駅についたのは、もう夜に近かった。 冬休みに入り、父の実家である東北の小さな町に訪れることにした。 理由は特にない。 勉強しろとうるさい親から逃れるためとか、雪が見たかったとか、 そんなものだ。 女友達は皆、高校生活初の冬休み(の間のイベント群)に燃えているし、 自身がクリスマスを一緒にすごす相手や、除夜の鐘を一緒に聞くような 相手が出来なかったのも一因と言えるかもしれないが。 女の友情の儚さよ。 ずっと家で無聊な日々を送っていても仕方がないので、お金のかからない 場所に旅行にくることにした。 スキーやスノボも出来るらしいし、冬休みいっぱいいる予定だ。 ああ、くそ、なんだよ、この雪は!!!! 皮のブーツで雪を掻き分け、重い荷物を担ぎながら、ホワイトアウトした道を行く。 周りに民家はすでにない。 道をもしかしたら間違ったのかと気づいた時にはすでに遅かった。 もはや前も牛をも分からない。 「ああ、くそ、ここで死にたくないわよ!」 と、雪を蹴り飛ばして毒づいた時、後ろから声がかけられた。 「鈴鹿ちゃん、鈴鹿ちゃん!!!!」 どこか高い、けれど確かに男の子の声。 私は思わず後ろを振り向く。 そこには、私よりいくぶん背が低い、小学生だが中学生ぐらいの男の子。 おお、結構な美少年。 うらやましいぐらい真っ直ぐでつややかな黒髪。 雪国特有の白い肌。 切れ長な黒い目が、彼を大人びて見せた。 「鈴鹿ちゃん!」 どうやら向こうはこっちを知っているらしい。 が、こっちには全く覚えがない。 雪の中を器用にかき分けてこちらにかけてくる。 私はとりあえずその場で待った。 少年は私の目の前まで来ると、嬉しそうに頬を緩めた。 おお、ますます美少年。 「ひ、久しぶりだね、鈴鹿ちゃん!」 「あんた誰」 私のもっともな質問に、なぜか目の前の少年は顔をくしゃりとゆがませた。 今にも泣きそうな、情けない顔。 あ、この顔には何か覚えが……。 「す、鈴鹿ちゃん、お、俺だよ、駿だよ……」 大人びた顔とは裏腹な、情けない仕草。 駿……。 そしてこの情けない泣き顔……。 『鈴鹿ちゃん、待って!』 ついてこれないくせに、いつも私の後ろをちょこまかとまとわりついてきた小さな影。 可愛い顔した雪国の4つ年下の男の子。 思い出した。 「泣き虫弱虫へたれ駿!」 その言葉に、とうとう目の前の男の子は涙をこぼした。 ぽろりと綺麗な水が綺麗な目からあふれ出す。 「お、俺泣き虫じゃない!」 「泣いてんじゃん」 「な、泣いてないよ!鈴鹿ちゃんの馬鹿!」 「ほー、生意気言うのはこの口か」 目の前のつるつるとした触り心地のいいほっぺたを引っ張る。 くそ、若いな。肌が綺麗だ。 「いた、いた、痛いよ、鈴鹿ちゃん!ごめんなさい!」 速攻謝った。 相変わらずへたれだ。 「よろしい。かわんないねー、あんたも」 「ひ、ひどいよ、鈴鹿ちゃん」 「あんたが生意気言うから悪いんでしょ。で、なにしてんのこんなところで」 「す、鈴鹿ちゃんを迎えに来たんだよ」 ああ、なるほど。 自分でも言うのもなんだが、こんな街から外れたところまでご苦労さまだ。 「そりゃ、ありがとう。よく分かったね、ここが」 「うん、だって鈴鹿ちゃん、すごい転んだでしょ。人型残ってたよ」 まだ赤い目元で、今度はにっこりと笑う駿。 確かになれない雪道で、あちらこちらに形跡を残した覚えがある。 けれど、それを駿に指摘されるのは腹が立つ。 一発殴った。 「な、なにするの!ひどいよ!」 「うるさい、さっさと案内しな」 「う、うううー、こっちだよ……」 また涙目になりながら、それでも雪道をかき分ける少年。 本当に、この素直なところも変わってない。 私も体の向きを変えながら、その後ろについてこうとする。 と、またまた凍った雪に、足をとられる。 「う、わ!」 「鈴鹿ちゃん!」 どさり。 思いっきり顔面からつっこんだような気がしたが、なぜだか痛くない。 いくら雪とはいえ、少し凍っているから絶対に痛いはずだ。 私はとっさに瞑っていた目を恐る恐る開く。 私の下に、一回り小さな少年がつぶされていた。 「何してんの、あんた」 「……ひどいよ……」 涙目になりながらも、必死に私の体を支えている。 荷物もあるし、絶対に重いはずだ。 それでも、苦しそうに体を支えている。 私は思わず笑ってしまった。 「ごめんごめん。ありがとう、駿」 体をどかしながらの感謝の言葉に、目尻に涙をためながら駿は笑った。 花がほころぶような、どこか大人びた顔に似合わない、愛らしい笑顔。 その笑顔にも、懐かしい気分にさせられた。 「ちっとは成長してるじゃん。えらいえらい」 「え、えへへ。ね、鈴鹿ちゃん、昔の約束覚えてる?」 2人立ち上がりながら雪を払っていると、はにかみながらそんなことを聞いてた。 約束。 「は、なにそれ」 「え!!!!」 悲痛な声を上げて、またまたくしゃりと顔をゆがませる駿。 そんな駿にはかまわず、私はさっさと荷物を持ち上げた。 「ほら、さっさと行くよ」 そうして駿に、手を差し伸べる。 その手と私の顔を交互に見て、目を白黒させた後、駿はにっこりと微笑んだ。 「うん!」 そうして私の手に、駿の手を重ねる。 お、手はでかくなってじゃん。 嬉しそうに手をつないで先を行く駿を、どこか微笑ましい気分で見つめる私。 『僕が大きくなって、鈴鹿ちゃんを守れるようになったら、お嫁さんになってね!』 そんな約束果たしてやるにはまだまだだけど。 それでも。 それでも、今回の旅行は楽しいものになりそうだと。 そう、思った。 |