今日は楽しいビデオ上映会!


橋本は朝から楽しみで仕方がなかった。
たまに集まって行われる恒例のアレだ。
勉強会。
男の。
女人禁制。
今回の主催は鈴木。
どういうルートを持っているのか、レア物を手に入れる力は定評がある。
…マニア系が多いのがちょっと難点だが。
今回は、その鈴木が自信をもってお勧めする三本立てらしい。
すごくないわけがない!


***




「な、今回はどんなだと思うよ?」
「この前はアイドルそっくりさんものだったけ?」
「そうそう。マジそっくりだったよな。すごかったー」

身長が同じぐらいの男子高校生が2人、道を歩いていた。
一人は橋本。脱色していない黒い短髪をワックスで逆立てている。
手入れしていない眉は男らしい。
顔は悪くはないが、その性格があいまってか二枚目というよりは三枚目。
親しみやすい性格で女友達も多いが、下ネタ連発なこともあり、いいお友達。
もう一人は菊池。柔らかそうな髪質で、明るめに軽く脱色してる。
無造作にセットされている長めの髪は、これで結構気を使っている。
どちらかというと色素が薄く、目も茶色がかっている。
なんでもそつなくこなすし、明るいので女子人気は高いが、本人は熟女趣味。

橋本と菊池は主催者である鈴木の家に向かう途中だった。
手には土産の酒とつまみ。
今夜は両親がいないという鈴木の家に泊まりこみだ。
「うはー、楽しみー」
橋本は今にもスキップを始めそうだ。
「テンションたっけー…」
菊池はちょっと引いている。
「所詮彼女持ちには分からねーんだよ!この切羽詰った男の気持ちは!
たとえブラウン管の向こうでも笑ってくれる女の子が欲しいんだ!」
「いや、鈴木んち液晶だし」
「やかましい!」
切れのいい裏拳が決まった。
「ていうかなんでお前きてんだよ!必要ねーじゃねーか、自家発電なんか」
「うーん、それとこれとは違うというかなんというか。確かに生ものもいいんだけど、こう、自分でやるのはまた違った良さがあるんだよな。あの終わった後のなんとも言えない虚しさがいいんだよなー」
「あー…、分かる気するかも」
橋本もなんとなく納得した。
本物の女の子はもちろん大切だし触りたいと思うが、例え彼女が出来たとしてもAV見たりするのはやめられない気がする。ていうかやめない。
「だろ?」
「うーん、難しい問題だ」
それに菊池はどちらかというとAVそのものより仲間内で馬鹿騒ぎをするのが好きだ。
下ネタも大好きだが話のネタとして好きなほうがでかい。
橋本は直球勝負でエロネタが大好きだ。
「今日は熟女物だといいなー」
菊池がしみじみと言った。
「だからやめろよ…その趣味」
「うるせーな、お前は制服シリーズだろ!」
「あったりめーだろ!男子高校生が制服好きで何が悪い!」
2人は暮れなずむ街中を、熱い討論を交わしながら歩いていった。

1つ、大切なことを2人は忘れていた。
鈴木が大変な……。

ネタスキーであったことを。


そして恐怖の一夜が訪れた。



***




集まったのは橋本、菊池、鈴木、吉川、小早川、山本の6人だった。
「ごほ、んーあー、さて、レディースエーンジェントルメン!」
「レディースはいねーぞー」
誰かつっこみが入った。鈴木は気にせず進行する。
「今宵はこの、スペシャルエロエンジェル鈴木フルスロットルがお送りする宴にお集まり頂きありがとうございます」
「誰だよそれ」
「ていうか前置きなげーよ!早くしろよ!」
「僕の息子が待ちきれなくて、フライングしそーでーす!」
ブーイングが巻き起こるギャラリーを、鈴木は両手で押さえる仕草をする。
「まあ待て待て、そんなに焦るな。早い男はモテねーぞ。本日は三本立てとなっております。夜はなげーぞ、お前ら!」
『おおー!!』
沸く観客。
「はい、ではとりあえず一本目。これは軽ーくジャブね。小手調べで」
「なんでもいいから早くしろー」
「はいはい、ではDVDスタート!」

『BIN×○IN 忍○ハメ撮りくん』(一部伏字)

「なんだよこれー!!」
「ありえねー!!」
「あ、これ、パロディ系作ってばっかのレーベルだろ」
「なんで知ってんだよお前」
「踊る○走査線の奴見たし」


-視聴中-



「いや、結構エロかったな」
「あの体位すげかった」
「うん、すごかったんだけどさ…」
「うん、そうなんだけどさ」
「なんつーか、笑いが先に来るよな」
「俺映画見ちゃってっから余計に……」
「でも俺ちょっと来た……」
「マジかよ!?」
「しょうがねーだろ!木の股見ても興奮する高校生なんだよ!」
『うーん』

鈴木がざわつく観衆を押さえる。
「まあまあ、頂上に辿り着くまでにはいかなかったと思うが程よく温まったことでしょう。はい、では温まったまま二本目行きます!」
「あれ、ビデオ?何、結構古い奴?」
「はい、これ手に入れるのは結構骨でした…。けれどその価値はあります!このたびの自信作でございます!」
『おおー!!』
再び沸く観衆。

『私の処○を破りにきて』(一部伏字)

「おお、なんか期待できそうなタイトル!」
「何々?素人モノ?」
「そう、素人から体験者集めて撮ったヤツ。タイトルのは30女が処女を捨てたいってやつね」
「うーん、期待できそなできなさそな」
「素人モノは当たり外れでかいよなー」
「絶対、期待に外れない出来でございますよ」
「んじゃレッツチャレンジゴー!」


-視聴中-



「やっぱ映像結構古いなー」
「進行とかも古臭いよな」
「おお、野外SMモノか」
「あ、だめ、俺来た」

2人退場。

「次が本番だ。早く帰ってこいよー」


『私の処女を○りにきて』視聴開始


「え、何これ?なんなのこれ?」
「何この女、何!?」
「ちょっと待てよ、なんで急にドキュメンタリー風なんだよ!」
「こ、こえーよ!怖いよ、ママン!」
「もういいよ!分かったよ、うわー!!」



「こ、怖かった…」
「お、俺半泣きだよ。ちびるかと思った」
「ホラー!これはホラーだよ!」
「AV男優のプロ根性を見た!感動した!」
「マジすげー…。俺勃たねーよ、あんな女……」
「AV男優やるのも楽じゃねーんだな…」
「つーかあそこで勉強始めるのかよ。マジすげーよ!」

「はい、皆さんお楽しみいただけましたか!」
『楽しんでねーよ!!』
みんなの声がそろった。
「お前いい加減にしろよ!俺達はエロ見に来たんだよ!」
「ドキュメンタリーなんか見たくねえ!」
「あれ、ドキュメンタリーなのか…?ホラーじゃねえのか…?」
「怖かった…」
「おやおや何やら皆様御不満の御様子」
『あったりーめーだ!』
またハモる。
「うーん、残念。かなりな自信作だったんですが。あれ手に入れるのメチャ苦労したんだけどなー」
「いや、まあ…確かにレアではある」
「一見の価値があると言えば言える…」
「でしょでしょ!?」
「だからって今この時に見せるんじゃねーよ!」
「いやー、何も知らない人間がこれ見たらどうなるのかなー…て☆」
「☆じゃねー!!怖えーよ!萎えるどころの話じゃねーよ!トラウマレベルだよ!」
「えー、鈴木残念☆」
「あー、むかつく!殴っていいかこいつ!」
「ちょっと待ってちょっと待って!悪かった悪かった!三本目いこ三本目!」
「三本目は今みてーなホラーじゃねーんだろうな!」
「違う違う!これも頑張って手に入れました!これぞマニア受け!レア物!洋物生本番裏モノでございます!」
「洋物…」
「生本番…」
「裏モノ…」
『おおー!!』
今までの期待が色んな意味で空ぶっていた最中だったので、否が応にも盛り上がる。
「はいはい、ではレッツスタート!」



-視聴中-




「おおー、ボブって感じだな、この男」
「ムキムキマッチョメーン!胸毛からギャランドゥまですっげーな!」
「ボブ、ジュニアもLLサイズだぜ!さすが肉食ってる人種はちげーな!」
「獣よ!ケダモノよー!」
「美女と野獣、美女と野獣」
すべての期待とギリギリの欲望をかけて温まる男達。
しかし。
「え、ちょっと……、何、なんであっちのベッドで待ってるのもボブなわけ?」
「け、獣が2匹…」
「さ、3Pとか…」
「ああ、獣2匹に美女がはさまれてって…なんでくっつくのなんでくっつくの!?」
「ちょ、ボブが2人でくっついてるよ!待って待って!」
「いやー!やめてー!!!」


阿鼻叫喚




兵共が、夢の跡…。
討ち死にした者共が鈴木の6畳半に討ちふしていた。
もはや動くものはいない。

ただ一人元気だった鈴木は思ったとおりの反応に満足していた。
一人悦にいっている。
「いやー、皆さん満足いただけたようで鈴木嬉しい!」
床に突っ伏していた男達がゆっくりと身を起こす。
『……ふ、ざ、け、ん、な…』
「え、やだ、皆なんでそんなに怒ってるの?レア物でしょ?マニア向けでしょ?洋物生本番裏モノだったでしょ?」
「確かにマニア受けだった…」
「確かにレア物だった…」
「確かに洋物生本番裏モノだった…」
「おかげでアレやコレやダイレクトに網膜に焼きついたわ!このぼけ!」
「やだ、そんなに喜んでくれたなんて嬉しい☆」
「フクロだ、フクロにしちまえ!」
「菊池、そこのすずらんテープ取れ!吊るす!」
「レッツバンジー!」
「え、ちょっと皆さん、待って、ちょっと」

その後、鈴木はフクロにされた。



***




「あーまったく…。俺の高ぶったこのパッションをどこに持ってけばいいんだよ」
マリアナ海溝まで盛り下がった空気のまま、酒宴に突入した。
酒宴というより、ヤケ酒。
悪い酒なことこの上ない。
「ホントだよ…。もっかい鈴木小突いとけ」
「もう、十分小突かれたちゅーの。ひどいわ、ちょっと茶目っ気だしただけなのに」
「ひどいのはお前だ!」
「もう二度とお前のお薦めは信用しない」
「この日のために一週間ためこんだ俺の息子は暴発寸前」
「お前張り切りすぎだっちゅーの!体に悪いぜ」

酒はそのまますすみ、今日見たビデオの批評となる。
「でも本当にあのオタク女は怖かった…」
「でも、俺、オタク女に立つことはあっても男に立つことはないかなー」
「あー、俺も!男は絶対無理!」
橋本と菊池の体がピクリと揺れる。
「え、で、でも俺もボブは無理だけど、美少年系ならブスよりはマシかも」
橋本がおそるおそると言う。
菊池は決して美少年系ではないが。
て、なんで菊池が出て来るんだよ!俺!
「あー、でもそうかもな。ブスよりは顔がいい方がいいかも」
山本が同意した。
それにともない他の皆ものってくる。
「確かにボブじゃないならな」
「そうかもな。たまにこいつマジ女じゃねーの!てヤツいるしな」
「1年のサッカー部のヤツ。男のくせにマジかわいいんだけど」
「やっべーな、吉川、お前そのケあんじゃねーの」
「いやいやいや、ねーよ!でもさ、チューまではいけてもその先はなー」
「あ、確かに御開帳された時点で逃げる。世界新ぶっちぎりで逃げる」
「顔はごまかせても体はなー」
「うんうん」
橋本と菊池はなんとなく居心地が悪くなった。
安い缶チューハイの薬くさい味が、いやに苦く感じた。



***




その後、なんとなく盛り上がり切らなかった2人はそうそうに客間に引き上げた。
残りの4人の飲み会はまだ続いている。
おそらくそのまま朝まで飲んで、鈴木の部屋でつぶれることだろう。
客間の真ん中に適当にしいた布団の上に転がる。
クーラーはつけなかったので蒸し暑い。
橋本がごろごろ転がっている。
じっと天井を向いていた菊池が口を開いた。
「なあ…」
「……何?」
「お前さ、オタク女とボブだったらどっち?」
「……ボブはぶっちゃけ無理」
「俺もボブは無理」
そのまましばらく沈黙が流れる。
また菊池が口を開く。
「なあ…」
「……何?」
「お前、男には勃たない?」
「………」
橋本は答えにつまった。

この前の『出来事』は2人の中ではなかったこととして扱われていた。
ちょっとだけ、ぎくしゃくというか意識しあうということはあったが、3日もたてば元通りになり、いつもどおりの2人の関係が続いていた。
橋本は彼女欲しいと騒ぎ、菊池は年上の彼女とうまいことやっていた。

二階の鈴木の部屋からでかい笑い声が聞こえる。
あれじゃ、隣近所から苦情がくるぞ。
ぼんやりと菊池は思った。
橋本がぼそりといった。
「……俺さ、この前、ちょっとやばかったんだけど」
「……俺も」
菊池は正直に白状した。
やばかった。確かにやばかった。
半勃ち…、いや四半勃ちぐらいにはなっていたかもしれない。
橋本がごろりと菊池の方に体をむける。
「俺達って……ヤバめ?」
「……いや、でもあいつらもチューまではいけるって言ってたし」
「そっか…そうだよな…」
「まあ、チューだけならそう変わらないわけだし」
「だ、だよな!そうだよな!それ以上はたぶん激萎えだよな!」
「だろ!」
また沈黙が落ちる。
二階は宴もたけなわな模様だ。
暴れているのか、振動も響く。
菊池は天井を見つめていた。
がばりと橋本が身を起こす。
「よし!」
「何?」
「ためそう!」
「はあ!?」
「いや、チューまでは許容範囲だとしてだ。それ以上はいけないことを確かめる!」
「はあ!?ちょっと待て、お前酔ってるだろ!」
「だって気になるじゃん!このまんまにしとくのもなんか気持ち悪いし!やっぱり無理でした!とか分かった方がいいじゃん!当たって砕けろだ、菊池!」
橋本はそのまま菊池の上にのしかかってくる。
菊池は当然全力で抵抗した。
しかし、上からの力と下からの力では、当然上からのほうが強い。
「砕けたくねーよ!」
「男なら覚悟決めろ!」
「男だから決めたくねーんだよ!世の中には触れないままの方がいいものってあると思う、俺!このまんまでいいと思う!」
「俺が気になるんだよ!」
「ふざけんな!」
じたばたと暴れる菊池。
暴れながら思う。
これで、イヤじゃなかったらどうすんだ、こいつ。
その時のほうがよっぽど取り返しがつかなくなることに、気づいているんだろうか。
………気づいてねーんだろな、絶対。
橋本はいつでも全力投球フルスイング。
駆け引き等は苦手だ。
それでいつでも空回り。
肩を掴み、徐々に近づいてくる顔を、菊池は一つ息をつき、諦めて受け入れた。

菊池の教えにならってか、橋本はまずはそっと唇に触れた。
何度もついばむように触れる。
角度を変えて、たまに深くして、唇と唇を合わせる。
お互い少し、酒臭い。
俺も酔ってるのかな。
ぼんやりとする意識の中で菊池は思う。
頬を上気させいつもと違う濡れた目をした橋本が、イヤに色っぽく感じた。
何度目かのキスの時、菊池は舌で橋本の唇を軽くつついた。
橋本は驚いたのか少し体を震わせたが、大人しく口を開き菊池を受け入れた。
お互いのちょうど中間のあたりで、舌を絡めあう。
ぴちゃぴちゃと水音がした。
菊池の顎を、唾液が伝う。
橋本が菊池の歯列をなぞると、菊池は舌を伸ばして橋本の上あごを舐めた。
お互い飽きもせず、舌を絡め続け、口内を蹂躙する。
橋本が口いっぱいに広がったどちらのものともつかぬ唾液を飲み、喉を上下させた。
自分で驚き体を離し、菊池の隣に座り込む。
唇を親指でぬぐう。
「うわ、のんじった…」
「どうよ?」
「気持ち悪い…」
「失礼な」
「……でも、気持ちいい」
「……確かに。橋本上達したじゃん」
「……つっても俺これで二回目なわけなんだが」
「先生の教えがよかったな」
「……ていうかよく考えたらファーストもセカンドも菊池かよ、俺」
菊池もゆっくりと体を起こし、橋本の隣に座る。
「お前がやったんだろーが!」
「……そういえば」
今更気づいた事実に、橋本は呆然とする。
「で?」
そんな橋本に菊池は聞く。
「続きはどうすんの?」
「続き?」
「お前それを確かめるんじゃなかったのかよ」
「……そういえば」
すっかりキスに夢中になっていて忘れていた。
「キスは……やっぱりイヤじゃないな」
「確かに」
菊池は同意した。
そして隣に座っていた橋本の体に手を伸ばす。
橋本は寝巻き用のジャージを着ていた。
ジャージの上からそこに触る。
「うひゃあ!!」
橋本は慌てて飛びのいた。座ったまま菊池から3歩離れる。
「な、何?」
「いや、だから、それが気持ち悪いかどうか確かめるんだろ」
「そ、そうだった」
橋本はさっきから高鳴っていたが、驚きでさらに加速した心臓を押さえる。
菊池はそんな橋本をじっと見る。
こいつはいつも突っ走ってから尻ごみして後悔すんだよな。
「勃ってたな」
「……うっ」
痛いところをつかれて橋本が黙り込む。
確かにキスの最中から、ほんのちょびっと反応している息子がいた。
「わ、悪いか!」
「悪くねーよ。……俺も一緒」
菊池はそういいながら視線を泳がせた。
「ま、マジ?」
「…マジ」
橋本はおそるおそると菊池に近づくと、同じようにジャージを着ていた菊池のそこに触れる。
菊池がびくりと体を揺らす。
「……マジだ」
「だから言ってんだろ!どうすんだよ、この後」
「どうするって、どうするって……どうしよう」
菊池のそこに触れたまま、橋本は情けなく眉を下げた。
酔いとノリと勢いに任せてここまで来てしまったが、この後のことを考えていなかった。
「えーと…」
菊池は一つ、大きなため息をつくと、橋本のジャージを脱がしにかかった。
「お、おい、ちょっとまて何してんだおい!」
「だから、この後をためすんだろ?」
「で、でもだからといってさ」
「おら、とっとと脱げ!」
「い、いやー!!」
と、大きな声を出したところで、二階からまた歓声が響いた。
お互いとっさに口に手を当てる。
「あ、あぶねー」
「こんなところ見られたらやべーって」
そうしてジャージを半脱ぎにしたままの橋本は座りなおした。
「な、本当にやるの?」
心なしか涙目だ。
「まあ、せっかくだから。大丈夫大丈夫、イヤならやめるって。怖くない怖くない。痛くないし」
「……なんか今ものすごく処女奪われる女の子な気分。お前、ひどいヤツだな」
「だから最初はお前が言ったんだろ!」
小声で菊池が怒鳴る。
「……た、確かにそうだよな。いよっし。俺も男だ!根性決めるぜ!……でもマジ泣きそうになったり、吐きそうになったら勘弁してね…」
「いや、俺もダメだったら勘弁して。まあ、本当にお試しで」
「だな」
そしてお互いにジャージと下着を膝下まで降ろした。
全部脱がないのは二階にいる奴らが来た時の一応の用心だ。
さっきのドタバタで2人ともちょっと萎えていたが、それでも少し勃っている。
「……お前、本当に仮性気味なのな」
菊池が橋本のソレを見ながら聞く。
「…う、やっぱりまずいかな」
「いや、コレなら平気だろ。今も半剥けだし。亀頭も発達してるし」
「だ、大丈夫かな」
「大丈夫だろ。日本人のほとんどは仮性だっつーし。お前ちゃんと綺麗にしてるし、オナニーする時剥いてんだろ?」
「うん」
「じゃ、平気平気」
ジャージ半脱ぎで向かい合い、シモ談義。
端から見たらとても滑稽な光景だ。
橋本が今度は菊池のモノを覗き込む。
「お前はちゃんと剥けてんのな」
「まあ、使い込んでますし」
「くっ羨ましいヤツ」
橋本手を伸ばした。
「うわっ!」
菊池が思わず腰を引く。
「わ、ご、ごめん」
「きゅ、急にさわんなよ。言えよ、先に」
「じゃ、じゃあ触るぞ」
「え、じゃ、じゃあ俺も触るぞ」
いざ言うと、お互い照れくさい。耳まで赤くなった。
変な沈黙が落ちる。
橋本が再度手を伸ばした。今度はゆっくりと。
菊池に触れる。
「やっぱ、熱いな」
「まあそりゃあ……」
菊池も手を伸ばした。
触れて、かすかに頭をもたげるソレを軽くする。
「う、わ!」
橋本が少し腰をひく。
「あ、勃ってきた」
「だ、しょうがねえだろ!」
「いや、別に悪いとは言ってないし」
そのまま菊池は手を動かす。
「ちょ、ちょっと、待て」
「いや」
「う……く、あ、ちょっと、待て、て」
橋本がこらえるように目を閉じる。
思わず菊池に触れたままだった手に力が入る。
「う、あ」
今度は菊池が声を出した。
「て、お前、ちょっと力入れすぎ」
「ご、ご、めん」
力を少し抜き、自分がされているようにゆっくりと擦りはじめた。
「は、あ」
菊池が大きく息を吐き出す。
そのまましばらくお互いを慰め続ける。
先端からぬめりを帯びてきて、動きがスムーズになる。
いやらしい水音が響きはじめる。
興奮がより強くなる。
「あ、ちょっと、待っ!で、出る!菊池!」
「え、ちょっと待てよ!」
「ごめ!」
橋本が唐突に暴発した。
お互いの顔に飛び散るほど、激しく達する。
服にも少しついた。
「……おい」
「ご、ごめん……」
「にしても出すぎだろ!早すぎだろ!」
「しょうがねえだろ!一週間ためこんだって言っただろ!」
「……あれ、マジだったのか」
橋本がばつが悪そうにうつむいたまま頷いた。
「それにさ……」
「ん?」
「なんか、その、さ」
「だからなんだよ」
「……人に触られんのって初めてだったからさ……」
「うん」
「…………めっちゃ気持ちよかった」
耳をすまさなきゃ聞こえないぐらいの声でぼそりと言った。
照れくさそうに、ばつが悪そうに、情けない眉を下げたままの表情で。
うつむいたままこちらを見ているから、上目遣いで。

う、わ。キタ。
なんだ、なんだよ。なんで俺の息子反応してんだよ。
てか何かわいいとか思ってんだよ。
橋本だぞ、橋本。
この前一週間放置した靴下がめちゃめちゃ臭かった橋本だぞ!
落ち着け、俺!

「わ、悪い、先いっちゃって。俺もやるから」
脳内で大騒ぎしている菊池に気づかぬままそう言って橋本が手を動かし始める。
「う、……あ」
突然の刺激に菊池が小さくあえぐ。
そうしてもう一度橋本に手を伸ばした。
「お、俺はもういいって」
「せっかくだからもう一回行こうぜ。一週間ためこんだならイケルだろ?」
「いや、でも…」
「一緒にイコーぜ」
そう言ってにやりと笑った菊池に、橋本は静かになった。
大人しくお互いを高める作業に没頭することにする。
一度達して更にぬめりを帯び、水音が大きくなっていた。
「う、…あ、あ、ちょ、菊池」
「は、あ、……いいから」
そうしてまたそれに夢中になる。
2人とも、お互いの肩に頭を乗せる。
耳元にかかる息が熱く、荒い。
そんなことにも、熱が反応してしまう。
あらゆるところの刺激が、下半身に直結する。
頭が真っ白になってくる。
手を動かすこと以外、何も考えられなくなってくる。
「ん、ん、はあ……」
「く、んぅ、……あ」
男同士だからか、手の動きは的確だ。
ポイントをついた動きをする。
たまにずれた動きをするのが、またたまらない。
気持ちがよくて、仕方がない。
橋本はもう一度、菊池は一度目の頂点が見えてくる。
手の中のものがびくびくと動く。
「き、菊池」
橋本が肩から頭をはずし、菊池に向けて顔を傾ける。
菊池はその意図を正確に汲み取った。
噛み付くように、口付けあう。
さっきよりも激しく絡め、ついばみあう唇に更に頭が熱くなる。
熱くなった頭のまま、橋本はうっすらと目を開いた。
いつも涼しげな菊池の目元が、興奮で赤くなっている。
こらえるように眉間によった眉が、たまらなく、キタ。

こいつって、こんな色っぽかったっけ。

そう思った瞬間、菊池が強く爪を立てた。
「んあ、…うわ!」

瞬間、世界が真っ白になった。
力を入れた手に、菊池も達したのが分かった。




息が荒い。
全力疾走した後のような気だるい体。
すぐ耳元で聞こえる、自分のもの以外の鼓動。
自分も、相手も、早い。
じっとりと服をぬらす汗。
汗の匂いと、あれの匂い。
また性欲を刺激しそうな匂い。
だらしなくもたれあいながら、息が整うのを待つ。
しばらくそうしていた。
「………」
「………」
とりあえず何を話せばいいのか分からない。
またしばらく沈黙。
口を開いたのは、菊池だった。
「シャツ、汚れたな」
「やべー…洗わなきゃ。後、窓開けなきゃやばい」
「お前が多すぎなんだよ。ためすぎ」
「お前だってメチャメチャ出してんじゃねーか!彼女と処理してねーのかよ!」
「お前よりはマシ。俺1回だし」
「お、お前が2回目突入するからじゃねーか!」
ガタン、と2階から音がする。
その音で2人は静かになった。
「そうだった、早く処理しなきゃまずい」
「……だな」



その後2人は、体液をふき取り、汚れたシャツをこっそり洗った。
幸い、ズボンと下着は無事だった。
窓を開け放し、上半身裸のままもう一度布団に転がった。
上の奴らが来たら、暑かったからとかなんとかごまかすつもりだ。
程よい疲労が、体を包んでいる。
気まずいような照れくさいような微妙な雰囲気が漂っていた。
橋本が口を開く。
「なあ」
「んー」
「……気持ち、悪かったか?」
「………」
正直に答えたものかどうか一瞬迷う。
その間に、橋本が先に言った。
「俺はさ、………めっちゃ気持ちよかった…」
「………俺も」
しょうがなく、菊池も白状した。
2人で、天井を見上げていた。
2階からはまだ騒ぐ声が聞こえる。ときおりドタバタと揺れた。

「どうしようか」
「どうしましょうか」



色々いいわけ出来ることはある。
別に最後までいったわけじゃないんだし、オナニーと一緒だ、とか。
酔っていたからだ、とか。
この前と一緒でノリと勢い、思春期の暴走だ、とか。
けれど。

けれど、この相手に感じる微妙な感情はどうしたものか。
なんだか安心するとか。
でもなんだか胸が締め付けられるとか。
……もう一度触りたいとか。



「どうしようか」
「どうしましょうか」



途方にくれた。



余談 この話に出てきた上の二つのビデオは実在します。
『私の処○を破りに来て』はホラードキュメンタリーです。



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