「…私は、あなたになんて会いたくない。顔も見たくない、声を聞きたくない、今すぐに消えてしまえ」 その怯えた目が、とてもかわいくて。 その震える声が、とても耳に心地よくて。 「今すぐに消えなければ、その薄ら寒いにやけ顔を叩き潰してやる。二度と軽口がきけないように、口を引き裂いてやる!」 俺を罵る言葉に、胸が熱くなって。 君の嫌悪の表情に、愛おしさが溢れて行く。 ああ、少し強くなったんだね、芙美さん。 俺をそんな風に拒絶することが出来るなんて。 今すぐにも逃げ出さないなんて。 強くて優しくてかわいい芙美さん。 二年間、ずっとずっと想い焦がれていたんだよ。 何度も何度も思い出しては、すぐにも君に会いにいきそうになった。 ここまで我慢出来た自分は、とても我慢強いと思う。 「ああ、やっぱり、芙美さんは最高だね」 でも、二年間置いて、正解だった。 前よりもずっと綺麗になった。 前よりもずっと儚くなった。 その、張り詰めた精神も。 俺を拒絶する矜持も。 何もかもが愛しくてたまらない。 何もかもを叩きつぶしたくてたまらない。 「もう、ゾクゾクしちゃった。大好きだよ、芙美さん。もっと怒って、もっと罵って、もっとその目で見て」 怯えて、憎んで、恐怖して、縋って。 その全ての感情で、俺を見て。 君の全てで、俺を憎んで。 「あ」 けれど芙美さんはそこで俺に背を向けて逃げ出してしまった。 最後に見せたのは、怯えた顔。 ああ、その全ての表情が、俺を惹きつけてやまない。 なんて、ちょっと臭いかな。 俺って詩人だなあ。 国語の成績悪いのに、恋って人を詩人にする。 でも、彼女が、変わってなくてよかった。 あの頃の、いや、あの頃よりもずっと綺麗になっていた。 「大好きだよ、芙美さん」 大好きだよ。 君が大好きだよ。 君の感情の全てを、俺に向けて欲しい。 君の全てを、俺の手の内で握りつぶしたい。 どろどろに優しくしたい。 めちゃくちゃに壊したい。 そして、君が俺をぐちゃぐちゃにしてくれたら、最高。 逃げてね、芙美さん。 そしたらもっと楽しくなる。 逃げて逃げて逃げて、捕まった時の君は、どんな顔をするだろう。 諦めだろうか、恐怖だろうか、絶望だろうか。 考えただけで、楽しくなってきてしまう。 君のことを考えるだけで、ワクワクして、ウキウキしてくる。 心が浮き立って、自然と鼻歌なんて出てきてしまう。 やっぱり、これは恋なんだろうな。 君を見て確信した。 やっぱり俺は君が好きなんだ。 「うーん、恋っていいなあ」 こんなにも浮かれて、世界が薔薇色になってしまう。 君に会ってやっぱり思う。 恋はなんて素敵なもの。 俺ってなんて恋に一途。 大好きな君のことで頭がいっぱい。 心臓が早鐘を打つ。 体だって軽くなって、今ならなんだって出来そう。 「逃げてね、芙美さん」 全力で逃げて。 俺から逃げ切って。 そして幸せになって。 全力で逃げて。 逃げる君を追い詰める。 そして一緒に堕ちよう。 「大好きだよ、芙美さん」 逃げて逃げて逃げて。 きっと君を捕まえて見せるから。 |