俺が怒鳴りつけると、四天サンは目を瞬かせ首を傾げる。

「朝日、怒ってる?」

そのへらへらとした態度に、更に腹が立ってくる。
こいつら、本当にどこにいやがった。

「てめえ、四天!怒らないでいられるか!お前、いつからいたんだよ!」
「結構前から?」

すっとぼけた態度に、怒りに頭と腹が熱くなってくる。
腸が煮えくり返るとは、こういうことを言うのか。
いいことわざの勉強になった。
いや、まあ、ちょっと落ち着こう。
この男に怒鳴りつけても無駄だ。

「………結構前からいたなら、なんでさっさと手伝わなかった」

おかげで俺はあいつらに食われかけたし、あいつらを食う覚悟すら決めた。
死ぬかもしれないと思ったりしたし、とにかく最悪だった。
けれど四天サンは、目をそらしながら頬を掻いたりしてみせる。
演技がかっていて、イライラする。

「いや、準備に手がかかっちゃって」
「準備ってなんだ」
「さっきのバケモノを封印する準備?」

確かに今、海辺は、静かだ。
いつのまにか、あの化け物も姿は見えなくなっている。
つまり、四天サンと、志藤さんが、なんとかしたということだろう。
更に言えば、志藤さんがなんとかしたのだろう。
こいつは偉そうに見ていただけだ。

「………」

考えろ。
深く深く考えろ。
熱くなるな。
落ち着け。
深呼吸をしろ。

「朝日?」

封印する準備。
つまりそれは、準備をする時間があったということだ。
こいつらは、別の仕事とやらがあって、ここにいなかったはずだ。
なのに、なぜ、準備する時間があった。

「お前ら、別の仕事があるって言ってなかったか?」
「うん、別の仕事」

四天サンはまったく悪びれることなく、にっこりと笑う。
こいつらはこうやって、笑って人を煙に巻く。
いつもは興味ないから特に突っ込まないが、今回のように俺に被害が出たなら別だ。

「最初から、最後まで、きっちりすべて、説明しろ」

詰め寄ると、四天サンは両手をあげて観念した。

「はい、分かってます」

軽くため息をついて苦笑する。
その芝居がかった態度もまた腹がたつ。
というかこいつの行動全般腹が立つ。
ムカついて殴りそうになるが、俺の体を支えている水垣が腹をしっかり押さえてるからそれもままならない。

「朝日は、この村になんで呼ばれたか、分かる?」

そんなの、今となっては丸わかりだ。
やたら愛想のいい村の人間と、俺たちの高待遇。
雑な祭りの準備。
早々にいなくなる尾形さん達。
朝から家に籠って出てこない村の奴ら。
閉じ込められた、小屋。
思えば、置いて行かれた餅や水も怪しい。
あれを食べてから、急に眠くなった。

「………俺らが、セイセンだったんだろ?」
「セイセン?ああ、生饌か。そう、生きたエサ。生贄、ね」

四天サンは一瞬首を傾げるが、すぐに意味が分かったのか頷いた。

「もし直会までやってたら怖いよねえ」
「ナオライ?」

また知らない単語が出てきて首を傾げた瞬間に、眩暈がした。
やっぱり、腹が減って、血が足りていない。
しかし後ろから俺の腰に腕を回したままだった水垣が、俺の体を抱きとめる。
上から、やや心配そうな声で、聞いてくる。

「大丈夫か、原田?」
「だから、大丈夫に見えるか?」

体は穴らだけの血だらけで、くっさいバケモノの体液にまみれていて、腹も減ってふらふらだ。
大丈夫なはずがない。

「………そうだったな」
「で、ナオライってなんだよ」

そのままの流れで、後ろにいる水垣を見上げて聞く。
水垣は、少し痛そうな顔をして眼を逸らす。

「………神に捧げた神饌を、祭りが終わった後で皆で食べるという儀式だ」

神に捧げた神饌を、皆で食べる。
神饌とは、神に捧げる食べ物、供物。
加工したものが熟饌、生のまま捧げるのが生饌。
俺たちは、生饌だった。
そして、それを終わった後、皆で食べると言うことは。

「………うげ」

すごく嫌な想像をした。
それが本当じゃないことを祈るだけだ。
つーか、あいつら本当にロクでもないな。

「まあ、直会をしてたかしてないかはおいておいて、そういうこと。前々からこの村では、よそからはぐれの術者を呼んでは、生饌にしてるって、少し噂にもなってた。身寄りのない術者ばかりだから、ひっそりとだけどね。特に大きな被害もなかったから見逃されてたし」

まあ、身寄りのない人間が一人か二人いなくなっても、他人はなんとも思わないよな。
そういえば、尾形さんからも他の奴らからも、身寄りがないってことを、何度も確かめられたっけ。
あの時から見定められていたんだ。
生贄に相応しいかを。

「で、俺たちが受けた依頼は、前に生饌になった術者の恋人からだったの。元凶のこの村を、懲らしめてくれ。恋人を食ったバケモノを退治してくれって頼まれた」
「………」
「だから朝日たちの依頼も受けた。この村の、生饌の役割の依頼をね。本当に生饌にしてるか分からないから、探るためにも」

ああ、だから、今回は偽名を使っていたのか。
村の人たちが何も悪いことしてないのなら、それはそれでいい。
もし、俺たちをセイセンにしようとしているのならぶち壊して、逃げる。

「まあ、やっぱり恋人が言うことが正しかったみたいだね。あんなえぐい小屋を作ってるぐらいだし」

あの蛇どもだけが入れるようになっている、出ることはできない小屋。
前に来た術者とやらも、あの小屋に閉じ込められて、食われたのだろうか。
あいつらにたかられ、少しづつ生きたまま、噛み千切られて。
えげつなさすぎる。
せめて眠ったままなら、いいのだが。

「………」

ラムネ、飴。
料理を教えてくれたおばちゃんたち。
明日にはレシピを教えてくれると、言っていたのに。
あの、おばちゃんたちの優しさも、全部、嘘だったのか。

「さっきのあのにょろにょろとしたやつ。あいつらは海で死んだもの。人間も魚も動物もすべてごっちゃにしたバケモノ。キリがなくて倒すのは骨だからね。封印させてもらった」

封印、か。
倒したわけじゃなくて、封じただけなのか。
でも封じられるのなら、それはそれでいい。
そういえば、もうあの生臭さもいつのまにか消えている。
海はひどく、静かだ。

「まあ、自然発生的なものだから、しばらくしたらまた現れるだろうけどね。海の澱みがたまったら」

それは、何度か聞いたことがある。
邪気や闇、澱みが集まる場所が、どこにもある。
それは普段管理されているが、たまに抑えきれず人を喰らう。
この海は、それだったのだろうか。

「でもまあ、いったんあいつを封じたし、とりあえず依頼は果たしたってことで」

まあ、あいつらが倒れたなら、いいか。
いいのか。
いいのか?
いや、よくないだろう。

「………おい、ちょっと待て」
「ん?」

俺はなぜ怪我をしている。
なぜ、こんな危険な目にあった。
なんであの小屋に一人でいた。
なぜ起きた時、水垣はいなかった。
その答えは、一つしかない。

「俺を、オトリにしたな」

俺は、あの蛇どもを集めるエサ。
つまり、そういうことだろう。

「あはは」
「おい、笑ってごまかしてんじゃねーぞ!マジで死にかけてんだぞ!めっちゃ穴開いてんだからな、俺の体!」

腕も足も腹も肩も、ガジガジ食われて血まみれだ。
トランス状態が終わった今、痛みも蘇ってきてずきずきする。
血が溢れてきていて、袴は、黒いバケモノ体液のほか、俺の血で赤く染まっている。

「いや、もっと早く助けに入るはずだったんだけど、準備に手間取って。後、司狼も、朝日のバット取り返すのに時間かかっちゃって」
「………」
「で、気がついたら、ちょっと朝日が食べられかけてたというか」
「おい、マジでふざけんな!!」

そんなへらへらした態度で、ふざけた返答で、誰が納得できるか。
本当に死にかけたんだぞ。
あいつらを食う覚悟すら決めたんだぞ。
ていうかこいつは謝ってすらいない。

「だったら先に言えよ!そしたらもっと警戒したよ!」
「先に言っておいて、朝日、この村の人たちに普通に接することできた?演技できた?」
「………無理だな」
「でしょ?」

だが、それとこれとは別だ。

「それに朝日なら大丈夫だって信じてたから。あんなのに食べられるわけないって知ってた」
「うるせえ、黙れ、とりあえず謝れ」

こいつは本当にムカつくことをぺらぺらと。
四天サンに噛みつくと、俺の体を支えていた水垣がそっと抗議するように声に苛立ちを含ませる。

「おい、原田」
「お前も知ってたな、水垣」
「………」

起きた時、こいつはすでにいなかった。
そしていいタイミングで戻ってきた。
事情の説明にも驚いた様子はない。
最初から知らないと、出来ない態度だ。
こいつらまとめて、一回あいつらに齧られろ。

「司狼を責めないで、朝日。司狼は反対してたしね。それに、司狼が遅れたのは、朝日のバットを取り返してたせいだから」
「よしわかった。じゃあ、お前を思う存分責める。人をエサをしてんじゃねーよ、この鬼畜」

水垣にも色々言いたいことはあるが、とりあえずは四天サンだ。
どうせ全部考えているのはこいつだ。
水垣は四天サンに逆えないしな。

「………うん、俺が悪かった。こんなに怪我させるつもりはなかった」

四天サンは表情から笑顔を消して、俺に一歩近づく。
そして俺の頬にそっと手を添えて、眉を少しだけ潜めて申し訳なさそうな顔をする。

「もうちょっと早くつくはずだったんだ。ごめんね、朝日。怪我させて、悪かった」
「ごめんで済むと思ってんのか?」

謝ったのはいい。
ただそれは、スタートラインだ。
四天サンは俺の言葉に苦笑する。

「あはは、厳しいなあ」
「おい、誤魔化されねーぞ」
「うん」

四天サンは頷き、俺の頭を撫でる。

「どうしたらいいかな?朝日の希望を聞くよ。本当に悪いって思ってる。次はこんな怪我はさせないから」
「なんでもするんだな」
「俺が出来ることならね」

こいつを奴隷扱いしてなんでもさせる。
一発殴る。
俺は馬鹿ですってプレートをかけて街中を歩かせる。
うーん、どれも楽しそうだけど、一瞬すっとするだけだな。
あんまり意味がある訳じゃない。

考えろ。
深く深く考えろ。

「………夏だな」
「うん?」

そう、もう夏だ。
夏が、くるんだ。

「うなぎの特上と、アナゴ天丼、アナゴ寿司。後、10リットルの圧力鍋」

俺の希望に、四天サンは不思議そうに首を傾げる。

「うん、まあいいけど。ていうか鍋ぐらいならいつでも買うけど」

鍋ぐらいならいつでも買うとか言いやがったな、こいつ。
鍋舐めんなよ。
フィスラーにしてみよう。
よし、大容量圧力鍋を買ってもらったら、大量のカレーを作ろう。
ああ、楽しみだ。

「なんでうなぎとアナゴ?夏だから」
「それと、あの蛇見てたら、食べたくなった」
「………」
「………」
「………」

俺の答えに、四天サンも志藤さんも黙り込んだ。
後ろの水垣も、なんか息を飲んだ気配がある。
そして一瞬の沈黙の後、四天サンが、吹き出す。

「あっはは、あはははは、あははは」
「なんだよ」
「い、いや、さすが、朝日だと思って」

涙すら浮かべて、なんか大うけしている。
なんか俺、面白いこと言ったか。

「お前、よくあれ見て、食欲沸くな」

水垣がボソリとどこか呆れた様子で言う。

「腹減ってるからな。もう少しでアレ食おうかと思ってたし」
「………」

さすがにあれは匂いもきついし生は嫌だし食いたくなかったけど、形状的にはウナギアナゴ系だろう。
そういえば海蛇ってうまいんだろうか。
どっかで食えるところとかあるだろうか。

「あっははは」

四天サンがまだ何かうけている。
隣で困ったように立っていた志藤さんが、恐る恐る割って入る。

「あの、朝日さんの手当をしなければいけませんし、お風呂に入りたいでしょうし、そろそろ行きませんか?」
「ああ、そうだね。ちょっと行ったところに宿取ってあるから行こうか。朝日臭いし」
「誰のせいだ!」
「はい、ごめんなさい」

すぐそこに車が置いてあると言うと、水垣が俺を抱え上げて、歩き出す。
腹が減ってるし、力が入らないから、そのままにしておく。

「このまま運ぶぞ」
「頼んだ」

車につくと志藤さんがタオルを出して、ペットボトルの水を惜しみなくかける。
濡れタオルを作ると、俺の顔を優しく拭ってくる。

「少し冷たいですが、ちょっとだけ我慢してくださいね。すぐにお着替えも用意します」
「ん」
「怪我も、車の中で手当てをしましょう。本当に申し訳ありません。こんなお怪我をさせてしまって」

四天サンに言われてもムカツクだけだが、志藤さん自身が痛そうな顔をして言われると腹は立たない。
髪や喉や手も拭ってくれて、一応すっきりする。
それから服も持ってきてくれる。

「車の中でこちらにお着替えください。早く離れましょう。司郎さん、朝日さんの手当てをお願いいたします」
「うん、分かった。原田、車に入る前に脱げ」
「へいへい」

さっさと臭くて汚い着物をパンツごと脱ぎ棄てる。
タオルで体を拭きながら、車に入る。

「………下着はいい」
「パンツも汗まみれできたねーんだもん。あーくそ、本当に穴だらけだ。いてえ」

志藤さんが運転席に、四天サンが助手席に乗ると、車はゆっくりと走り出す。
水垣が俺の怪我を消毒し、薬を塗り、包帯を器用に巻いていく。

「そういや、この村はいいの?ケーヤクフリコウとかじゃないの?」
「契約不履行か。だって祭りの祓いの依頼しかうけてないし。祓いはしたでしょ?エサになれなんて言われてない。終わりの祓いはしてないけど、前金しかもらってないからちょうどいいんじゃない?」

まあ、確かにそっか。
それに偽名しか教えてないし、身元がばれることもないようにしてあるのだろう。

「海の神に生贄を与える代わりに、豊漁と富を得てたみたいだね。まあ、この先三年ぐらいは豊漁とかなくて、生活困るかもね」

四天サンがあくびをしながらのんびりと答える。

「んー」
「気になる?」

豊漁がなく、富がなくなる、か。
寂れた、人の少ない村。
これ以上寂れたら、どうなるのだろう。

「村の人たちが今年は可哀そうになるかも。顔役の人は面目丸つぶれで、排斥されるかもね」

あのおっちゃんやおばちゃんたちは、この先、どうするのだろう。
特に尾形さんは責任者みたいだったし、俺たちが逃げたことを責められるのだろうか。

「………ま、いいか」

俺が考えることでもない。

「朝日は、それでもいいの?」
「いいも悪いも、俺には関係ないし」
「可哀そうだとは思わない?」
「なんで俺が、殺されたかけたのにあいつらの後のことを思わないといけないの?勝手にしてくれ」

人をエサにして自分たちの生活をよくしようなんて、図々しい。
勝手に困って、勝手に生きてくれ。

「村の人たちは親切じゃなかった?」
「親切は親切だけど、生贄にするための親切ならいらねーし」

それくらいなら、親切になんてされなくていい。
いっそさっさと殺しにかかられた方がすっきりする。

「………ねえ、朝日」
「うん?」
「もし、朝日の大事な人のために犠牲になれって言われたら、朝日はどうする?」
「大事な人?」
「そう、たとえば、司狼とか志藤とか俺とか」
「なんで俺があんたや水垣のために犠牲にならなきゃいけないんだよ。ぜってーごめんだ」

大事な人ってところもつっこみたい。
こいつらのためには、薄皮一枚ほども身を削る気はない。

「質問が悪かったか。えーとじゃあ志藤は?」
「助ける努力はしてもいいけど、犠牲にはなりたくない。志藤さんなら自分でなんとかすんだろ」

志藤さんが運転席で苦笑する。
そもそも俺がこの人を助けるなんて事態がないだろう。

「うーん、じゃあ、玉野さんとか」
「助けてやってもいいけど、俺に被害が出たら見捨てる。てかなんなんだよ」
「朝日は大事な人のためなら、自分を犠牲にするのかなあって興味本位の質問」

なんだそりゃ。
この意味のない問答はいったいなんなんだ。

「つーか、誰であっても、犠牲になるとかごめん。俺の意識がそこでなくなるなら、そこで終わりだろ。その先に大事もなにもない。あと、その『大事なやつ』とやらが俺を大事なら、俺が犠牲になったら、そいつも気にすんだろ。気にしないような奴が俺の『大事なやつ』になるとも思わない」
「………」

四天サンが黙り込む。
横の志藤さんも、なんか考えているような顔をしてる。
なんだ、この車内の沈黙。
俺なんか、変なこと言ったか。

「なんだよ」
「あはは、だから俺、朝日が好きなんだ」

沈黙から、さも楽しそうに笑う四天サン。

「お前に好かれても何一つも嬉しくないんだけど」
「そう言わないで」

ていうか俺はこいつが嫌いだし。
四天サンは、くすくすと笑いながら頷く。

「ねえ。大事な人のための犠牲とか、馬鹿らしいよね」
「まあ、俺はまだそこまで大事なやつがいないからわかんねーけどな」
「………うん」

昔は、家族が大事だったのかもしれない。
いや、大事だったのだろう。
心から大事にしている様子が、記憶から分かる。
それなら、家族のためなら、俺は自分を犠牲にできたのかもしれない。
その感情は、知りたいとは思う。

「原田、終わった。服を着ろ」

とりあえず応急処置をされて、邪気に汚染されたところを軽く祓われもした。
体が少し、楽になる。
まだずきずきと痛んで、腹が減っていて、辛いけど。

「面倒くさい」
「見苦しいもん見せるな」
「うるせえ」

動くのがだるくてそのまま真っ裸でぐったりとしていると、ため息をついた水垣が服を着せてくる。
何気に面倒見いいな。

「原田、ほら」
「ん」

そしていつものチョコレートバーを差し出してくる。
やっぱり動くのがだるくて口を開けると、水垣がもう一度ため息をつく。
包み紙を剥がして差し出してくれる。
まあ、死にかけたんだからこれぐらいしてもいいだろう。
思いきり齧りつくと、チョコレートとナッツとヌガーの味が口の中に広がる。

「んー、うまい!」

腹の中があったかくなってきて、脳に血が上ってくる。
空っぽだった腹が、喜びに満ちている。
チョコレートって、すぐに力になれる、すごいやつだ。
今度自分でも作ってみようかな。

「その」
「ん」

俺にチョコレートバーを食わせながら、水垣が少し目を逸らす。
俯き加減に静かに言った。

「………悪かった。本当に、そんなに怪我させるつもりはなかったんだ」
「んー」
「お前のバットと俺の剣、持って行かれて、遅くなった。悪い、それも言い訳なんだが」

怒ってないと言えば、嘘になるだろう。
せめて起こして行ってくれれば、俺もここまで穴だらけにならなかっただろう。

「まあ、首謀者は四天サンだろ」
「………」
「貸し、更にプラス一つ、な。次やったらマジ切れるけど」

圧力鍋買ってもらえるなら、まあ、いいか。
今度やったら全員殴り飛ばす。

「………ああ、ありがとう、原田」
「はいはい」

ああ、とりあえず、疲れた。
さっさとメシを食って、眠りたい。

ちらりと後ろを振り返ると、すでに海は遠くなっていた。
生臭い匂いのする、人の見えない、寂れた村。
明日の朝、あの村では生贄が逃げたことで、大騒ぎになるのだろうか。
まあ、俺には関係ないけど。

「魚は、うまかったんだけどな」

レシピ、教えてもらえなかったことだけが、残念だな。






ご感想、誤字指摘。ポチだけでも。
こちらのメッセージには返信はしないです。



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