行きたいところ。


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「セツコ、どっか行きたいところ、あるか?」

機嫌よさそうに入ってきた馬鹿王は、唐突にそんなことを言い出した。
それに対する私の答えは一つ。

「家に、帰りたい」
「ははは」
「笑う、違う!」

笑いごとじゃない。
こっちは真剣だ。
これ以上ないほど、真剣だ。
人生がかかってる。

「疲れてるな。酒を、飲みにいこう」
『だからあんたは人が酒を飲めば機嫌よくなると思ってんじゃないわよ、この馬鹿王!』

思わず日本語で叫ぶと、なだめるように大きく無骨な手が私の頭を撫でる。
ああ、もう本当に、この馬鹿は。
これが暖簾に腕押しってやつか。
そのことわざが、こんなにも身にしみるとは思わなかったわ。

『陛下はどこかにあなたを連れていきたいようですね。希望すればどこでも連れてってくれますよ』
『一生困らないお金と家と安定した将来の保障があって、優しい働き者の旦那様とかわいい子供がいる未来に行きたい』
『それは国を築くぐらい難しそうですね』

悪魔が朗らかに笑って言う。
なんだ、私のささやかな将来像は建国レベルなのか。
そこまで未来はないのか。

『もう、こんな世界いやあああ!!』

私は机につっぷして自分の境遇を嘆いた。
ああ、異世界に来てなお思う。

どこか、ここではない場所に、いきたい。