メールで入ってきた言葉はそっけない言葉。
でも、とてもストレートで、気持ちが伝わる言葉。

「好きです、付き合ってください」

その言葉で私の世界は薔薇色になった。
脳内でクラッカーが鳴り響き、花が咲き乱れる。

だって、私は野良犬で、彼は血統書付だったから。



***




彼、藤原敬太はかっこいい。

彼は私にはもったいないほどかっこいい。
素敵な素敵な人だった。
顔もいいし、頭もいいし、おまけに優しい。
一緒のクラスで、2度3度集団で出かけたくらいの仲。
特別親しい、なんて訳じゃなかった。
むしろクラスの中でも疎遠な方だった。
でも、私はずっと彼が好きだったのだ。

彼は血統書つきの、ラブラドル。
お行儀良くてかっこよくて頭がよくて、綺麗で皆に愛され、皆に貢献する。

私、三田由紀は、かわいくない。
ガサツでかわいくなくて、女の子らしくなくてその上乱暴。

私は、雑種の野良犬だ。
性格悪いし、黒いし、でかいし、小汚い上に、吠える。
皆から嫌われる害獣だ。

本当は、女らしくなりたい気持はある。
でも、かわいいことに興味はあるのに、素直に女らしくすることは怖い。
だって、精一杯女らしくしても、私はそんなにかわいくない。

精一杯努力しても、女と認められなかったらきっと立ち直れない。
だから、女らしいものに興味がない、なんて顔をして強がってた。
努力することから、逃げていた。

綺麗で愛される犬になりたいのに、血統書つきの群れに憧れるのに、あんなお行儀だけいい奴ら、根性なくてつまらない、なんてうそぶいていた。
手に入らないブドウは酸っぱいと、自分をだましていた。
野良犬の負け犬だ。

でも、そんな負け犬でも、彼だけは優しくしてくれた。
彼は、私に優しかった。
賢いラブラドルの彼は、野良犬にさえ優しくて博愛精神に満ちていた。
それは、他の女の子と同じような扱いだけど、それでも嬉しかった。
他の女の子と、同じ扱いをされるのが、嬉しかった。
ジュースを持ってきてくれたり、荷物を持ってくれたり。
そんな些細なこと。
でも、それがとてもとても、嬉しかったのだ。

だから、私は彼が大好きだったのだ。



***




そんな彼からの、思いがけない告白。
私は信じられない気持と、信じたい気持でいっぱいだった。





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