伝わらなくて、もどかしい。



[友ちゃん&みのり]




朝だけじゃなくて、帰りも一緒になるようになって、まだ数えるほど。
ずっと一緒にいたはずなのに、なぜかどこかぎこちない。
会話は上滑るようで、訳もないもどかしさに襲われる。
そんな、どこかそわそこわとした毎日。

今日は、ちょっと遠くまで足をのばして割りと有名な地下街をぶらぶらしている。
みのりがふと視線を彷徨わせ、小さな雑貨屋に目をやった。
その雑貨屋にはビーズのアクセサリがー沢山飾られていて、俺達と同じような年頃の女がたむろしている。

そういえば、ビーズアクセが好きだって言ってたっけ。
作るのも、買うのも、好きだって。

「みのり、誕生日、確かもう過ぎたよな」
「え、あ、覚えててくれたんだ」

そう言って、みのりは嬉しそうに笑う。
そんな些細なことが、とてもとても幸せだというように。

「確か、2ヶ月前くらいだよな」
「うん、そうだよ。嬉しいな、覚えててくれて、ありがとう」
「俺はお前と違って、記憶力は悪くない」
「うん、友ちゃん、頭いいもんね」

そんなひどいこと言っても、みのりはにこにこと機嫌よく笑い続けている。
その様子が苦しくて、苛立たしい。
彼女の誕生日を覚えていて、礼を言われるって、どうなんだそれ。

まるで俺にお情けで付き合ってもらっているような、その遠慮がちな態度が気に障る。
自分勝手だって分かってるけど、それでも責められている気になる。
俺の今までしてきたことを。

そして、なにより、哀しい。

「……遅れたけど、なんか買ってやろうか」
「…………え?」
「なんか、買ってやるよ」
「え、ええええ!?ど、どうしたの、友ちゃん?」

何をするにも遠慮がちなみのりの腕を無理矢理引っ張る。
それぐらいしないと、みのりは絶対に首を縦に振らないだろうから。
みのりは、俺に何かしてもらうことが、苦手だ。

とりあえず、その店にそのまま入ってしまう。
本当は色々聞きだして、いい店とか連れてって選ばせたいけど、なぜか俺は
焦っていた。
今じゃないと、なぜか時間がない気がして。

小さな店内は雑然としていて、やはりそこまで立派なものはない。
ちょっと早まったかとも思ったけど、連れてきてしまったものは仕方がない。

「わあ」

それでも、みのりは声をあげた。
目をキョロキョロとさせて色とりどりにディスプレイされたビーズに気をとられている。
そんな無邪気な様子に、頬が緩んだ。

「どれがいい?」
「……え、い、いいよ!駄目だよ!」

俺の言葉に、急いで振り返り、両手を振る。
本当に、そんなこととんでもない、というように。
イラっとする。

「俺がいいって言ってるんだから、早く選べよ」
「え、でも、そんなの変だよ」

また、変、だ。
俺がこいつに優しくすることは、そんなに変なことなのだろうか。
俺はまだこいつに、信用されていないのだろうか。

「ほら、いいから。10秒以内、10、9、8」
「え、ちょっと待って、え、やだ」

カウントし始めると、みのりは焦りつつも商品に目を走らせる。
みのりは突発出来事に弱い。
ようやくつかんできた、こいつの性格。
強引に振り回してしまえば、つい従ってしまう。

「3、2」
「あ、これ!これ、これがいい!」

そうしてみのりが指差したのは、ちょっと変わった形をしたピアスだった。
思ったよりビーズアクセが高くて少しビビッてたけど、それはそれほど高くない。
メチャメチャ安いって訳でもないし、こんな風に買うにはちょうどいいくらいかもしれない。

「あれ、でもお前ピアスホール開いてないよな」
「え、あ、うん」
「身につけられないもの買ってもしょうがないだろ」
「うーんとね、その、デザインがこれ、凝っててかわいいからお手本にしようかな、って」
「ふーん」

改めてそのピアスを見ると、確かに中々複雑なデザインをしていた。
ドロップ型で、青いビーズを基調として寒色のビーズが連なっている。
青は、みのりに似合いそうだ。

「せっかくだから、ホール開ければ」

そう言って少し薄いみのりの耳たぶに触れる。
みのりは目を見開いて、飛び上がった。
パクパクと金魚のように口を開く。
何か言いたいんだけど、言葉がでてこないようだ。
触れてる耳が、熱くなってくる。
こういうみのりは、かわいい。

「あ、い、うえ」
「お?」

真っ赤になったみのりの耳に、触れるぐらいの近さで囁く。

「じゃあ、これでいいんだな」
「うき!」
「サルかよ」

思わず噴出してしまった。
みのりの顔は、真っ赤だ。
俺は浮き立つ気持ちのまま、レジに向かった。
後ろでみのりが何か言いたげだったけど、それはスルーした。



***




「ホールは結局、あけねえの?」
「うん」
「じゃあ、イヤリングとかの方がよかったんじゃないの」
「いいの、ずっと身につけられるものは、怖いから」
「何、それ?」
「友ちゃんが、好きで仕方ないから怖いよ。身につけられるものは、ずっと思い出しちゃいそう」

意味が分からない。
みのりの言葉は、いつも別れが前提となっている。

「……来年は、もっといいもん買ってやるよ」
「……友ちゃん、ピアスありがとう。すごく、嬉しい」

約束をとりつけたい俺と、約束をしたくないみのり。
お互い想いは一緒なはずなのに、なぜか落ち着かなくて苛立つ。

「友ちゃんがこんなに好きだよ、って形にできればいいのに」
「十分だ」
「足りないよ。もっともっと、友ちゃんを好きって伝えたいよ」

こんなちっぽけビーズじゃ、俺の想いは伝わらない。



***




伝わらなくて、もどかしい。