きっとそれは、とても些細なこと。 毎日毎日、いっぱいの幸せをもらってる。 それはとてもとても、怖くなるくらい。 毎日幸せ。 毎日嬉しい。 少しでも長く、この幸せが続きますように。 私はいっぱい、あなたからもらっている。 でも、そうしたら。 代わりに私は何をできるんだろう。 あなたに何をあげられる? 私は何も持ってない。 私はただもらうだけ。 あなたにあげられるものなんて何もない。 私はあなたに何をしてあげられるのかな? なんてことを、考えてみた。 お世話になってる人へプレゼントって感じのCMを見たせいだ。 お世話になってるって言えば、友ちゃんだよねえ。 隣をちらりと見る。 友ちゃんは隣にいる。 そう、隣だ。 前じゃない。 今見ているのは、背中じゃない。 私は今、友ちゃんの横顔を見ている。 なんて幸せ。 なんて嬉しい。 友ちゃんにはいっぱいいっぱいお世話になってる。 こんな私といてくれる。 優しくしてくれる。 嬉しい言葉をくれる。 まだ隣にいてくれる。 私は何を返せるかな。 私はあなたに、何をあげられるのかな。 「どうした?」 ずっと隣を見ていたら、友ちゃんが気づいたのかこちらを見下ろしてくる。 うーん。 何度見ても、やっぱり好きだなあ。 本当に友ちゃんが、好きだなあ。 いつまでも、ドキドキする。 「みのり?」 「あ、えへへ、あのね」 「うん?」 表情はあまり動かないけど、耳を傾けてくれている。 友ちゃんは、最近私の言うことをとってもよく聞いてくれる。 気にかけてくれる。 本当に、幸せ。 「友ちゃんに、何をあげられるかなあ、って思ったの」 「は?」 唐突すぎただろうか。 友ちゃんは頭の上にはてなマークを一杯出すように首をかしげる。 そうだよね、前置きないもんね。 「友ちゃんにいっぱいいっぱい色々なものをもらってるから、私も友ちゃんのために何かしたいなあ、って思ったの」 「…唐突に何言い出してるのかよくわからないけど、俺、お前に何もしてないだろ」 「いっぱいいっぱい、もらってるよ」 友ちゃんは眉をひそめて、小さく答える。 ちょっと怖い顔。 どうしたのかな。 怖い顔をした友ちゃんが黙り込んでしまったので、私はそのまま自分の思考に入り込む。 ああ、でも本当に何をあげられるかなあ。 プレゼントは、重いよねえ。 後に残るのは、迷惑だよね。 ただでさえ家近いし、これ以上存在を感じさせるものを家に置いておくのはいやだよね。 となると、ものじゃなくて、心かな。 私は友ちゃんに、かわいい、とか言ってもらえると嬉しいな。 あとばーかって小突かれるのすっごい好き。 ドキドキする。 でも、友ちゃんにかっこいいって言っても、それは当然のことだし。 友ちゃん馬鹿じゃないし。 小突くなんてもってのほかだ。 絶対に不可能。 だとしたら何が嬉しいかな。 友ちゃんは、何が嬉しいのかな。 うーんうーん。 私は友ちゃんと一緒にいるだけで、嬉しいけど。 私と隣にいても、そんな嬉しくないだろうし。 そこまで考えて、ひとつ気づく。 ていうか、もしかして、こんなに隣にいたら、迷惑かな。 ストーカー時代と同じくらい、ひっついてるし。 そういえば友ちゃん、彼女がいても自分の時間大切にする人だったよね。 もっと、自由に動きたかったりして。 あ、もしかして、私が一緒にいないことが、何より嬉しかったりする。 ……私が、距離を置くことが何よりなプレゼントだったりして。 「………う」 「………なんで涙目になってるんだよ」 残酷な真実に思い当ってしまい、つい声に出してしまった。 友ちゃんが怪訝そうに私を見る。 私は、申し訳なさでいっぱいになる。 「ごめんねえ、友ちゃん、私、友ちゃんに何もしてあげられない」 「いや、この短い間に何がどうなってそこまでいってるんだ」 友ちゃんは私の目じりを親指で拭うと、呆れたような声を出す。 その手が温かくて、私は余計にいたたまれなくなる。 「だって、私友ちゃんにいっぱいいっぱい、色々なものもらってるのに。返せない」 まだ、まだ時間あるし。 まだ一緒にいたいな。 もう少しだけ、こうやっていたいな。 わがままで、ごめんなさい。 ああ、本当に何も返せない。 「お前さ、そうやって一人でつっぱして一人で完結するのやめてくれ」 「……うう、ごめんなさい」 「たぶん何もわかってないだろ」 友ちゃんが、諦めたように溜息をつく。 ほっぺたをぶにっと、つままれる。 「ひたい」 「何をそんなに落ち込んでんだかしんないけど」 そのまま、今度は両手で私のほっぺたをぐいーとつまんで、ちょっと苦笑する。 苦笑だけど、なんだかあったかい。 友ちゃんの笑顔は、いつだってドキドキする。 「俺もお前にいっぱいもらってる」 「にゃにもはへへてないよ」 「毎日好きだって言ってもらえる」 「ふぇ?」 友ちゃんは笑いながら、眉を寄せる。 どこか苦しそうに。 「これからも、好きだって言って」 なんだろう。 どうして、そんな当然のこと言うのだろう。 そんなの、お返しでもなんでもない。 私に好きだって言われても、ちっとも嬉しくないだろうし。 「ずっとずっと、俺の隣にいて、好きだって言って」 きっとそれは、とても些細で、でも難しいこと。 |