いっそ、私に興味をなくしてくれたらいいのに。


やきもち(日課)



「おはよう、友ちゃん。好きだよ」

今日も日課の、朝の告白。
これで8341回。
じわじわ近付くリミットに、寂しさを感じながらも、どこか安堵する自分がいる。

「………」

友ちゃんは私にちらりと視線を送ると、そのまま素通りしていってしまった。
いつも挨拶は返してくれるのに。

「友ちゃん?」
「………」

友ちゃんは、背が高いから歩くのが早い。
私にペースを合わせてくれたりはしない。
それでも今日はいつもより早い気がする。
私は慌ててその背中を小走りに追いかける。

「………友ちゃん?」

後ろを振り返ったりはしない。
背筋ののびた背中、私の好きな背中。
それでも今日はその背中に拒絶を感じて、私は哀しくなってくる。
私は何かしてしまったのだろうか。
あまりにもうざすぎて友ちゃんを怒らせたことは、一度や二度ではない。
また何かやらかしてしまったのだろうか。

「友ちゃん?怒ってる?ごめんね、私何かした?」

ああ、この言い方もうざいだろうか。
不安と哀しさで、涙が出そうになってくる。
ああ、駄目駄目。
泣いたりしたら余計にうざい。

とうとう嫌われてしまっただろうか。
せめて、嫌われたくはなかった。
最後まで、嫌われたくはなかった。

「………友ちゃん」

追いかけるのも、うざいだろうか。
余計に嫌われてしまうだろうか。
どうしたらいい。
私はどうしたらいいのだろうか。
足が重くて、今にも止まってしまいそうだ。
このままこの背中を見送るのが、一番正しいのだろうか。

「昨日、一緒にいた男誰?」
「え?」

足が止まりかけたその時、友ちゃんがこちらを見ないままようやく口を開いてくれた。
私はそれだけでも嬉しくて、慌ててその背中をもう一度追いかける。

「えっと、男?」

けれどなんのことか分からず、私は首を傾げる。
いつもより早い友ちゃんを追いかけるので、みっともなく息があがってしまう。

「………」
「え、と、誰、だろう」
「昨日学食で一緒にいた男」

言われて、ようやく思い当った。
昨日学食で、一緒に話していた男子。

「あ、杉田君か」
「へえ、親しげだったな」
「あ、うん、えっとね、委員会の仕事があって、打ち合わせしてたの」
「ふーん」

つまらなそうに気のない返事をする友ちゃん。
そして少し笑って、冷たく言った。

「お前もようやく別の男が出来ていいんじゃないの?」

他の男の子に私を押し付けようとするその言葉に、突き放されたようで、胸が痛くなる。
けれど、まるで嫉妬するようなその言葉に、わずかな希望と喜びで体温があがる。

「………でもね」

痛い痛い痛い哀しい。
嬉しい嬉しい。
だから、私は笑って、殊更明るい口調で私の気持ちを伝える。

「でもね、私は友ちゃんが好きだよ。友ちゃんよりかっこいい人いないもん。友ちゃんが好き」

友ちゃんは私をちらりと見て、軽くため息をついた。
そして肩をすくめる。
呆れたようなその態度は、けれどもう不機嫌がどこかへいってしまったようだった。

「本当に馬鹿だな、お前」
「だって、友ちゃんが一番だもん」

ばーかともう一度言う友ちゃん。
けれど歩調が少しだけ緩くなった。
私はほっとして、もう一度好きだと伝える。
そうすると友ちゃんが笑ってくれて、私は飛び上がるぐらい嬉しくなる。

分かってるよ。
分かってる。
これは嫉妬でもなんでもない。
ただ、ゴミでもなんでも人にとられると思うと、惜しくなるってだけだよね。
でもね、そんな気まぐれなやきもちでも、私は嬉しいの。
友ちゃんがやきもち妬いてくれるのが、嬉しいの。

でもね、同時に思うよ。
いっそ、私なんか嫌ってくれればいいのに。
こんな風にたまに見せられる優しさや執着に、私は希望を見てしまう。
だから私は諦められない。
友ちゃんを諦められないの。

あなたの一言一言に、私はいつでも一喜一憂。
ああ、いっそ、私に興味をなくしてくれたらいいのに。