専門。

やっぱり料理は楽しい。
料理器具ほしい。

そういえば今月のバイト代、まだ何も使ってない。
欲しいものいっぱいあったはずなのに。
部屋の隅にランニングシューズと一緒に登山靴がある。

明日、お弁当を作って深山の家に行こう。
また、山に登れるだろうか。





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