行きたいところ。


野良犬



「三田、映画行こうか」
「また?」
「面白いのやるんだよね」
「………」

机に向かい合わせに座ってる誘うと、目の前の少女は黙り込んだ。
俺に対しては嫌なら嫌という三田なので、その反応は意外で顔を上げる。

「あれ、いや?」
「………あのさ、私も見たいのあるんだけど、そっちも、いい?」
「いいよ」
「なんの映画とか聞かないの?」
「だって、あんたのお誘いじゃん。ゴミ捨て場にだって行くよ」
「ゴミ捨て場になんて誘わねえよ」

顔を真っ赤にしながら毒づいても、全く怖くもなんともない。
男慣れしていない反応は、本当に新鮮。

「あのさ、この映画、見たくて」
「ああ、これね。了解」

雑誌で指差した映画は、外人のおかしな発音にいつも笑ってしまいそうになる動物ものの映画。
そういえば、こういうの好きなんだっけ。
別に映画は嫌いじゃないから、特に問題はない。
でも三田は恐る恐るこちらを見上げてくる。

「笑わないんだ」
「笑った方がいい?」
「笑うな!」
「じゃあ笑わないよ」

別に笑う必要ないし。
なんつーか絵に描いたようなギャップだな。
まあ、お約束でもそこに萌えてしまうのも男ってもんだ。
三田は俺が笑わないことに機嫌をよくしたのか、嬉しげにそわそわと頬を緩ませる。

「じゃあ、あんたの見たいの付き合うよ。他に行きたいところとかは?」
「あんたと一緒ならどこへでも」
「………ぐ」

そこでまた顔をリンゴのように真っ赤にして不機嫌な顔になるのも、かわいい。
本当に、ある意味とても分かりやすい。

「まあ、出来れば二人きりで密室で、ベッドがあればなおいいかな。別に野外だろうと衆人環視の前だろうといいけど」
「なんの話をしている!」

つい本音を漏らすと、また鉄拳が飛んできた。