「おい、四天サン。茶碗はちゃんと流しに持ってけつってんだろ」

一人ずれた時間に起きてきて、一人でメシを食ったと思ったら、ソファでだらだらとして茶碗を放りっぱなしだ。
いつもは志藤さんや水垣なんかが甘やかして持ってくが、今ここには俺しかいない。
そして俺はもっていかない。

「はーい、ごめんなさい、お母さん」
「あんたみたいな息子は欲しくない」

イケメンで基本なんでもできる奴だが、性格がよろしくなさすぎる。

「冷たいなー、朝日は」
「悪いな」
「なんかさ、呼び方も志藤と俺だとちょっとイントネーション違うよね」
「そうか?」

素直に茶碗を流しに運ぶためにキッチンを往復する四天サンが何かぶつぶつ言っている。
何言ってんだ、この人は。

「尊敬を感じないというか」
「入ってないものを感じ取ってたらびっくりだわ」
「いやー、本当に朝日はツンデレで可愛いな」
「いだだだだ」

戻ってきた四天サンに、頭のてっぺんをぐりぐりされる。
だからこういうところが尊敬されない一因だろ。
頭を押さえて避難すると、四天サンの目が悪戯するガキのようにキラリを光る。
またなんかロクデモナイこと考え付いた気がする。

「もっと敬意をもって呼んでよ」
「なんだよ、どう呼べばいいんだよ。宮守さんとか?宮守様とか?」
「あ、俺、苗字呼び嫌いだからヤだ」
「面倒くせーな」

ソファの横に立ったまま四天サンが首をひねる。

「んー、そうだな。とりあえずサンを取ってみて」
「グレード落ちてんじゃねーか」
「いいからいいから」
「なんだそりゃ」

名前呼びとか、親しくもないのにしたくない。
まあ、この人がこうなったら仕方ない。

「四天」
「んー?」

淡々と言うと、四天サンがまた首をひねる。
それから今度はまた小さく笑って、さらに続ける。

「今度は、『し』を取ってみて」
「はあ?」
「いいからいいから」

ったく、この人のこの時折出てくる意味不明な行動も嫌なところだ。
絡み始められると心底面倒くさい。
逃げられないし。

「えーと、天サン?なんか漫画にそういうキャラいなかったか?」
「いたね。俺、目三つないけど」

ああ、国民的人気漫画に出てきたやつか。
早々にレギュラーから外れたやつだ。。
そう思うと、この呼び方で呼んでやってもいい気がする。

「サンはいらない」

そして四天サンはさらに続ける。

「………まだ続くのか」
「いいからいいから」
「はいはい」

ああ、もう本当に面倒くせーな。
さっさと終わらないだろうか。
えーと、し、とサン、を取って。

「天」

四天サンは俺の顔をじっと見て、また首をひねる。

「んー」

それから一つ頷いて、綺麗ににっこりと笑った。

「うん。やっぱりないわ」
「なんだそりゃ!」

ないわってなんだよ。
なんだこの、言わされただけなのに、俺がやらかした感。

「あはは、朝日のその俺に対する嫌そーな態度に懐かしくなっちゃって」
「はあ?」
「でもやっぱり違うね」

だからこいつのこういう意味不明なところが嫌なんだよ。

「で、俺はどう呼べばいいんだよ」
「あ、お好きにどうぞ」

なんだそりゃ。
本当にこの人面倒くせえ。
さっさと帰ってきてくれ志藤さん、水垣。
俺にこの人は手に負えない。

「んじゃ遠慮なく尊敬こめずに元通り嫌そうな感じで呼ばせてもらうわ」
「本当に朝日はかわいいね」

四天さんは楽しそうに笑うと、また俺の頭のてっぺんをぐりぐりした。



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