10/02/14 落胆

今日は彼と会う約束だったが、彼の都合が悪くなったと言うことだった。
とても残念だ。
家でサイトの更新や、情報収集などを行っていると、冬兄さんがやってきた。

冬兄さんは、機嫌が悪いようだった。
いい加減、子供みたいな態度はやめろと言われた。
何を言われているのかよく分からないので、どういう意味なのかと聞いた。
冬兄さんは気分を害したようだった。
父さんも母さんもあんなにお前を心配しているのに、お前はいつまでそういう態度なんだと言われた。
父さんや母さんが僕のことを気遣っているのは知っている。
だから僕も精一杯気遣わせないようにしてきたつもりだったが、まだ駄目なのだろうか。
それはとても申し訳ない気分になる。

ごめん、もっと頑張って、迷惑をかけないようにする、と言った。
冬兄さんはますます怒ったようで、頬を叩かれた。
弾みでよろめいて、本を落とした。
音に気付いたのか、千秋が様子を見に来て、冬兄さんを止めた。

とりあえず、冬兄さんの怒りの元は僕のようなので謝った。
冬兄さんは険しい顔をして、部屋を出ていった。
家族に、まだ僕は迷惑をかけているのだろうか。
僕は、どこまでも家族の負担にしかならないのだろうか。
そう考えるのは、とても気分が沈む。

千秋がアイスノンを持ってきてくれた。
そして、冬お兄ちゃんの言うこと、少し分かる、と言った。
晴お兄ちゃんは、もっと、私たちのこと、信頼してくれていいんだよ、と言った。

僕は家族をとても信頼している。
愛している。

千秋の悲しそうな顔だけが、胸に突き刺さった。

10/02/15 不安定

気分が晴れない。
家族といさかいになるのは、とても悲しいことだ。
次に会ったら、冬兄さんに謝っておこう。

聡さんに相談したくなったが、いつまでも聡さんに頼れない。
これ以上、聡さんに迷惑をかける訳にもいかない。
彼に出会って、なんでも聡さんに頼る癖に気付いて、僕はどれだけ聡さんに依存していたかを思い知った。

彼の笑顔が見たいとも思った。
でもこんな気分のまま電話しても、僕は楽しく話せないかもしれない。
ただでさえつまらない人間なのだから。

必然的に、瀬古に話すことになった。
瀬古は聞きたくない話なら容赦なく席を立つから安心できる。
彼や聡さんのように、僕を気遣うことはない。

瀬古とテストの結果や授業のこと、音楽のことなど他愛のない話をした。
途中から森本も入ってきた。
自分のことが嫌いな人間と言うのは、気楽でいい。
これ以上嫌われて無視されたとしても、残念には思うがそこまで気にならない。
瀬古がいてよかった。

10/02/16 庇護者

聡さんが会いに来てくれた。
冬兄さんと喧嘩したと、千秋に聞いたらしい。
映画に連れて行ってくれて、寿司を食べた。
頼ってはいけないと思っても、やっぱりどうしても頼ってしまう。
つい、相談してしまう。

僕は、いまだに家族に迷惑をかけているのだろうかと聞いた。
美晴は迷惑をかけないことが迷惑なぐらい、いい子だよ、と言ってくれた。
聡さんは僕に甘すぎるから、参考にならない。
そう言うと聡さんは笑った。
でも、本当に美晴はいい子だ、誰よりもいい子だ、だからもう少し迷惑かけても誰もお前を嫌わないよ、と言ってくれた。

どこまでも聡さんは僕に甘い。
それでもやっぱり、それが嘘でも、僕はその言葉を嬉しいと思うのだ。
この人の言葉は、僕の心を軽くしてくれる。
それが父と母に頼まれた義務感だったとしても、聡さんは僕の一番の理解者だと思う。
甘えてはいけないと思うのに、甘えてしまう。

10/02/17 夢

夢を見た。
昔の夢だった。

手のかからない子だと言われるのが、誇らしかった。

僕が出来た時は父も母も忙しく、余裕がなかったらしい。
僕は予期せぬ子供だった。
いつか母が友人に言っていたのを聞いた。
産むかどうかをとても迷った、と。
ただでさえ冬兄さんも手がかかるのに、次まで見ていられないと、言っていた。
実際忙しかったらしく、僕はベビーシッターに養育された。
祖母はまだ幼い兄にかかりきりだった。

千秋が生まれた時、祖母も父も母も兄も、とても喜んでいたのもはっきりと覚えている。
女の子が欲しかったのだと、皆喜んでいた。
男の子ばっかりじゃ嫌だと言っていた。

僕は、本来ならいらない子だったのだな、と理解した。
父も母も忙しかった。
年老いた祖母も、一人見るのに精いっぱいだった。
千秋が生まれてからは、体の弱い千秋にみんなかかりきりだった。
僕を見ている余裕は、みんななかった。
話しかけて、迷惑そうな顔をされるのが、怖かった。
僕は、一人でなんでも出来るようにならなければいけないと思った。

でも、一人でなんでも出来るようになれば、みんな褒めてくれた。
テストでいい点をとれば、その時だけは父も母も僕を見てくれた。

泣いてはいけない。
ワガママを言ってはいけない。
いい子でなければいけない。

手のかからないいい子だと言われるのが、とても誇らしかった。
それだけが、外れた存在の僕も、家族でいられる手段だと思った。

10/02/18  痛い

久しぶりに彼に会えた。
彼に会えると思うと、胸が浮つき、とても楽しくなった。
けれど、彼は浮かない顔をしていた。
どこか怪我でもしているような、痛みに満ちた顔をしていた。

どうかしたのか、と聞いた。
彼は泣きそうなに表情を歪め、その表情に、僕の胸まで痛くなる。

彼が笑うと嬉しくなる。
けれど彼が辛い顔をしていれば、僕も辛い気持ちになる。

彼が、しばらくして話してくれた。
クラスの子に、告白された、と。
それが横井さんであることは、なんとなく分かった。

どうしたらいいか、と聞かれた。
聞かれて、一瞬だけ、言葉に詰まった。
嫌だ、と反射的に言いそうになった。
けれど、それは僕が決めることではない。

この前見た、並んで歩いていた二人を思い出す。
隣に立つ二人は、とても似合っていた。
僕なんかよりもずっと、横井さんは彼に似合っていた。
彼は素直で真っ直ぐで努力家で優しくて、本当ならもっと多くの人に愛される人だ。
僕なんかに付き合ってくれたのが、おかしいぐらいの、魅力的な人間だ。

僕はどうしてほしい、と聞かれて、君の思うとおりにするしかないと答えた。

冬兄さんに殴られたところと同じところを殴られた。
彼は泣いていた。
とても痛そうな顔をしていた。

また、僕は何か失敗したのだろうか。
何がいけなかったのだろうか。

分からない。
理解できない。

ただ、痛い。

10/02/19 理解不能

彼にメールをした。
許して欲しかった。
また僕は間違ったのだ。
また僕は彼を傷つけ、泣かせたのだ。

やっぱり返信はない。

肺に石が沢山たまっているかのように、重くて、苦しい。
彼の泣き顔を思い出すだけで、痛みが蘇る。

彼のこととなると、どうして僕はこんなに動揺してしまうのだろう。
彼の存在が、怖い。
彼が理解できない。
何もかもが、理解できない。

彼は、彼女の告白を受け入れるのだろうか。
僕に言ってきたのはどういう意図があったのだろうか。
僕とはもう付き合えないということだったのだろうか。
それは、嫌だと思う。

彼はまるで童話のモンスターのように、僕の心を蝕んで不安定にする。
けれど、彼の存在は春の日差しのように僕の心を温かくしてくれる。

彼が怖い。
彼に会いたい。

10/02/20 返信

何も手がつかない。

彼のメールが返ってこない。




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