しあわせでしあわせでしあわせで(日課)



夕暮れの街を、二人で歩く。
真っ赤に染まったアスファルトに、二人の影が並んで伸びる。
ただ影が並んでいるだけでも、とても嬉しい。
バラバラじゃない。
ちゃんと並んでいるのが、嬉しい。
その影を見てにやにやしていると、手がそっと大きなもので包まれた。

「わ!」
「今更手を繋いだぐらいでびくびくするなよ」
「ご、ごめんね」

思わず飛び上がった私に、友ちゃんが呆れてため息をつく。
だって、友ちゃんに手を繋いでもらえるなんて、今でも信じられない。
何度繋いでも、慣れることはない。
毎日毎日、朝起きるたびに夢なんじゃないかと思っている。
だってこんな幸せな世界、幸せで幸せで、まるで脆いガラス細工みたい。
触ったら今にも壊れてしまいそう。
現実なのがいっそ怖いくらい。
毎日起きるたびに思う。

ああ、夢でよかった。
ああ、夢だったんだ。

現実だったことが嬉しい。
だって、友ちゃんは今は私の隣にいてくれるんだから。
現実だったことが怖い。
だって、いつか友ちゃんは私の隣からいなくなるんだから。

「全く。こんなんじゃいつになったら先にいけるんだよ」
「先!?」
「いや、なんでもない」

そう言って友ちゃんはそっぽを向いてしまうが、今の台詞はしっかり頭にこびりついてしまった。
先ってことは、先ってことだよね。
手を繋いだ先にあるものはなんだろう。
もっと触って、抱きしめて、えっと、キスして、えっちして。

「うわあ、無理無理!」
「な、なんだ!?」
「あ、ごめん、なんでもない!」
「なんだよ」
「ご、ごめんね」

急に叫び出した私に、友ちゃんがびくりと驚いてこちらを向く。
ああ、想像しただけで心臓が痛いくらいに波打っている。
簡単にえっちしよ、なんて言えてた頃が懐かしい。
絶対に叶わないから、夢見ていられた。
今は、もしかしたら、万が一なら、叶うことがあるかもしれない。
本当に万が一、なら。

でも、そんなの無理だ。
友ちゃんにこれ以上触ってもらうなんて、無理。
どう考えたって、無理。
そんなの、私が、耐えられない。
これ以上友ちゃんの傍に行くなんて、そんな幸せをもらったら、余計に諦める時に辛すぎる。
痛すぎるのは、耐えられないかもしれない。

「どうした、みのり?」
「あ、えっと」

友ちゃんが黙りこんだ私の顔を心配そうにのぞき込む。
少し腰をかがめてくれたから、友ちゃんの顔がすぐそこにあって、一気に顔も体も熱くなる。

「………あ」

その時横目で見たアスファルトの影に、思わず声を上げてしまう。
二つ並んでいた、私と友ちゃんの影。
それが、くっついてつながって、一つになる。
まるで、キスしているようだ。

「………」
「みのり?」
「………あのね、友ちゃん、ちょっと耳貸して」
「なんだよ」

ふっと笑って、友ちゃんがもっと腰をかがめてくれる。
影がもっと寄り添って、まるで抱きしめあっているよう。
ああ、もうちょっとそのままで。
友ちゃんにくっつきたい。
友ちゃんにくっつきたくない。
だから、もうちょっとこのままで。

影ぐらいで、ちょうどいい。


しあわせでしあわせでしあわせで。