10/01/03 帰宅

長いフライトの後、家に帰ったと連絡したら彼が家まで来てくれた。
彼の顔を見た途端、なんだか疲れが消えていく気がした。
不思議な現象だった。
体は依然として疲れている。
けれど、軽くなったと感じた。
なぜなのだろう。

彼は自転車を乗り捨てると、僕に抱きついてきた。
会いたかったと何度も言われた。
やはりもぞもぞと居心地の悪いような、浮き立つような不思議な感触を覚える。
彼はひたすらに会いたかったと言い続ける。
物語に出てくる長年離れ離れになっていた、恋人同士のように。
こんなに、直接的な表現をする子だっただろうか。
彼もよくわからないけど、テンションが上がってしまったと言って赤くなっていた。
僕と会うことを喜んでもらえるのは、とても嬉しい。

聡さんが年始の挨拶にやってきた。
彼を見て、いきなり笑いだした。
失礼な態度で、彼が少し気分を害していたようだ。

聡さんは少し誤解される言動をするきらいがある。
彼にもできれば親しくなってほしいので、悪い人ではないことを説明した。
分かってくれればいいのだが。

10/01/04 不快

今日は彼と一日一緒に過ごした。
新作のクッキーを手土産に持ってきてくれた。
これもとてもおいしかった。
やはりあのクラスメイトに教わったということだった。
とても尊敬して、好意を持っているようだ。
その話を聞いて、少しだけ胸の中がつかえるような感触を覚えた。
彼と一緒にいて覚える感情は心地よいものばかりだが、これは少しだけ不快だと思った。
ムカムカとして、気分が悪い。
なぜなのだろう。

彼は僕の話にもじっと耳を傾けて楽しそうに聞いてくれている。
喫茶店で常連の方も言っていたが、彼はとても聞き上手だと思う。
人の話を聞くことが出来る子だ。

途中で聡さんが入ってきた。
どうも聡さんは彼に対して悪ふざけが過ぎるような気がする。
彼が不愉快に思ってないといいのだが。

10/01/05 キス

彼とキスをした。
一緒に映画を見ていた最中に、ラブシーンで彼がこちらを見た。
そして顔を赤らめながら、ためらいがちにキスをしていいかと聞いてきた。
鼓動が速くなり、また血液が顔に集中するような気がした。

恋人というのは肉体での付き合いも伴う関係。
キスをするのは不思議ではない。
問題はなかったので、承諾した。

唇の感触は、少し濡れていて柔らかかった。
ただ、皮膚を触れ合わせるだけの行為。
大したものではないとは思う。

けれど、少し潤んだその目が僕を見ているのに、心臓が震えた。
頭の中が真っ白になって、自分が何をしているのかが分からなくなった。
こんなことは初めてだった。

キスには不思議な効果があるようだ。

10/01/06 効果

彼への感情、キスの効果、そんなものを考えると夜も寝付きが悪くなってしまうほど悩む。
自分で客観的に整理できない感情がこんなに続くなんて、初めてのことだ。
いつも冷静になってよく考えれば、自分の感情に説明をつけることが出来た。

けれどこの石が胸に溜まっているような、けれど浮き立っているような、少しのことで驚き心臓がはねあがるような、この忙しない感情の動きはなんなのだろう。
とても興味深い。
聡さんが早く教えてくれるとありがたいが、自分でもよく考えよう。
思考を止めることは、退化の始まりだ。

彼に緊張しているのだろうか。
緊張はしている。
何かの病気なのだろうか。
健康体そのものである。
恋人同士というものはこういう感情を抱くものなのだろうか。
そうなのかもしれない。
そういえば物語の登場人物はこういう感情を持っていたような気がする。
これは恋人である証なのだろうか。

彼も同じような気持ちを抱いているのだろうか。
抱いていてくれると嬉しいと思った。
僕のことを考えてくれていると、嬉しい。

10/01/07  戯れ

今日は何度もキスをした。
彼は覚えたてのキスを試したくてしょうがないようだった。
本を読んでいても、話していても、ふいにキスをしてくる。
特に問題はなので、受け止めた。
悪い気分はしない。
ただ、少し居心地が悪いと言うか、座りどころが悪いようなむずむずとした気分になる。

そのうち、彼は舌を舐めてきた。
予想外のことに最初は驚いて身をひいてしまった。
けれど、その時彼がショックを受けていたので、すぐに僕からキスをして、舌を舐めた。
彼の傷ついたような顔は、見たくない。

これはディープキスと言われる行為と知識はあるが、実践は伴わない。
ただ、二人ともぎこちなく不器用に、舌を絡めて、舐めて、探り合った。
不快と言えるかもしれない感覚に、けれど産毛が逆立つような快感を覚えた。
ぴりぴりと皮膚が敏感になって、そっと触れあった手すら反応してしまった。
自慰行為とは比べ物にならない緩い快感なのに、気がつけば軽く勃起していた。

キスとは性的興奮を引き起こすものらしい。
今までこの行為にどんな意味があるのか分からなかったが、口の中は随分と敏感なのだと分かった。
とても勉強になった。

10/01/08 性的興奮

聡さんにキスをしたことを言った。
驚いていた。
したいと思ったのかと聞かれた。

僕から能動的にしたいと思うかと聞かれれば、そうでもない。
嫌ではないし気持ちがいいと思うが、積極的にしたいかと言われれば分からない。
性的な興奮を覚えてしまったので、その欲望を彼に向けるのは少し申し訳ない気がする。
それに気づかれ、汚いと嫌われるのが怖いのかもしれない。

そう告げると、聡さんは困ったように笑っていた。
甥がこんな感情を抱くのは、やはり困ってしまうだろうか。
明日は登山にいくなら俺もつれていけ、と言われた。
俺が、その感情の答えを出してあげようと。

初心者の彼を連れているのだし、僕よりずっと経験豊富な聡さんがついてきてくれた方がいいだろう。
それに、二人とも少し誤解しあっているようなので、これを機に仲良くなってくれると嬉しい。
一緒にきてもらうことにした。

10/01/09 登山

今日は彼と聡さんと一緒に山にきた。
好ましい人物二人と一緒にいるので、とても嬉しかった。

けれど彼はなんだか無口になってずっと黙り込んでいた。
まるで最初出会った時のように無気力な印象を受けた。
具合が悪いのかと思ったが、大丈夫と笑って返された。
心配だったが体は本当に問題ないらしく、二回目とは思えないしっかりとした足取りで登っていた。
頂上についても、彼は浮かない顔だった。
前はとても興奮して喜んでいたのだが。
あの喜ぶ顔が見ることが出来なくて、少し残念に思った。
彼のお弁当はやっぱりおいしかった。
前よりもずっと上達している。

話している時は笑っていたが、彼はずっと疲れている様子だった。
今日は調子が悪いようだったから、早く体を直してほしい。
また今度、元気に登れるといい。

聡さんは彼と話せて楽しそうだった。
気に入ってくれたのだろうか。




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