「あのね、芝生の上が一面イルミネーションでね、すっごい綺麗なの」
「へえ、去年見に行ったのか?」
「うん、友達と」

街中が徐々にイルミネーションで彩られ、年末の祭りを思わせる。
薄暗くなった空の下、しょぼい光に照らされて街はにわかに活気づいている。
ぶらぶらと歩きながら、みのりはにこにこと嬉しそうに笑う。
最近のみのりはますますかわいくなっている気がする。
俺のおかげだな、とか思う。

「友ちゃんは去年はどこのイルミネーション見たの?」
「えっと、どこだったけ」

去年のことなんて、あんまり覚えていない。
そもそもあんまりイルミネーションなんて興味ないし。
まあ、綺麗だとは思うが、女ほど思い入れもない。

「えーと、確か、表参道の奴だったかなあ、ああ、そうだ、見たいって」

去年の彼女にねだられて、ついでにプレゼントもねだられた。
って言おうとして言葉を飲み込んだ。

「友ちゃん?」
「……いや、今年はどこ見にいこっか」
「え」
「今年のクリスマスは、お前と一緒だろ?」

みのりの笑顔が固まる。
それからすぐ後に、そんなこと気付かせないようににっこりと笑う。
その表情の変化はほんの一瞬だったけれど、でも確かだった。

「まだまだ先の話だよ、早いよ」

また、だ。
出そうになるため息をなんとか押し留める。

「そんなこと言ってるとすぐだぞ」
「うーん」

困ったように眉を下げて笑う。
まるで俺が我儘を言っているからと、なだめるように。

「今年のお前のプレゼントはなんだろうな?」
「………クリスマス時期って、おいしそうなお菓子いっぱい出るんだよね。毎回自分の分もいっぱい買っちゃう」
「お前は本当に食い気だな」
「た、食べることは大事だよ」
「そうだな。じゃあ、お前へのプレゼントも食いものかな」
「なんか話してたら、ケーキ食べたくなっちゃった。ねえ、友ちゃん、時間あったら一緒に行こ?」

首をかしげて俺を見上げるみのりはとてもかわいい。
けれど、俺はついにため息をついてしまう。
みのりはそっと目を逸らす。
付き合い始めてからずっと、変わらない。

約束をしたい俺。
約束をしたくないみのり。
未来につなぎたい俺。
未来なんてないと思っているみのり。

どうしてお前は、いつまでたっても俺を信じないんだ。
俺が悪いと分かっていても、それでも苛立ってしまう。

急にみのりの顔すら見たくなくなる。
彼女に信じてもらえない彼氏。
なんて情けない。
好きだからこそ、大事だからこそ、信じてもらえないのが辛くてムカついて悲しい。

「そういえばね、ずっと、イルミネーションの下、歩きたいなあって思ってた」

黙って歩いていたら、ぼそっとみのりが言った。
自然と、視線を隣に移す。
みのりが俺を見上げていつものように、嬉しそうに笑う。

「嬉しいな。かなった。ずっとずっと、一緒に歩きたかったんだ」

有名なところと比べるとなんともしょぼいイルミネーション。
寂しい光の下、それでもみのりは喜んでいる。
胸にどうしようもなく熱い思いが溢れてくる。

「歩けるだろ。これから、ずっと」

みのりの返事はない。
ただつないだ手にぎゅっと力を込められた。
ちょっと汗ばんでいる、柔らかく小さな手。
愛しさが、こみあげる。

ムカついて、苛立って、時折本当に殴りたくなるぐらいムカついて。
でも、それでも可愛くて、愛しくて、抱きしめたくなる。

だから俺も何度でも頑張ろう。
みのりが信じてくれるまで。

君と約束が、できるまで。
もっと綺麗なイルミネーションの下で、君が笑ってくれるまで。





TOP