『セツコも体調が悪いようですし、今日はここまでにしましょうか』 『だから本気で殺すわよ、このセクハラ悪魔!』 確かに今日はお腹は痛いし、使い慣れないナプキンもどきは不安定でいつ漏れるんじゃないかとひやひやしている。 こっちの生理用品は微妙なタンポンみたいな感じで布をつっこむ綿と布だった。 衛生的に不安だし気持ち悪かったから、紙と綿と布を重ねて下着できつく固定して簡易ナプキンみたいなのを作ってみたのだ。 なんとかもっているが、やっぱり漏れてくるんじゃないかと不安だ。 と気もそぞろになっているところにこれだ。 悪魔は困ったように苦笑して、首を傾げる。 『気遣ったつもりだったのですが、女性は難しいですね』 『下半身の話をされて楽しい女がどこにいるの?それともこの世界ではそれが普通なのかしら?』 『別に下半身の話はしてないないですよ。体調を気遣っただけです』 『それがセクハラだっつってんだ!私には生理中にイライラする権利もないって訳!?基本的人権を主張します!私に人間らしい生活を返して!』 立ちあがって机をたたくと、その瞬間にどろりとしたものが体の中から出て行くのを感じる。 30年間付き合ってきた、忌々しい感触。 それと同時に重い腰に走る鈍痛。 『た、たたたたた………』 『安静にしておいた方がいいんじゃないですか?』 『誰が興奮させているのよ!』 ああ、叫ぶと腹に力が入ってまた血が流れて行く感触。 くそ、なんで女ばっかりこんななのよ。 男にもあればいいのよ。 ケツにでもなんでもタンポン詰めてろ。 ああ、だめだめ下品すぎる。 もうやだ、生理なんて止まっちゃえ。 その時ドアがノックされて、ネストリがそれに応える。 おずおずと入ってきたのはエミリアではない、焦げ茶の髪のメイドさん。 手には毛布のようなものを持っている。 『とにかく、早く休んでください。レヴィ地方のアルクの毛で織った腰巻です。だいぶ温かいですよ』 なんだそれ。 こいつのウンチクはいっつも意味がわからない。 睨みつけるとメイドさんがちょっと戸惑いがちに笑って、毛布を私に渡してくる。 ふわりとした優しい手触り。 わ、カシミヤみたい。 とりあえず受け取って、礼を言った。 メイドさんはほっとしように息をはいて、大きく礼をして去っていった。 だからなんだその怯えた態度は。 『部屋に鎮痛作用のあるお茶を用意させました。では私は失礼します』 『…………』 何、なんかたくらんでんのこの悪魔。 こいつの親切なんて、裏があるか、なにか落とし穴があるに決まっている。 この毛布みたいなのに魔法でもかけてあるのかしら。 生理痛が10倍になる、とか。 『さて、どうでしょうね』 私の思考を読んだのか、くすりと笑ってネストリは出ていった。 後に残されたのは、毛布と静寂。 『て、結局言わないのかよ!』 私は恐る恐る、その毛布を眺めた。 「セツコ、お茶を用意しました。大丈夫ですか?」 結構こいつお茶持ってくるわよね。 なんでこういうパシリみたいなことしてるのかしら。 多分忙しいんだろうに。 要領悪いんだろうなあ。 「ネストリと話して、悪くなった」 「本当にネストリは、セツコが好きですね」 苦笑しながら、エリアスがお茶のセットを机に置く。 手際よくそれを木製のカップに注いでいく。 「は!?」 「ネストリがあんなに構う、セツコだけです」 「………」 まあ、構われてるのか。 うん、構われてるのかな。 多分遊ばれてるわよね。 弄ばれるっていうか、おもちゃとして遊ばれてるわよね。 言葉どおり、モノよね。 「ネストリは、興味がないと、その存在に、気づかない」 「………」 「セツコのこと、好きなんですね」 にっこりと笑ってエリアスが言う。 その他意のない笑顔に、殺意が湧いてきた。 あれがあいつのコミュニケーションって訳ね。 ナチュラルセクハラな訳ね。 生まれつきのドSって訳ね。 そう。 私好かれてるの。 『全く嬉しくないわよ!あんなコミュニケーションだったらない方がマシよ!』 誰があの悪魔に、コミュニケーションの取り方のマニュアル本でも見せてやって。 女の扱い知らない男子学生の方がまだエチケットを知っている。 |