それは穏やかな昼下がり。 「2人で半分こしてね」 いつも一緒にいた姉弟。 いつも一緒だった2人。 2人に渡されるお菓子。 それはいつも半分こ。 2人で半分こできる事もあれば、できない事もある。 数が半端だったり、どっちかが大きく切り分けてしまったり。 そんな時、姉は何度も見比べながら、最終的には弟に大きな方を譲る。 ものすごく悔しそうな、残念そうな顔をしながら。 「千尋はこっち」 弟は、おやつは嬉しいけれど、姉のその様子に大きな方を譲る。 「真衣ちゃんが、おっきな方でいいよ?」 「いいの!わたしはお姉ちゃんなんだから!」 弟の遠慮にプライドを傷つけられたのか、姉は怒ってしまう。 内心ため息をついて、弟は大きな方をもらった。 けれど先に食べ終わると、姉はじーっと弟のおやつを見る。 本人は気付かないのだろうけど、食い意地のはった少女はもの欲しげに皿見つめる。 「真衣ちゃん、僕、お腹いっぱいだからあげる」 結局、そう言ってしまう弟。 姉はその言葉に、弟の顔と皿を何度も見比べて、長い時間考える。 そして出した結論は。 「じゃあ、2人で食べよ」 「そうだね、半分こしよ」 そう言うと、姉は嬉しそうに微笑む。 弟は、その笑顔が大好きだった。 休日の午後、千尋が1階に下りてくると、リビングにはようやく起きたらしい姉がいた。 テレビを見ながら、チョコレートを食べている。 「おはよ、真衣ちゃん」 かなり遅い朝の挨拶を告げると、真衣は後ろを振り向きもせずにおはよと返す。 「おいしそうだね。ちょっと頂戴?」 弟は、別に本当に食べたかったわけではなく、姉の気を引きたくてそんなことを言った。 真衣は、千尋をちらりと見ると、チョコレートを割る。 けれどチョコレートは半分ではなく、大きな方と小さな方で別れてしまった。 むっとした顔をしながら、そのチョコレートをじっと見つめる真衣。 そんな変らない姉の様子を、千尋は眺める。 真衣はしばらく悩んでから、ようやく弟にチョコレートを差し出した。 それは、大きな欠片のほう。 千尋は、綺麗な顔で嬉しそうに微笑むと、姉の手ごとチョコレートをとる。 それは小さな欠片のほう。 「こっちでいいや」 姉が持ったままのチョコレートに、そのまま齧りつく。 チョコレートは一口で消えてしまう。 千尋の口に広がる、苦く甘いチョコの味。 ついでとばかりに、少し汚れた姉の指に舌を這わす。 親指と人差し指と中指を、優しく丁寧に舐めとった。 唇を離すときに少し吸い上げると、ちゅっと軽く音がする。 真衣はぴくりと体を震わした。 「ごちそうさま」 後ろを振り返った真衣は、弟の嬉しそうな顔に、目元を赤く染めた。 弟は、おやつよりももっと甘いものを知っていた。 それは穏やかな昼下がり。 |