怖い夢を見ました。 「あのね、昨日すっごい怖い夢見たの」 会えない日々は、電話が唯一の楽しみ。 金かかるから、電話してばっかりでもいられないんだけど。 最近母さんが鈴鹿との通話が安くなるプランに入ってくれて本当に助かった。 それでも、そんなにはできないんだけどさ。 だから、短い時間でも少しでも今の鈴鹿を知るために、耳をすます。 姿は見えないから、声から、些細な変化でも感情でも、拾い上げるように。 「どんな?」 挨拶がてらの他愛のない話をしていると、鈴鹿がちょっと落ち込んだような声を出した。 そんな声は聞きたくないから、慰めることが出来るならしたいと少し優しく聞き返す。 「………」 「別に言いたくないならいいけど」 「ううん、あのね!」 思い出したくないようなことなら言わなくていい。 そう思ったけれど、鈴鹿は勢いこんで言ってくる。 「う、うん」 「夢でね、駿君がね、私のこと嫌いって言って」 「は」 「それでね、超!かわいい女の子と付き合うって言って私のことふるの」 「えっと」 「………駿君、ひどい」 「いや、夢の話だよな!?」 最後の方には思い出したように、鼻声になって情けない声を出す。 今頃きっとあの情けない犬顔になっているのだろう。 しかし、鈴鹿の夢の中の話で責められても困る。 俺が他の女と付き合う夢を見たっていうならまだしも。 「そうなんだけどさあ」 「そんな泣くぐらいなら思い出すなよ」 「泣いてない!」 「へえ、かなり鼻声ですが」 「違う、これは、えっと、その花粉症!」 ずっと鼻をすする音が響く。 他の奴だった汚いって思うかもしれないが、鈴鹿だと思うと可愛いって思うから不思議だ。 何より俺と別れる夢を見て泣くほど哀しかったっていうのが、可愛い。 可愛すぎてどうにかなりそうだ。 半泣きの鈴鹿と電話しながら、俺は今にやにやしている。 ああ、もう、落ち着け、俺。 「まあ、これ以上つっこまないでおいてやる」 「………意地悪」 かなり浮かれた声になってしまったことを、鈴鹿は気付いていないだろうか。 どうしてこいつはこう、俺のツボをぐりぐりとついてくるんだろう。 「でね、これは起きたら絶対、駿君に言わないとって思ってたんだ」 「なんで?俺が浮気者だって言うために?」 「違うよ」 ようやく落ち着いたのか、鈴鹿があのね、と先を続ける。 「悪夢って、話したら本当にならないって言うでしょ?絶対にこんなの本当になってほしくないから、絶対話そうって思って」 心臓をぎゅっと鷲掴みされた気分。 今度はこっちが泣いてしまいそうだ。 絶対に現実になってほしくない、なんてこっちの台詞だ。 「………そっか」 温かい気持ちが、体中に広がっていく。 俺と別れるのが怖いと泣く鈴鹿も、それを現実にしたくないと言う鈴鹿も、何もかもが可愛くて、嬉しくて仕方ない。 やっぱり好きだって思う。 遠距離で歳の差で不安もいっぱいだけれど、鈴鹿はこうして思いを示してくれる。 不安を、取り除いてくれる。 そんな時、やっぱり鈴鹿には敵わないって思うんだ。 「あのな」 現実になんて絶対しないからって言おうと思う。 たまには同じように素直な言葉を、鈴鹿に告げたい。 変なところでかっこつけてしまう、俺だから。 「あの、俺も」 「だから、お母さんとか友達とか色々な人に話しちゃった」 「おい」 「駿君って浮気者なの?って聞かれちゃった」 「人の評判を身に覚えのないことで下げるな!」 色々な意味で、本当に敵わないって、思うんだ。 |