それは穏やかな昼下がり。 「女ってさ、何でそんなに食えるわけ?」 「へ?」 昼食が終わってしばらくして、鈴鹿の祖母が子供達のためにとケーキを買ってきた。 純太は出かけており、家にいた鈴鹿と駿だけがちょっと早いティータイムを迎える事になった。 「お前さ、さっきあんなに昼飯食ってたくせに、よくそんなに入るよな」 別に駿は甘いものは嫌いではない。 けれど昼食のすぐ後に、沢山の生クリームがのったその甘い甘いケーキは、見ているだけで胸焼けがしそうだった。 しかし、目の前の少女は、まったく苦しがる様子もなく嬉しそうにその甘いお菓子を頬張っている。 「え、これくらい普通でしょ」 「いや、普通じゃないから」 ほんの少し食べただけでフォークを下ろした駿は、目の前の少女を呆れたように見ている。 鈴鹿はちょっと眉をたれて、困ったような顔をしながら、それでも手は止めない。 「だ、だってさ、せっかくおばあちゃんが買ってきてくれたし」 「それで俺の分まで食べてくれるんだ。優しいな、鈴鹿ちゃん」 「……駿君性格悪い」 「俺は褒めてるだけです」 「いいの!女の子は甘いものが好きなの!別腹なの!」 結局口では勝てない鈴鹿は拗ねたようにそう言って、目をそらした。 不機嫌そうに口をへの字にする。 駿はちょっと笑うと、フォークで生クリームを掬うと鈴鹿の口元に運んだ。 「ごめんごめん。ほら」 「うー」 「じゃあ俺食うよ?」 「だめ!」 そんな簡単な挑発に、慌てて鈴鹿はフォークにかじりつく。 すると不機嫌な顔が、みるみるうちにほころんでいく。 たれていた眉が上がり、目が嬉しさに輝き、頬が緩む。 その分かりやすい様子に、駿はますます笑ってしまった。 「………何?」 それに気付いた鈴鹿が、再びちょっと悔しそうに上目遣いで睨む。 そんな様子も可愛くて仕方ないが、素直に口に出せる性格でもない。 「バーカ、ほらついてる」 そう言って鈴鹿の頬についているクリームを掬い取って、自分の唇に運ぶ。 それはとてもとても甘い。 「鈴鹿?」 反応がなくなった相手を見やると、そこには真っ赤になって固まった鈴鹿の姿。 そこでようやく駿は自分のやった行動を思い出す。 つられるように真っ赤になった。 「な、そ、今のは……」 「あ、いや、うん、あの……」 同時に口を開き、同時に口をつぐむ。 『………………………』 2人の赤面での沈黙は、その後賑やかな少年の声で破られるまで続いた。 それは穏やかな昼下がり。 |