「お前の生き方って、疲れそうだな」 俺にとって他人は指標。 他人からどう思われても気にはならない。 他人と関わろうとは思わない。 俺は俺という個が何より大切だ。 他人を思いやったり、何かをしてやろうとは思わない。 だが、いないと困る。 俺は1番になりたい。 何にも負けたくない。 1番になる、ということは俺以下の人間がいること。 何にも負けない、ということは誰かに勝つこと。 俺が一番になるためには、俺が負けないためには、他人は必要だ。 結局、勝ち負けは他人との相互作用で決まる。 勝者がでれば、敗者が出る。 そんな、当然のこと。 他人がいなければ、俺は1番にも勝つこともできない。 だからいないと困る。 他人は、指標だ。 そこに人格だのなんだのを差し挟む気はない。 俺以下か、俺以上か。 それが俺にとって何より大切なことだ。 「じゃあ、お前にとって俺はなんなの?」 周りと衝突しがちな俺は、よくトラブルを起こす。 別に俺は起こすつもりはないのだが、他の人間はそういう訳にはいかないらしい。 俺の性格ややり方が気に入らないようだ。 負け犬を負け犬と言って何が悪いのか。 俺だって負けたら負け犬だ。 自分の能力が劣ることや、努力が足りないことを棚に上げて、他人を攻撃し自分を守る。 絵に描いたような負け犬だ、笑えてくる。 別に頼んでもいないのに、そのトラブルを治めるのがいつもこいつだ。 恩を着せられることはないが、厚かましくしゃしゃりでてくる。 まあ、それは楽だし俺に不利益はないので、放っておいている。 胡散臭い笑顔を浮かべて、周りに気づかせず自分の意見をごり押しする。 そして周りはそれに気付かず、いつのまにかトラブルは治まる。 それがこいつのいつものやり方。 俺とは正反対の、社交性にあふれた措置方法だ。 『お前にとって、他人ってなんなの?』 いつものようにトラブルが起きて、健一郎が治めた。 その後、そんなことを聞かれた。 だから、答えた。 俺以下か、俺以上か、俺の価値を測る物差しだ、と。 健一郎は、変な顔をして苦笑した。 そして続けた。 「じゃあ、お前にとって俺はなんなの?」 特に答える必要もなかったが、少し考える。 答えたくない訳ではない。 「成績面では俺より優秀。運動面では俺より劣っている。社交性はあるが底意地の悪さが時折に滲み出ている」 俺の健一郎に対する意識はそんなものだ。 その人付き合いの良さは日和に通じるものがあるが、日和とは違い積極的に人に関わる。 人と関わることを楽しんでいるようにも思える。 感情を抑え、笑顔をまとい、回りくどく物事を捉える。 自分の感情を押し殺すこいつの生き方は相いれないが、特にそれを否定するつもりはない。 健一郎は片眉を器用に跳ね上げてから溜息をつく。 「俺がどう見えるか、じゃなく、お前は俺の存在をどう思ってるの?」 いつになくしつこい。 普段はそこまで俺を問い詰めるようなことはしない。 面倒だったが、仕方なく俺は思った事を率直に告げる。 「特に何とも思ってない。お前と勝負をつけようとももう思っていないし、どうでもいい」 なぜか俺の周りにいる男。 勝負以外で人と関わるのは必要性を感じないし、好きではない。 だが、健一郎はなぜか自然に周りにいる。 いつからそうだったか覚えてないが、なんとなく日常になっている。 だからどうでもいい。 こいつが傍にいることは、日常だ。 日常に対して何か思うことはない。 「…………」 健一郎はその言葉に目を細めて黙り込む。 俺は質問が止んだので、再び視線を元に戻す。 「……本当に潔いまでに勝ち負けだな」 「ああ」 溜息とともに感想が漏れた。 勝つか負けるか。 俺にとってはそれ以外は些細なことだ。 「お前の生き方って、疲れそうだよな」 疲れたと思ったことはない。 俺は俺のただ一つの価値観に従うだけだ。 むしろ、他に何も持たない俺は楽だと思う。 大事なものが多くあるほど、人は惑い弱くなる。 「俺にはお前の方が疲れる生き方に見える」 そう言うと、健一郎は笑った。 不機嫌な時に見せる、胡散臭さの増した笑顔だった。 |