目を覚ますと、そばかすだらけの幼い顔がすぐそこにあった。
気持ち良さそうに口を開けて、息がかかるほど至近距離で眠っている。
一瞬何がなんだか分からず、何度も瞬きをした。
けれど目の前の顔は、消えない。

夢なのかと考えて、体を起こし周りを見渡す。
そしてゆっくりと状況を思い出す。
ああ、ここは目の前のクラスメイトの家。
水の音がする貝殻のおもちゃが、風に揺れている。
毛足のながいカーペットの上。
私はまたここで眠ってしまったのか。

いつのまにかかけられていたタオルケット。
もう暑くなってきているが、何もかけずに寝たら風邪を引くだろう。
目の前の男にかけるべきかどうか迷う。

「………あ、おはよ」

けれど実行に移す前に、小学生にも見えるクラスメイトが目を開けた。
寝ぼけ眼でこしこしと顔をこする。
そんな仕草も、どこか幼い。

「………おはようございます」

返事を返すと、加賀谷は嬉しそうににっこりと笑った。
そしてごろごろとむずがるように床を転がる。

「まだ、もうちょっと眠いなあ」
「………なんで寝てるんですか」
「眠いから」
「………なんで私の隣で寝ているんですか?」
「芙美さんがかわいかったから」

普通の女の子は、ここで喜ぶところなのだろうか。
だが、この人に、そう言った感情を呼び起こされることはない。

「あなたの言うことは、本当に嘘臭い」
「本当なのにな」

私のいつもの言葉に、加賀谷は苦笑する。
普段は子供ぽいくせに、そんな表情はどきりとするくらい大人っぽい。
加賀谷はまたごろりと転がって、私を甘えるように見上げる。

「ね、もうちょっと寝ない?」

いやだ、と言いかけて、ちょっと考える。
まだ、体が睡眠を必要としている。
この家に来て、寝ても寝ても足りない。
まだタオルケットは体温を移して温かい。
カーペットの毛足は柔らかくて気持ちがいい。

「………はい、寝ます」

そう言うと加賀谷は一瞬目を丸くする。
私が承諾するとは考えてなかったのだろう。
けれど一瞬の後、無邪気に笑った。

「うん、寝よう」

カーペットに横になると、加賀谷が手をそっと握った。
相変わらず人の体温は気持ち悪い。
不快感から、振り払いそうになる。

「寝て起きて、誰かがいるって、いいね」

加賀谷が小さい声で言って、そっと目を閉じる。
私も我慢して目をつぶった。
やっぱり慣れなくて気持ち悪いが、睡魔はそれすら消し去ってくれる。
家にいる時のような、眠る前の焦燥感はない。
眠ることに罪悪感を抱くことはない。

いまだはただ眠りたい。
きっと寝て、目が覚めたら。

そこにはやっぱり子供のようなクラスメイトがいるのだろう。





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