それは穏やかな昼下がり。


[真衣&千尋]



「2人で半分こしてね」

いつも一緒にいた姉弟。
いつも一緒だった2人。
2人に渡されるお菓子。
それはいつも半分こ。

2人で半分こできる事もあれば、できない事もある。
数が半端だったり、どっちかが大きく切り分けてしまったり。
そんな時、姉は何度も見比べながら、最終的には弟に大きな方を譲る。
ものすごく悔しそうな、残念そうな顔をしながら。
「千尋はこっち」
弟は、おやつは嬉しいけれど、姉のその様子に大きな方を譲る。
「真衣ちゃんが、おっきな方でいいよ?」
「いいの!わたしはお姉ちゃんなんだから!」
弟の遠慮にプライドを傷つけられたのか、姉は怒ってしまう。
内心ため息をついて、弟は大きな方をもらった。
けれど先に食べ終わると、姉はじーっと弟のおやつを見る。
本人は気付かないのだろうけど、食い意地のはった少女はもの欲しげに皿見つめる。
「真衣ちゃん、僕、お腹いっぱいだからあげる」
結局、そう言ってしまう弟。
姉はその言葉に、弟の顔と皿を何度も見比べて、長い時間考える。
そして出した結論は。
「じゃあ、2人で食べよ」
「そうだね、半分こしよ」
そう言うと、姉は嬉しそうに微笑む。
弟は、その笑顔が大好きだった。


***



休日の午後、千尋が1階に下りてくると、リビングにはようやく起きたらしい姉がいた。
テレビを見ながら、チョコレートを食べている。
「おはよ、真衣ちゃん」
かなり遅い朝の挨拶を告げると、真衣は後ろを振り向きもせずにおはよと返す。
「おいしそうだね。ちょっと頂戴?」
弟は、別に本当に食べたかったわけではなく、姉の気を引きたくてそんなことを言った。
真衣は、千尋をちらりと見ると、チョコレートを割る。
けれどチョコレートは半分ではなく、大きな方と小さな方で別れてしまった。
むっとした顔をしながら、そのチョコレートをじっと見つめる真衣。
そんな変らない姉の様子を、千尋は眺める。
真衣はしばらく悩んでから、ようやく弟にチョコレートを差し出した。

それは、大きな欠片のほう。

千尋は、綺麗な顔で嬉しそうに微笑むと、姉の手ごとチョコレートをとる。

それは小さな欠片のほう。

「こっちでいいや」
姉が持ったままのチョコレートに、そのまま齧りつく。
チョコレートは一口で消えてしまう。
千尋の口に広がる、苦く甘いチョコの味。
ついでとばかりに、少し汚れた姉の指に舌を這わす。
親指と人差し指と中指を、優しく丁寧に舐めとった。
唇を離すときに少し吸い上げると、ちゅっと軽く音がする。
真衣はぴくりと体を震わした。

「ごちそうさま」
後ろを振り返った真衣は、弟の嬉しそうな顔に、目元を赤く染めた。
弟は、おやつよりももっと甘いものを知っていた。


それは穏やかな昼下がり。