「じゃあ、クリスマスプレゼントにあんたの処女ください」 とりあえず全力で殴った。 「痛いな。相変わらず乱暴女だな」 「当然の罰だ!なんで!私が!その、えっと…」 「処女?」 「言うな!」 「いいじゃん、クリスマスに処女喪失」 なんでこういう話になったんだっけ。 なんの話だったっけ。 クリスマスの話をしていた気がする。 でもなんでこういう流れに。 分からない。 とりあえず全て野口が悪いと思う。 向かいの席に座った男は、いやらしいことなんて興味ありません、というすがすがしい顔をしながら真昼間からシモネタ全開セクハラ一直線だ。 教室に誰もいない放課後でよかった。 私は指をつきつけて、文節ごとで区切って、一音一音はっきりと言葉を口にした。 「なんで、私が、そもそも、あんたに、クリスマスプレゼント、なんて、あげなくちゃ、いけないんですか!」 「俺があんたを好きだから」 「三番目にな!」 「そここだわるね。一番になりたいの?」 「なりたくない!」 そういう訳じゃないんだ。 いや三番目ってのは気になるが、だからと言って一番になりたいって訳じゃないんだ。 ていうか絶対私の方が常識的な話をしているはずなのに、なんで野口の方が冷静なんだ。 なんで私の方が困った奴だな、みたいな目で見られなくちゃいけないんだ。 色々おかしいだろう。 頭を抱えていると、野口が小さく笑った。 「でもさ、三田とクリスマス、一緒に過ごしたいな」 頬付けをついて、ちょっとけだるげに私を見つめてくる。 こういう顔をしたこいつはなんだか妙にいやらしくて少しドキッとする。 「一緒に街の中歩きたいな。クリスマス時期は、どこ歩いても綺麗だよね」 なんだかいつもと違って優しげとさえ言える表情で、机の上においてあった私の手をそっと取る。 振り払おうかと思ったが、なんとかなくそのままにしてしまう。 その声が、思いのほか真剣だったからかもしれない。 「高いのは無理だけどちょっと頑張っておいしいご飯食べて。かわいいケーキも食べたいな。ホールでもいいし、ピースを二人で交換して食べるのもいいね」 なんだか説明が妙に具体的で、なんとなくその情景が脳裏に浮かぶ。 じわじわと重なった手が熱くなってくる。 「プレゼント交換して。三田がちょっとかわいい服を着てくれると嬉しいな」 手をぎゅっと握られて、目を伏せた野口の口元に持っていかれる。 野口の息を、感じる。 なんだか心臓がばっくんばっくん、壊れるんじゃないかってくらい早く強く鳴っていて何も言えなくなってしまう。 「特別な日に、三田と一緒にいたいよ。きっと三田となら、楽しい」 野口が伏せていた目を上げて、私をじっと見つめる。 そして、優しく笑った。 「好きだよ、三田」 野口の顔が机の向こうからゆっくりと近づいてくる。 なぜか目が離せない。 顔をそらすことが、できない。 握ったままの手が、熱い。 後10cmぐらいで触れてしまう。 たまらなくて、目をぎゅっと瞑る そして。 「簡単に流されんなよ。本当に少女漫画的展開に弱いな」 頬をぺしんと叩かれた。 驚いて目を開けると、眼鏡の男がにやにやとチェシャ猫のように笑っていた。 「な」 「あんたって乙女だよな。ガサツに見えて中身は乙女ってお約束過ぎて逆に新鮮」 「な、な、な」 顔がじわじわと熱くなってくる。 先ほどとは違って、怒りで。 野口はいまだに楽しそうに笑っている。 「でも、そういうところ好きだよ。俺以外に流されないでくれよ」 「ふざけんなー!!!!」 そしてまた、私はまた全力で野口の頭を殴るために手を振りかぶった。 |