伝わらなくて、もどかしい。 「ふふ、3人一緒にご飯を食べるのは久しぶりですね」 嬉しそうに、桜は穏やかに微笑んだ。 食卓には夕食が湯気をたてて並んでいて、とても食欲をそそる。 すべて桜の手作りだ。 「僕も忙しかったからなあ。かわいい子供達といつも一緒にご飯をたべたいんだけどねー」 「私も、おじ様とご飯を食べることができて嬉しいです」 「くー、かわいいなあ、桜ちゃんは!本当に娘になってほしいよ!」 にこにこと和やかに会話を弾ませる桜と義彦。 それは本当の家族のようで、見ているものを微笑ませる温かさがあった。 「なあ、義也も3人でご飯を食べれて嬉しいだろう!」 朗らかに笑ったまま、義彦は隣に座る息子に声をかけた。 息子、義也は張り付いたような不機嫌な顔で用心深く食事をつついている。 食事に、何が入っているか分からないからだ。 「……俺は3人でなんか食べたくねえ」 「ええ!桜ちゃんと2人で食べたいのかい!」 地を這うような低い声で答えると、義彦は驚いたような声をあげた。 「ちげえ!」 「僕はお邪魔虫だったかな。まあ若い2人だもんね。そういうこともあるよね。ああ、2人の子供はかわいいだろうなあ」 「だから違うって言ってんだろうがこの馬鹿親父!」 義也の間髪いれぬつっこみをものともせず、義彦は夢見るような目で未来予想図を思い浮かべる。 義也を見る目は温かく、慈愛に満ちていた。 その目が義也には、更に腹立たしい。 「結婚式はどこにしようか」 「いい加減にしろ、このボケ!ていうかどこまで想像がいってるんだよ!誰がこの女と2人で食べたいと言った!」 「ああ、義也さん、おじ様と2人で食事されたかったんですね。ごめんなさい。お邪魔虫は私でした」 椅子から立ち上がって突っ込む義也に、今度は義也の逆隣に座っていた桜がおっとりとした女らしい声でそう続ける。 地味な印象の少女は親子を微笑ましそうに、まるで母親のように見守っている。 そのどこまでも女らしい仕草が、義也には薄ら寒い。 「誰がだ!」 「義也さんは、マザコンでファザコンなのですね。家族を大事にされるって素敵ですよ」 「人聞きの悪いこといってんじゃねー!!!!」 「でも彼女が出来たら気をつけてくださいね。彼女を少しは優先させないと」 「人の話を聞け!お前ら!いい加減にしろ!」 「え、義也、彼女出来たのかい!?」 「…………」 義也の細かいつっこみを聞いているのかいないのか、にこにこと穏やかに微笑む桜。 そこに義彦が驚いたように義也を見つめる。 義也はもう一度椅子に座りなおすと、頭を抱えた。 頭が痛く、疲労が濃い。 もう、何も言い返す気力がない。 「ひどいなあ、父さんにも紹介してくれよ」 「あらあら、おじ様、思春期の男の子にそれは難しいですよ」 「うーん、お年頃だもんなあ、寂しいなあ」 「ふふ、おじ様ったら」 「ああ、そうだ。ところで義也、○○は治ったのかい?」 「そうでした、大丈夫なんですか、義也さん。いい病院探しますよ?」 ぶちっと何かがきれた音がした。 再度立ち上がると、義也は両隣に容赦なく拳をふるった。 「てめえらいっぺん常識とか恥じらいってもんを1から学んで来い!!!」 今日も水無瀬家に悲痛な叫びが響き渡った。 伝わらなくて、もどかしい。 |