しあわせでしあわせでしあわせで(白青)



「一兄、双兄、四天!」

その休日の午前中はちょうど忙しい三人が揃っていた。
午後になったら皆いなくなってしまうから、急いで俺は部屋からそれを持ってくる。

「どうした?」

居間で新聞を読んでいた一兄が、興奮した俺を苦笑交じりに見ている。
少しはしゃぎすぎていたのに気付いて、一つ深呼吸。

「あのさ、写真出来たんだ。写真」
「写真だー?」

ソファで寝っ転がってごろごろしていた双兄が面倒くさそうに返事をする。
袋に入っていたアルバムを取り出して掲げる。

「旅行の写真!」

それでようやく三人が得心が言ったように頷く。
一兄が新聞を閉じて、テーブルに置く。

「そういえば藤吉君が撮っていたっけ」
「そうそう」

藤吉は趣味だと言って結構いいカメラを持っていた。
一眼レフのごつくて重い奴だ。
エントリーモデルだからそこまでよくもないよーと言っていたが、コンパクトデジタルカメラしか使ったことのない俺には十分立派に見れた。
出来た写真もくっきりとしていて色も鮮やかだ。

アルバムを一兄の前のテーブルに置くと、興味なさそうな四天を引っ張ってきた双兄も覗き込む。
それからひとしきりちょっと前に行ったばかりの旅行の思い出をみんなで眺める。

「お前小せえな。岡野ちゃんと同じぐらいなんじゃねーの?」
「そこまで小さくねーよ!岡野よりはデカイ!」
「じゃあ、雫ちゃんとは?」
「………多分、俺の方がデカイ」

多分俺の方が高かったはずだ。
同じぐらいだったけど、俺の方が高かったはずだ。

「どうよ、四天」
「多分兄さんの方がでかいんじゃないかな」
「だろ!」

天はこういう時は嘘をついたりはしない。
勢いこむ俺に、軽く肩をすくめた。

「多分ね」

多分でもなんでも、俺の方が高いってことで十分だ。
そうだ、俺の方が高い。

「やっぱ三人娘も栞ちゃんもレベルたけえな」
「そういう言い方やめろよ」
「かわいいって褒めてるんだよ」

まあ、確かに女の子は四人ともとてつもなくかわいい。
岡野は派手美人で、佐藤は元気でかわいくて、槇は癒され系のかわいさで、栞ちゃんは純和風美少女。
みんなタイプは違うが、それぞれかなりレベルは高いと思う。

「あ、これ、この後双兄がソフトクリーム落としたんだよな」
「そうだな。それでお前がソフトクリーム取られる前だ」
「うっさい、一兄!」

藤吉は思ったよりも写真をいっぱいとっていて、様々な場面が切り取られている。
まるであの高原の空気が、今にも蘇るようだ。
匂いも風も笑い声も。
ソフトクリームの味も、バーベキューの味も。
全てが鮮やかに浮かび上がってくる。

「あ、これバーベキューの時だな。すげえ槇の顔が真剣」
「俺、レアで肉食べてたら槇さんにかなり怒られた」
「あはは、馬鹿だな、天。槇の前でそんなことするからだよ」

天が渋面を作るのが面白くて、笑ってしまう。
そうだ、あの時は槇が穏やかににこにこと笑いながら天を追い詰めて、槇すげえって思ったんだ。

「佐藤さんは写真に写るのがうまいな」
「本当だ、なんか不意を狙ってもポーズ取ってるな。すげえ」

佐藤はどんな時でも隙がなく、狙ったようにかわいい顔をしている。
しかもポーズが洗練されていて、よりかわいく見える方法が分かっているかのようだ。

「写真って、楽しんだな」

最後の一枚は、別荘の前で皆で撮った写真。
前夜のトラブルもあったけれどそんなこと忘れたように、皆並んで、笑っている。

「そうか」

一兄が俺の頭をぽんと叩く。
その大きな手が温かくて、胸までほわりと温かくなる。

「思い出が、切り取られているって感じ」

今まで写真を撮るような機会もそうはなかった。
だからこんな風に映し出される過去の景色が、こんなにも楽しく、嬉しいものだって知らなかった。

「まーたそんな詩人みたいなこと言っちゃって」
「う、うるさい!」

双兄がからかうようにぐりぐりと肘でつついてくる。
恥ずかしくて言い返すが、双兄はにやにやとしている。
ああ、また余計なことを言っちゃった。

「でも、ま、いい写真なんじゃない?」

けれど最後に天が珍しく小さく笑ってそう言った。
俺は素直に、大きく頷く。

「うん!」

その小さな紙は、今も鮮やかに思い出を切り取っている。
あの幸せな記憶を、いつまでもいつまでも映し出し続ける。


しあわせでしあわせでしあわせで。