声に応じたのかどうか分からないが、黒い肉蛇たち一斉は俺たちをめがけてスピードをあげてきた。
さきほどの水垣の力に阻まれて、何匹かがそこで足止めを喰らう。
けれど、同じ仲間であるはずの黒蛇たちの体をこえて、別の蛇たちが俺たちに向かってくる。

でも、もうここは小屋の中じゃない。
逃げ場はある。
武器がある。
力は満ちている。
そして、一人じゃ、ない。
さっきとは、違う。

「きえ、うせろおおおお!!」

バットを振り払い、自分の力を放つ。
赤い力が浜辺を迸り、蛇たちを飲みこみ、その体を食らい尽くす。
火で燃やされたように、その体が一瞬で、消え去る。

「はは、ざまあみろ!!」

俺を食おうとした、お返しだ。
お前らは食う立場じゃない。
食う立場にあるのは、俺だ。
お前らなんて、捕食される立場なんだ。

「消えろ!」

追い打ちをかけるために走り、更に力を振るう。
小屋から出てきていた奴を、消え去るためにバットを振り払う。
蛇は、何匹もまとめて消え去った。

力を振るい、時には物理的に叩き潰し、蛇を消し去る。
どれくらいそうして殺していただろうか。
でも、蛇は後から後から、海からやってくる。
予想以上に量が多い。
さすがに苦しくなってくる。

「は、はあ、はあ」

全力疾走したように息が切れて、手足が重い。
苦しい。
痛い。
体の痛みも思い出してきた。
力をふるった後の虚脱感が、襲ってくる。
そろそろ、辛い。
解放された力も、そろそろ限界が近くなってきた。

「………大丈夫か?」
「まだ、いける」

でも、そんな弱音を吐いてはいられない。
水垣も結界を張り、一応みみっちくバケモノを潰し、力をふるっている。
でも、こういう量の多い奴らに向かうのは、向いてない。
だから、とりあえず、俺が立ち向かわないといけない。

「くっそ、死ね!!!」

もう一度力を放ち、俺たちに向かってくる蛇を追い払い、食らい尽くす。
けれど、海からは、後から後から、蛇どもがやってくる。

「キリが、ない!」

このまま力を揮い続けたとして、俺たちはどこまで持つのだろう。
さっさと逃げ出した方がいいのだろうか。
でも、こいつらから逃げられるのだろうか。
足が遅いとは思っていたが、意外と動きが早く、索敵能力もある。
確かに目的を持って、一心に、こちらに向かってくる。
蛇の一匹が俺と水垣の力を掻い潜って、すぐそばまで来てる。
そして体を伸ばし、俺の顔に食らいつこうとする。
反射的に顔を庇おうとして、手を顔の前にクロスさせる。
腕が食われる、な。

「っ」
「あ、………原田!」

するといきなりぐいっと体が引っ張られる。
予想していた痛みは、ない。
ただ、腰に巻き付く腕の力強さを感じるだけ。
目を開いて上を見上げると、そこにはムカつくほど整った顔があった。
どうやら、こいつに、引き寄せられたようだ。

「………水垣?」
「怪我は、ないか?」
「あるけど、今のではない」

体中ズタボロだが、とりあえず怪我はさっきから増えてはいない。
そう言うと、俺の腹を抱いたまま、水垣がうっすらと笑う。
いや、怪我しなかったのは確かによかったんだが、今後どうするんだよ。
どうやら結界を強めて、蛇を阻んでくれてはいるようだ。
でも、俺はそろそろ力が減ってきた。
こいつも使いまくってるし、そう長くはもたないだろう。
なにより腹が減った。
家に帰って、美味しいメシを食べたい。
それも敵わないだろうか。
力が、抜け落ちていく。

「………おい、水垣、どうしたらいいんだよ。俺、そろそろ限界だぞ」
「それは………」

水垣が結界を張り、蛇どもを牽制しながらも、口ごもる。
おい、ノープランかよ。
この後、俺たちはどう切り抜ければいいんだよ。
俺は、ここで死ぬなんて御免だぞ。
やっぱりあいつら食い殺すしかないのか。
でも、まずそうなんだよな。
あんなのできれば食いたくもない。
なんて思っていたところに。

「朝日、右に追い込んで」

凛とした、場にそぐわない涼しい声が砂浜に割って入った。
それは焦る様子もなく、楽しがる色すら見せていた。

「へ」

何がなんだか分からず、呆けた声を出して辺りを見渡す。
けれどその声の主は、戸惑う俺を気にせず、絶対的な口調でそれを命ずる。

「ほら、ぼさっとしない。右に、さっさと追い詰めて。足元来てるよ」

言われて足元を見ると、また新しい蛇どもが近寄っていた。
声はムカつくが、これはとりあえず消し去らないといけない。

「消えろおおお!」

まだ残っている体の中の力を集めて、ためて、思いきり振り払う。
そして言われるがまま、自分の向かって右にバケモノを追いこむように動く。

『ぐぎいいぃ』

声にならない音を浜辺に響かせて、蛇が鳴く。
つーかこんな騒いでも誰も出てこない。
やっぱり、この村ごと、グルだったんだな。
薄々わかってはいたけれど、やっぱりムカつく。
最悪だ。

「はい、お利口さん」

涼しげな声に、ようやく後ろを振り向く余裕が出来る。
そして、そこには予想通りの姿があった。

「てめえ、いつから、いた」

四天サンが堤防に座りながら、にこにこと俺たちを見ている。
相変わらずイラつく態度と、言葉だ。
人が大変な時に何をしている。

「結構前から。ごめんね、遅くなって」

まったく、悪びれる様子はない。
堤防の上で、ただ海を見据えている。

「これでいいかな。志藤」
「はい、問題ないかと思います」

そして、これまたどこにいたのか分からない志藤さんが、いきなり姿を現した。
浜辺の中、蛇共がさっきまで沢山いた場所で、静かに佇んでいる。
ていうか、本当に一体どこにいたんだ。

「我が同胞の力を借りて、そのしもべを今ここに具現せよ」

志藤さんが呪文を唱えると、なにやら白い獣らしきものを出てくる。
真っ白な、銀色にすら見える毛を持った、キツネ。

「白峰さん。お願いします」

志藤さんがにっこりと笑って、そのキツネを促す。
美しい二つの尾をもつ、キツネ。
遠目に見ているだけで、強い力を持っているのは分かる。
志藤さんの、使っている、バケモノだろうか。
バケモノって言ってしまうには申し訳ないほどに、綺麗なキツネだけど。

「我が同胞の力をおいて命ずる、この地の汚れし力のすべてをもって、我が力の………」

志藤さんが更に呪文を唱え始めて、白峰と呼ばれたキツネがそれに続く。
肉蛇どもを追い詰めように、牽制しながら、動く。
肉蛇たちを寄せ集め、海に押し返す様にして一か所に集めていく。

「うん、オッケー。頑張って、志藤」

四天サンの静かな声が、響く。
志藤さんが呪文を唱えたまま頷く。

「な………」

その瞬間、パチンと、何かが弾ける音がした。
突然、砂浜が白い力に溢れ、零れる。
眩しくて、目を瞑っていられない。
ぎゅっと目を瞑る。
ビビって逃げ出しそうになるほどに、力の奔流。
飲み込まれてしまいそうだ。
力の使い過ぎもあって足に力が入らず、後ろに倒れこみそうになる。

「原田」

俺が様子に気づいたのか、もう一度腰を引き寄せられる。
もう辛かったので、そのまま水垣に体重を預ける。

「よっし、終わりっと」

どれくらいそうしていただろうか。
軽く楽しそうな声が響き、目を開く。
そこは、すっかり静かになっていた。
波の音だけが、ただ響いている。
あの蛇どもも何も、いなくなっている。
ただ、俺と水垣と、志藤さんと四天サンがいるだけの、空間。
振り向くと、四天サンが堤防から降りて楽しげに笑っている。

「みんな、お疲れ様」

四天サンが手を叩きながら、こちらに近寄ってくる。
怪我一つなく、とても綺麗な姿だ。
返してこちらは怪我だらけ血だらけバケモノの黒いタールみたいな体液だらけ。

「………おい」
「ん?」

呼びかけると、四天サンは楽しげに首を傾げた。
俺が何を言いたいのかは、伝わったのだろうか。
ああ、そのスカした顔が心底ムカつく。
反省の色が一切見えない。
とりあえず、こいつに言いたいことは、一言だ。

「てめえ、ふざけんな!」





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