「永遠に一緒だよ、真衣ちゃん」 弟が、腕の中に私を閉じ込めながら熱っぽい声で、言う。 その柔らかい抱擁が気持ち良くて、私は千尋の肩に顔を埋め目を閉じる。 懐かしい匂い。 いつだって傍にあった匂い。 誰よりも近しいところにあった、匂い。 「ずっとずっと、一緒だよ。俺たちは、ずっとずっと、これまでも、これからも一緒だよ」 酔ったように囁かれる言葉に、気付かれないように苦く笑う。 千尋の言葉は夢物語。 賢い弟は、時折酷く愚かなことを言う。 子供っぽい、現実味のない未来を語る。 ずっと一緒なんて、信じられない。 私の心はいつだって迷っている。 今現在だって揺れている。 今すぐにだって、千尋から逃げてしまうかもしれない。 罪悪感と依存心。 嫌悪感と愛しさ。 同情と愛情。 依存と信頼。 執着と厭わしさ。 愛おしいと思った次の瞬間、憎らしいと思う。 親に愛される千尋を見て嫉妬して、私に縋りつく千尋を見て安心する。 抱きしめたいと思って、けれど触れられたくないと思う。 揺れ動く心。 今にも壊れてしまいそうな関係。 綱渡りするような、不安定な気持ち。 「好きだよ、真衣ちゃん。永遠に、一緒だよ」 永遠なんてないよ、千尋。 永遠なんて、信じられない。 好奇心に満ちた目をした眼鏡の男が言っていた。 先のことなんて分からない。 絶対幸せになんて、なれやしない。 私も、そう思う。 永遠なんて、信じれられない。 未来を約束するには、私たちは幼すぎる。 未来を信じるには、私たちは大人過ぎる。 「そうだね、千尋」 けれど、今こうして、私にしがみつく弟が愛しいと思うのは本当。 この温かさと、憐みと、切なさと、愛しさがないまぜになった気持ちは、本当。 だから私は、腕の中の弟を抱きしめる。 永遠なんて、ないよ、千尋。 でもね。 「永遠が、あるといいね、千尋」 |