駅についたのは、もう夜に近かった。

冬休みに入り、父の実家である東北の小さな町に訪れることにした。
理由は特にない。
勉強しろとうるさい親から逃れるためとか、雪が見たかったとか、
そんなものだ。
女友達は皆、高校生活初の冬休み(の間のイベント群)に燃えているし、
自身がクリスマスを一緒にすごす相手や、除夜の鐘を一緒に聞くような
相手が出来なかったのも一因と言えるかもしれないが。
女の友情の儚さよ。
ずっと家で無聊な日々を送っていても仕方がないので、お金のかからない
場所に旅行にくることにした。
スキーやスノボも出来るらしいし、冬休みいっぱいいる予定だ。



***




ああ、くそ、なんだよ、この雪は!!!!
皮のブーツで雪を掻き分け、重い荷物を担ぎながら、ホワイトアウトした道を行く。
周りに民家はすでにない。
道をもしかしたら間違ったのかと気づいた時にはすでに遅かった。
もはや前も牛をも分からない。
「ああ、くそ、ここで死にたくないわよ!」
と、雪を蹴り飛ばして毒づいた時、後ろから声がかけられた。
「鈴鹿ちゃん、鈴鹿ちゃん!!!!」
どこか高い、けれど確かに男の子の声。
私は思わず後ろを振り向く。
そこには、私よりいくぶん背が低い、小学生だが中学生ぐらいの男の子。
おお、結構な美少年。
うらやましいぐらい真っ直ぐでつややかな黒髪。
雪国特有の白い肌。
切れ長な黒い目が、彼を大人びて見せた。
「鈴鹿ちゃん!」
どうやら向こうはこっちを知っているらしい。
が、こっちには全く覚えがない。
雪の中を器用にかき分けてこちらにかけてくる。
私はとりあえずその場で待った。
少年は私の目の前まで来ると、嬉しそうに頬を緩めた。
おお、ますます美少年。
「ひ、久しぶりだね、鈴鹿ちゃん!」
「あんた誰」
私のもっともな質問に、なぜか目の前の少年は顔をくしゃりとゆがませた。
今にも泣きそうな、情けない顔。
あ、この顔には何か覚えが……。
「す、鈴鹿ちゃん、お、俺だよ、駿だよ……」
大人びた顔とは裏腹な、情けない仕草。
駿……。
そしてこの情けない泣き顔……。



『鈴鹿ちゃん、待って!』
ついてこれないくせに、いつも私の後ろをちょこまかとまとわりついてきた小さな影。
可愛い顔した雪国の4つ年下の男の子。



思い出した。
「泣き虫弱虫へたれ駿!」
その言葉に、とうとう目の前の男の子は涙をこぼした。
ぽろりと綺麗な水が綺麗な目からあふれ出す。
「お、俺泣き虫じゃない!」
「泣いてんじゃん」
「な、泣いてないよ!鈴鹿ちゃんの馬鹿!」
「ほー、生意気言うのはこの口か」
目の前のつるつるとした触り心地のいいほっぺたを引っ張る。
くそ、若いな。肌が綺麗だ。
「いた、いた、痛いよ、鈴鹿ちゃん!ごめんなさい!」
速攻謝った。
相変わらずへたれだ。
「よろしい。かわんないねー、あんたも」
「ひ、ひどいよ、鈴鹿ちゃん」
「あんたが生意気言うから悪いんでしょ。で、なにしてんのこんなところで」
「す、鈴鹿ちゃんを迎えに来たんだよ」
ああ、なるほど。
自分でも言うのもなんだが、こんな街から外れたところまでご苦労さまだ。
「そりゃ、ありがとう。よく分かったね、ここが」
「うん、だって鈴鹿ちゃん、すごい転んだでしょ。人型残ってたよ」
まだ赤い目元で、今度はにっこりと笑う駿。
確かになれない雪道で、あちらこちらに形跡を残した覚えがある。
けれど、それを駿に指摘されるのは腹が立つ。
一発殴った。
「な、なにするの!ひどいよ!」
「うるさい、さっさと案内しな」
「う、うううー、こっちだよ……」
また涙目になりながら、それでも雪道をかき分ける少年。
本当に、この素直なところも変わってない。
私も体の向きを変えながら、その後ろについてこうとする。
と、またまた凍った雪に、足をとられる。
「う、わ!」
「鈴鹿ちゃん!」
どさり。
思いっきり顔面からつっこんだような気がしたが、なぜだか痛くない。
いくら雪とはいえ、少し凍っているから絶対に痛いはずだ。
私はとっさに瞑っていた目を恐る恐る開く。
私の下に、一回り小さな少年がつぶされていた。
「何してんの、あんた」
「……ひどいよ……」
涙目になりながらも、必死に私の体を支えている。
荷物もあるし、絶対に重いはずだ。
それでも、苦しそうに体を支えている。
私は思わず笑ってしまった。
「ごめんごめん。ありがとう、駿」
体をどかしながらの感謝の言葉に、目尻に涙をためながら駿は笑った。
花がほころぶような、どこか大人びた顔に似合わない、愛らしい笑顔。
その笑顔にも、懐かしい気分にさせられた。
「ちっとは成長してるじゃん。えらいえらい」
「え、えへへ。ね、鈴鹿ちゃん、昔の約束覚えてる?」
2人立ち上がりながら雪を払っていると、はにかみながらそんなことを聞いてた。
約束。
「は、なにそれ」
「え!!!!」
悲痛な声を上げて、またまたくしゃりと顔をゆがませる駿。
そんな駿にはかまわず、私はさっさと荷物を持ち上げた。
「ほら、さっさと行くよ」
そうして駿に、手を差し伸べる。
その手と私の顔を交互に見て、目を白黒させた後、駿はにっこりと微笑んだ。
「うん!」
そうして私の手に、駿の手を重ねる。
お、手はでかくなってじゃん。
嬉しそうに手をつないで先を行く駿を、どこか微笑ましい気分で見つめる私。



『僕が大きくなって、鈴鹿ちゃんを守れるようになったら、お嫁さんになってね!』



そんな約束果たしてやるにはまだまだだけど。
それでも。
それでも、今回の旅行は楽しいものになりそうだと。
そう、思った。





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