「この馬鹿!メシは食えつってんだろうが!何度言えば分かるんだよ!」 今日も三田が容赦なく俺を殴りつける。 殴らないって誓いを守っていたのはほんの少しの間。 それを指摘すると、お前がアホだから悪いんだと余計に怒られる。 けれど幸せ。 殴られるのが幸せ。 怒られるのが幸せ。 「全くもう」 頬を膨らませて、顔を赤くして、眉を吊り上げて、俺のために真剣に怒ってくれる。 俺を思って、怒ってくれる。 それが幸せじゃなくてなんだと言うのだろう。 「じゃあ、三田が俺に食わせてくれればいいだろ」 「十分食わせてやってるだろうが!」 「朝も、昼も、夜も、ずっと一緒にいて俺を管理して?三田の手料理で幸せ太りさせて?」 そう言うと、今度は怒りではなく羞恥で顔を真っ赤にする。 それが可愛くて可愛くて、いっそ三田を食べてしまいたい。 「で、出来る訳ないだろ!」 「代わりに三田には俺を食べさせてあげるから」 「いらんわ、ボケ!」 そしてまた繰り出される鉄拳制裁。 その痛みすら、子犬に噛みつかれているようで嬉しくなってしまう。 まあ、三田の場合は子犬っていうかハイエナぐらいの攻撃力はありそうだけれど。 「………まさかとは思うけど、お前またわざと怒られるためにメシ抜いてんじゃねーだろうな」 「たまには」 「この変態!」 そしてまた殴られる。 嬉しいけれど、さすがにそろそろ顔の形が変わりそうだ。 「だって、三田が怒ってくれるし、夕ご飯作ってくれたりするし、食べない方がいいことがある」 元々、食べることにそこまで執着がない。 お腹が減れば食べるのだが、気がつくと一日食べていなかったりすることもある。 熱を発しまくってる三田と違って、俺はかなり省エネな作りをしているのだろう。 運動もしないし筋肉もないし、低体温低血圧。 「倒れたら、三田看病してくれる?」 アホか、と殴られるかと思ったら、三田は予想に反して真面目な顔になった。 じっと俺の目を睨みつけるように見る。 「………野口」 「ん?」 「お前は私を泣かせたいのか?」 言葉に詰まった。 胸が苦しくなって、気道が塞がれたように呼吸が出来ない。 ああ、もう。 「わ!」 感情のままに目の前の愛しい存在を抱きしめる。 苦しくて苦しくて苦しくて息が出来ない。 なんでこんなに、可愛いんだろう。 なんでこんなに、好きにさせてくれるんだろう。 「三田が泣くのはベッドの上だけでいいや」 「この変態!」 腕の中でじたばたと暴れる存在をこのまま抱きつぶしてしまいたい。 愛しさのままに食べつくしてしまいたい。 でも、そんなことはできない。 「三田は怒ってから、笑って。いっぱい笑って」 殴られるのが幸せ。 怒られるのが幸せ。 けれど、君が笑うのがもっと幸せ。 君が笑うと、幸せになれる。 なんて手軽で安上がりで、けれど何よりも難しくて最上の喜び。 苦しくて苦しくて苦しくて。 「三田を笑わせられるように、頑張る」 俺を思って怒ってくれる君を見て幸せ。 でも、俺が君を笑わせてあげられたら、もっともっと幸せ。 しあわせでしあわせでしあわせで。 |