「………どこ見てるのかな」 彼女の目が、明らかに俺の顔ではなく下の方に向かっているので、一応聞いておく。 「腰です!」 乃愛ちゃんは、にっこりと笑って勢いよく答えてくれた。 腰か、よかった。 その下に向かっていたら正直どうしようかと思っていた。 まだそこまで堕ちてなくて、心底安心した。 「なんで腰なんて見てるのかな」 「蔵元さんの腰つき、かなりエロいと思います!」 「それは褒め言葉?」 「はい、勿論です」 そうか、褒め言葉か。 ならいいか。 ていうかこれくらいの言動じゃそろそろ動じなくなってきたな。 自分がおかしくなっているのだろうか。 「どうしていきなり腰?」 「蔵元さんの部位のどこが好きかなって考えていたんです」 「部位って、俺は牛か」 「牛なら大田原牛のロースですね!食べちゃいたいです!」 「洒落にならないからやめてくれ」 本当にその内食べられそうで、怖い。 身の危険を感じるぞ。 「先輩たちと彼氏のどこが好きかって話をしてたんですよね。で、私蔵元さんのどこが好きかって。あ、性格は別として体の一部で。で皆さんも、蔵元さんの腰はエロいって言ってました!」 「女の話も中々エグいね」 まあ、俺たちもあの女のナニがいいとか言ってるんだから似たようなもんだけど。 しかしどうせエゲツない内容だろうに、この子はどんなこと言ってるんだろう。 聞きたいような、聞きたくないような。 「蔵元さんの体ならどこも好きなんですけどね。手も好きだし、首筋も好きだし、でもやっぱり腰がいいですね」 「ごめん、最近言ってることが、かなりおっさんくさい」 「本当ですか!?」 本当にただのエロ親父のようになってきている。 かわいい子だから許せるが、これが中年女性とかだったらかなりドンビキだろう。 「すいません、私蔵元さん好みの大人のエロエロ女性になろうって思ってたのに!」 「人聞きの悪いことを言わないでくれ」 まあ、大人のエロエロ女は好きは好きだけど、この子が言うとなんか違うものに感じる。 いや、ていうかそもそも俺って結構下半身に節操がない方だったのに、なんでこんなに常識人になってるんだろう。 好みのタイプなら誰と寝ようと全然よかったのに。 この子と付き合い始めてから、かなり清廉潔白になってるぞ。 「蔵元さんは、何フェチですか?」 「フェチねえ」 色々とおかしくなっている自分に思い悩んでいると、乃愛ちゃんがにこにこと笑いながら聞いてくる。 まあ、フェチぐらいなら普通の会話か。 「俺は、足かな」 女を見る時は、まず足に目を向けるかもしれない。 まあ、あんまり執着もないけど。 「足ですね!分かりました、今日から足のエクササイズ増やします!」 「まあ、ほどほどに。今のままで十分だから」 「ありがとうございます!」 別に今の乃愛ちゃんの外見に特に不満はない。 性格には沢山モノ申したいことがあるが。 「じゃあ、ミニスカはデフォルトとして、下はハイソですか?生足ですか?ストッキング?それとも網タイツ?あ、ガーターベルトで網タイツとか?ニーハイブーツもいいですね!どれが一番ムラムラしますか!」 本当にモノ申したいことが多すぎる。 「乃愛ちゃんがやる限り、どれもムラムラしません」 「え、私色気不足ですか!?」 「それ以前の問題です」 なんだろうなあ、据え膳はよほど地雷じゃなきゃ食べてきたのになあ。 なんでこの子には説教したくなるんだろう。 「私は蔵元さんの細腰を見るたびにムラムラです!出来れば体の線がぴったりでる服でお願いします!」 多分こういうところが欲情しない上に、説教したくなるんだろうな。 「これからは厚着します」 「え、ひどい!蔵元さんの人でなし!」 「どっちがだ!」 そして今日も俺は彼女に教育的指導を行う。 |