「蔵元さん!お願いがあるんです!」 「うん、やだ」 「そんなこと言わず!」 「分かった、却下」 今日も大きな目をキラキラとさせておねだりをしてくる彼女の言葉をすげなく振り払う。 それでもめげずに乃愛ちゃんは俺にすがりついて、涙目になる。 「くらもとさあああんん」 「そんな声出さない」 「ご、ごめんなさい」 とりあえずシャツにしがみつく彼女をはがして、ちゃんと立たせる。 乃愛ちゃんは涙を拭きながら、鼻を啜る。 俺はため息一つ、それから聞いてあげる。 「とりあえず言うだけ言ってみて」 「は、はい!」 水を向けると、途端に表情が明るくなってキラキラと眩しい笑顔を見せる。 こういう素直な表情を見せる時は本当に愛らしいんだけど。 「あの、蔵元さん、私の」 「却下」 「痛い!」 私の、のところで思わずチョップしてしまった。 乃愛ちゃんは頭を抑えて恨めしげに見上げてくる。 「ま、まだ言ってません!」 「どうせ処女を奪ってくだの、プレイをしろだの、性癖を教えろとかそういうことでしょ?」 「ち、違います!」 そこで乃愛ちゃんは心外だというように首を思い切り横に振る。 それからしおらしく俯く。 「蔵元さんは、そういうこと言われるの嫌みたいなので」 「いや、嫌な訳じゃないんだけどさ」 「じゃあ、好きですか!?」 「ちげえ」 またチョップをくらわせてしまった。 やっぱり何も分かってねえ。 「とりあえず、そういうこと言うの嫌みたいなので」 「うん」 とりあえずこれ以上つっこむのはやめておこう。 話が先に進まない。 「だから、言いません!」 「よし、えらい!」 「わ」 思わず柔らかなくしゃくしゃと髪を掻きまわした。 ああ、長かった。 ここまで来るのに長かった。 ようやくこの子もここまで来れたか。 あ、涙が出てきそうだ。 「えへへ」 「そうそう、今度からもっと貞操を大事にするんだよ」 「はい!」 ああ、いい返事だな。 ていうか普通のことなんだけどな。 ていうか俺は何を言ってるんだろうな。 貞操なんて正直どうでもいいのに。 つーか処女めんどくせーし。 「で、お願いって」 「服を一緒に選んで欲しいんです」 「喜んで」 ああ、かわいいなあ。 かわいい。 この子はこうしてると本当にかわいいのに。 「じゃ、じゃあ、どのお店行きましょうか!」 「どれどれ」 乃愛ちゃんがバッグから雑誌を取り出す。 そして開いて、一ページ一ページ俺に説明してくる。 「こっちがメイド服とかのコスプレ衣装が多くて、こっちがボンテージとかちょっとSMチックな奴です。こっちもコスプレなんですが、こっちはアニメ衣装とかが多くて………」 「うん、で、これは?」 「あまりえっちしすぎると飽きちゃうらしんです!だから飽きないように工夫を!」 「飽きるも何もそもそもやってねえ」 雑誌を取りあげ、まるめて乃愛ちゃんの頭を全力でひっ叩く。 「痛い!」 「君を叩く俺の手が痛い。ていうかもう心が痛い。何もかもが痛い」 「ぐ、具合が悪いんですか!じゃあ、どこかで休んでいかなきゃ!」 「合コン後に持ち帰る馬鹿男か」 「痛い!」 もう一度ひっ叩いておく。 乃愛ちゃんは涙目でじっと俺を恨めしげに見てくる。 「どうしたらいいんですかー………」 だからこっちが聞きたい。 |