落ちていく私に見えたのは、誰よりも近しい2人の男。
そして、細く白い腕をした加害者。

そこに浮かぶのは驚きと後悔と嫉妬心。

そして、哀しみ。


それはとても、愛おしく親しみのあるものだった。
あれは私。
醜く、けれど真っ直ぐな心。
あれは、私。


私に害を及ぼした腕は、けれどすぐに私を救うものへと変わる。
私はその細く近しい腕に、手を伸ばした。



***




「ご、めん……なさいっ……」
小作りな整った顔を涙で濡らしゆがめている。
泣いてる顔なんて、誰がしてもそんなにかわいくないものだけれど、彼女のその歪んだ顔はとても綺麗に感じた。
「……いいよ、別に」
「ごめん、なさい……」
それでもなお、冷たい廊下に祈るように身を伏せて許しを請う哀れな少女。
それはとても可哀想で、見ていられなくて私は彼女の綺麗な薄茶の髪に手を這わす。
びくりと震えて、罪をとわれることに怯えている。
「本当に、いいよ」
「……え……?」
「あんたは、私だから」
置いていかれるのが嫌で、1人にされたくなくて、優秀な男を独り占めしたくて。
愚かで純粋で、醜悪な感情。
それは何よりも、私の中にあったもの。

弟を縛って。
逃げられないように、捕まえていた。

彼女が泣いているのは、私の罪。
彼女がしたことは、私の罪。

それでも私以上に素直に泣き、感情を発露するこの少女が、とても愛おしかった。
柔らかく滑らかな感触の髪に指を通す。

いつのまにか、少女の涙は止まっていた。
どこか呆けた無防備な顔で、私を見ている。

「あんたって、かわいいね」
この少女が嫌いだった。
嫌いだったからこそ、嫌われているように感じた。
それは鏡。
私の醜悪な心をうつす鏡。

そんな私に、こんなにも謝罪する少女。
このこは、何も、悪くないのに。

「本当に、いいよ」
「で、でも……」
「悪いのは、私」

何がなんだか分からない、というように私を見上げる。
目尻にたまっていた涙がぽろりと零れ落ちる。
その綺麗な水滴がもったいなくて、自然と指ですくいあげた。

きらきらと光る球体。

静かに吸うと、塩辛い味がした。

少女が小首を傾げてまたたきすると同時に、また零れ落ちる。

私の前で身を伏せる少女が哀れで、愛しくて。
私は少女の目尻を唇を寄せた。

少女は黙って、目を伏せた。






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