それはきっと、甘い気がした。 「わ」 ぽろぽろと零れて、机の上ではじけて消えるその水の粒がもったいなくて。 キラキラ光るそれが、とてもおいしそうに見えて。 きっとそれは、彼の体と同様に甘いのだろうと、思ったのだ。 「ど、どうしたの?兄さん」 俺がその白い頬を舐めると、睦月は丸まるように肩を竦めた。 その怯えた小動物のような姿に、苦笑が零れる。 「しょっぱいな」 「当たり前だろ、涙なんてしょっぱいよ」 「そうなんだけどな」 睦月の涙は甘いのではないかと思ったのだ。 まるで蜂蜜のように、蕩けるように甘いのではないのかと。 「お前の涙って、甘い気がした」 「何それ」 俺の馬鹿な言葉に、呆れたように睦月が笑う。 涙で潤んだ眼は充血して赤い。 白い顔の中、眼は真っ赤で余計に痛々しい。 でもそれは、小さいころからずっと見ていた馴染み深いもの。 「お前って、よく泣くよな」 「これは仕方ないだろ。目にゴミが入ったんだから」 憮然としていまだ零れる涙を止めようとしてか、目を擦る。 擦りすぎて、目尻も赤くなってくる。 「ほら、こするな」 「あ」 顔を押さえつけて、舌で大きな目をなぞってゴミを掬い出す。 パキっと音を立てて折れそうな硬質で華奢な体が小さく震える。 けれど暴れもせず身を任せる仕草に、自分の身も熱を孕む。 至近距離の大きな潤んだ目が、じっと俺を見返している。 「………緑の涙は、甘かったかな」 「あいつのはスパイスが効いてそう」 「兄さん、ひどい」 くすりと、小さく睦月が笑う。 緑の話は、お互いの傷を抉り取る。 けれど、傷を確かめるように、何度も何度も傷口に爪を立てる。 傷が消えないように、抉り取っては痛みを思い出す。 「あ」 もう一度零れた涙を、そっと吸い取る。 睦月がびくりと体を震わせる。 「やっぱりしょっぱい」 「だから、当たり前だろ」 「もっと泣いてみて、確かめるから」 「え、ちょ」 濡れている頬を舐めて、そのまま耳を舌でなぞる。 睦月が小さく声を上げる。 「もっと泣いて。お前の泣き顔、見たい」 「……に、いさん」 睦月が熱を帯びた目で、見上げてくる。 凶暴な衝動と、抱きつぶしたくなる庇護欲に、酔ったようにくらくらする。 もっともっと泣いて。 その綺麗な涙をもっと見せて。 塩辛いそれは、媚薬のように甘く溶ける。 お前が泣くのは俺の前。 その涙は俺のため。 その全ては俺のもの。 |