メールで入ってきた言葉はそっけない言葉。 でも、とてもストレートで、気持ちが伝わる言葉。 「好きです、付き合ってください」 その言葉で私の世界は薔薇色になった。 脳内でクラッカーが鳴り響き、花が咲き乱れる。 だって、私は野良犬で、彼は血統書付だったから。 彼、藤原敬太はかっこいい。 彼は私にはもったいないほどかっこいい。 素敵な素敵な人だった。 顔もいいし、頭もいいし、おまけに優しい。 一緒のクラスで、2度3度集団で出かけたくらいの仲。 特別親しい、なんて訳じゃなかった。 むしろクラスの中でも疎遠な方だった。 でも、私はずっと彼が好きだったのだ。 彼は血統書つきの、ラブラドル。 お行儀良くてかっこよくて頭がよくて、綺麗で皆に愛され、皆に貢献する。 私、三田由紀は、かわいくない。 ガサツでかわいくなくて、女の子らしくなくてその上乱暴。 私は、雑種の野良犬だ。 性格悪いし、黒いし、でかいし、小汚い上に、吠える。 皆から嫌われる害獣だ。 本当は、女らしくなりたい気持はある。 でも、かわいいことに興味はあるのに、素直に女らしくすることは怖い。 だって、精一杯女らしくしても、私はそんなにかわいくない。 精一杯努力しても、女と認められなかったらきっと立ち直れない。 だから、女らしいものに興味がない、なんて顔をして強がってた。 努力することから、逃げていた。 綺麗で愛される犬になりたいのに、血統書つきの群れに憧れるのに、あんなお行儀だけいい奴ら、根性なくてつまらない、なんてうそぶいていた。 手に入らないブドウは酸っぱいと、自分をだましていた。 野良犬の負け犬だ。 でも、そんな負け犬でも、彼だけは優しくしてくれた。 彼は、私に優しかった。 賢いラブラドルの彼は、野良犬にさえ優しくて博愛精神に満ちていた。 それは、他の女の子と同じような扱いだけど、それでも嬉しかった。 他の女の子と、同じ扱いをされるのが、嬉しかった。 ジュースを持ってきてくれたり、荷物を持ってくれたり。 そんな些細なこと。 でも、それがとてもとても、嬉しかったのだ。 だから、私は彼が大好きだったのだ。 そんな彼からの、思いがけない告白。 私は信じられない気持と、信じたい気持でいっぱいだった。 |