09/12/20 買物 |
彼と買い物に行った。 登山をまたしたいと言っていたので、もっと高い山に登るなら靴を新調した方がいいといったところ、バイト代で買うと言われた。 他の道具はいくらでも貸すことも、あげることもできるが靴はそうはいかない。 登山靴は割と高いので心配していたが、店に入って彼の顔色が変わった。 やっぱり高かったらしい。 彼は昔陸上をやっていたらしいので足はしっかりしている、それほど険しい山じゃなければそこまで高い靴ではなくてもいいだろう。 けれど彼は僕と高い山に登りたいと言ってくれた。 援助すると申し出ようかと思ったが、その前に手頃なものを見つけて購入していた。 フライパンとお弁当箱はまた今度だ、と少し寂しそうだった。 なんだか可哀そうだったので、お弁当箱をプレゼントしてみた。 彼がじっと見ていた、4000円ほどの保温効果が優れたお弁当箱。 喜んでもらえるかと思ったのだが、すごく怒られた。 そんな高いものを買ってもらう筋合いはない、そういうのはひいてしまうと怒られた。 靴を援助するつもりだったので、僕にとってはそれほど高いと感じてなかった。 けれど、彼にとっては高く感じ、何もない時のプレゼントには不相応を感じたようだ。 恋人にはなんでも買ってあげるのは当然だという説を雑誌で読んだのだが、彼には当てはまらなかったらしい。 怒らせるつもりはなかったのだが、申し訳ないことをした。 やはり、人を喜ばせるというのは難しい。 結局、僕にお弁当を作ってくれるということで、そのお礼としてもらった。 それでも彼は不満そうだった。 随分と潔癖な人間だったようだ。 少々驚いたが、そういうとこも好ましいと感じた。 クッキーを作ってきてくれていたので二人で食べた。 美味しかった。 彼は料理の才能があるかもしれない。 教えてくれた人がうまかったんだ、と彼は照れくさそうに笑った。 少しだけ、また不思議な感触を覚えた。 この前の感じとは、また違った。 これは一体、なんなのだろう。 それが形になる前に、彼はなぜかすぐに帰ってしまった。 どうしたのだろう。 | 09/12/21 不可解 |
彼と会うたびに、何か不思議な感触が生まれる。 これはなんなのだろう。 胸のあたりが食当たりを起こしたようにむかむかするようなもやももやするような、けれど山に登っているときのように浮き立つような。 なんとも言えない感触だ。 今度聡さんに聞いてみることにしよう。 喫茶店に顔を出すと、彼は調子が悪そうだった。 顔が上気していて、仕事にミスが多かった。 マスター達に帰るように促され、すぐの帰宅となった。 帰り道でやっぱり調子が悪そうだったので、大丈夫かと聞いたら、大丈夫だ、でも帰ると言って走って帰ってしまった。 何か、彼の気に触ることをしただろうか。 メールをしたところ、トイレに行きたかったと返事がきた。 それならよかった。 彼に嫌われるのは、きっと寂しいと思う。 | 09/12/22 瀬古 |
試験の結果が出たが、いつも通りだった。 やるべきことをやっている結果だが、やはりいい結果が出るのは気分がいい。 クラスメイトは、どうやら僕を非難しているようだった。 僕を羨んだり嫉妬したりしているのだったら、その間に勉強した方が有意義だと思うのだが、人はどうしても自分ではなく他人に責任や原因を見つけ出したがるようだ。 瀬古がまた話しかけてきた。 彼は僕を嫌いだというのに、最近よく話しかけてくる気がする。 不思議な人間だ。 なかなか興味深い。 好きな人間はいないのか、と問われたので、沢山いる、と答えた。 恋人はいるのか、と聞かれた。 いる、大切な人間だ、と答えた。 瀬古は驚いていた。 今日も彼のいる喫茶店に行った。 やはり様子がおかしかった。 顔が赤く、動きがぎこちない。 風邪かなにかではないのかと心配になった。 けれどそれだけではなく、僕から視線を逸らしたり、近づかないようにしている気がする。 不快になるようなことをしただろうか。 彼に嫌われるのは、やはり寂しいと思う。 | 09/12/23 電話 |
彼の様子が気になって仕方がない。 けれどなんでもないと言っているからには、僕には聞かれたくないのだろうか。 やはり、彼にも嫌われてしまっただろうか。 僕は人に好かれるような性格はしていないので、それも低い可能性ではない。 昼にクラスメイトと会った。 僕を好いてはいないはずだが、クラスメイト達は律義に誘ってくれる。 僕に利用価値が高いだからだろうか。 瀬古がまた話しかけてきた。 恋人はどんな人間かと問われた。 真っ直ぐで真面目で素直で潔癖で好ましい人物であると伝えた。 しかし、瀬古はなんで僕に何度も話しかけてくるのだろう。 気になったが、ちょうどいいので聞いてみた。 恋人の様子がおかしいのだが、こういう時はどうしたらいいのだろう。なぜか避けられているようだ。 しばらく話した結果、電話をしてみること、また明日はクリスマスイブということもあるので、プレゼントをしてみるという結論に至った。 やはり僕には出来ない発想をするので、人を話すのは面白い。 有意義な時間だった。 最後に瀬古は、なんで僕とこんな話をしているのだろうと自分で疑問に思っていたようだ。 不思議な人間だ。 とりあえず先に帰って、瀬古に促されるまま、電話をしてみた。 彼は出なかった。 夕方になり、プレゼントを買いに行こうとすると彼からメールがあった。 電話しようかと言われたが、店が閉まってしまうので諦めた。 彼が欲しがっていたテフロンのフライパンを買った。 ラッピングをしてくれるということなので、クリスマスらしく包んでもらった。 高価なプレゼントはもしかしたら逆効果かもしれないが、クリスマスという免罪符があるので許してもらえるといい。 彼が喜ぶ顔を思い浮かべると、心がにわかに浮き立った。 | 09/12/24 冬休み |
昨日から冬休みに入った。 朝から、彼にプレゼントを渡すことを考えていたら千秋に楽しそうだと言われた。 最近、なんだかずっと楽しそうに見えると言われた。 なんだか前にも言われた言葉だ。 やはり気付かない内に世界がバラ色になっていたのだろうか。 けれどどうやって呼び出せばいいか迷った。 彼はまだ学校があるようだし、もしかしたら用事があるかもしれない。 わざわざ呼び出すのも申し訳ないので、夜に直接家に行くことにした。 いなかったら、ご家族に渡して帰ればいい。 なんだか長く感じる一日をじりじりと過ごした。 普段だったら没頭してしまう読書も数学も、手につかなかった。 彼は喜んでくれるだろうか、怒るだろうか、嫌がるだろうか。 色々なことを想像した。 僕は人の感情には興味があるし、知りたいと思うが、どんな感情が僕に向けられるかは気にすることはなかった。 けれど、彼には、できれば好意的な感情を僕に向けてくれればいいと思う。 夜に、彼の家の前まで行って、プレゼントを手渡した。 彼は泣きだしてしまった。 最初は驚いたが、どうやら嬉しいということだった。 子供のように素直に泣きじゃくる彼を、気がつけば抱きしめていた。 体格は僕と同じぐらいで、僕よりもしっかりとした頼もしい子なのに、なんだか千秋と同じように頼りなく、守らなきゃいけない存在のように思えた。 彼が喜んでくれたなら、それが何よりも嬉しかった。 彼はお返しにと、クッキーをご馳走してくれた。 目を真っ赤にしてにこにこと笑う彼は、微笑ましかった。 明日はお弁当を作ってくれると約束してくれた。 | 09/12/25 弁当 |
本当は休みだったのだが、制服を着て駅前に行った。 千秋にどうしたのかと聞かれたので、用事があるとだけ言った。 彼は僕がまだ登校があると信じ切っているようだったので、本当はないのだというのは心苦しかった。 それに、作ってくれるというお弁当を断った時の落胆した表情は想像もしたくなかった。 駅前で待っていると、彼がはにかみながらやってきた。 照れくさそうに、あまり期待するなといってお弁当を渡された。 そして、顔を赤くして駅の中に消えていった。 その様子がまた微笑ましかった。 せっかく朝早くに制服を着てでかけたので、電車に乗って海の見える高台の公園まで訪れた。 この時期はまだまだ寒かったが、冬の空気の中の海はとても綺麗だった。 温かいお茶を飲みながら、お弁当を食べた。 不器用な人参の飾り切りが入った旨煮と、葱の入った出汁巻き卵。 ふりかけと海苔の二色の俵側のおにぎりに白身魚のハーブのフライに、ほうれん草の胡麻和え。 プチトマトにブロッコリーが入って、彩りも綺麗だった。 僕のものなんかよりもずっとずっとおいしく、綺麗なお弁当だった。 彼はやっぱり、料理の才能があるのだと思う。 とても、美味しかった。 | 09/12/26 準備 |
今日は千秋の買物に付き合った。 年末年始をハワイで過ごすため、新しい水着が欲しいということだった。 毎年新調しているようだが、意味があるのだろうか。 前に疑問に思ったが女性は美しさを追い求める生き物であり、わずかな色の違いでさえ感じ取るし、一枚布が加わっただけでも見抜ける鋭い目を持っているから、同性の目を意識し、競い合う意味もあるのだと聡さんに教わった。 中々女性も大変だ。 僕も少しは格好を気にしろと言われて服を買わされた。 千秋の水着もついでに買わされた。 僕はアフィリエイトや株などで多少は収入があるのでいいけれど、あまり人にねだるような性格になっても問題かもしれない。 けれど妹はかわいいので、甘やかしてしまう。 そういえば、彼を千秋のようだと思ったが、やはりどこか違う。 同じように守りたいと思うし、かわいいと思うが、微妙にその感情には違いがある気がする。 これは、恋人と妹の違いなのだろうか。 なかなか興味深い。 |