デザートのさくらんぼを食べ終わった頃には、結構いい時間になっていた。
壁にかかった時計をちらりと見て、四天サンが玉野に視線を送る。

「そろそろ、玉野さんは帰った方がいいね。引き留めちゃってごめんね」
「あ、いえ、はい」

それを聞いて志藤さんがゆったりと立ち上がる。

「では私がお送りしましょう」
「い、いいいえ!?間に合ってますよ!?」

なんだその断り言葉。
こいつ本当にイケメンい弱いな。

「んー」

四天サンがテーブルに乗せた腕に頬杖つきながら、なにか唸り始める。
そして玉野に笑いかけた。

「家は遠いの?」
「え、い、いえ、そんな遠くないです、えっと、すぐそこのえっと、スーパーの」

そうして説明された家の場所は確かにそう遠くはない。
徒歩15分程度の場所だ。

「じゃあ、朝日、司狼、送ってあげな」
「は!?」

ぼんやりしていたらいきなり話が降られた。
思わず間抜けな声が出てしまう。

「スーツ姿の男が車で送ってきたところとか見られたら、ご近所で噂になっちゃいそうでしょ?」
「いや、あの、そういう意味だと、男子高校生二人に送られても、噂になっちゃいそうで………」
「でも可愛い子一人で帰らせるわけにはいかないからね」
「うひ!」

四天サンがにっこりと笑いながら、玉野の頭をそっと撫でる。
玉野は赤くなって青くなり、飛び上がった。

「ほら、朝日、司狼、行っておいで」
「分かった」

四天サンに基本的に絶対服従な水垣は頷いて、さっさと立ち上がる。

「………」
「お返事は、朝日?」

返事をしないでいると、四天サンが俺にもにっこりとほほ笑みかける。
くそ。
まあどっちにしろ、俺もこいつの言うことは最終的に聞くことになる。
喜んで従う水垣とは違い、無理矢理だけどな。

「………ハイ、ワカリマシタ」
「はい、お利口さん」

だからそれはやめろ。



***




「あ、あの、本当に大丈夫ですよ?」
「すぐ近くだし、大丈夫だよ」
「で、でもあの、えっと、原田くんが」

玉野を挟んで三人で歩いていると、眼鏡女はびくびくとしながら俺と水垣を交互に見る。
水垣はにっこりと笑って答えるが、玉野はやっぱり泣きそうにこちらを見る。
相変わらず無意味に殴って泣かせたくなる態度だ。

「別にいいよ。つーかお前置いて帰ったら、俺が四天サンに殴られる」
「ご、ごめんなさい」
「いいって。俺が呼んだんだしな。ただ、四天サンに命令されるのがムカついただけ」

別に玉野を送ることに異議はない。
一応こいつも女だしな。
ただあいつに言われたので、とりあえず否定してみたかっただけだ。

「四天さん、いい人ですね」
「いーいーひーとー?」
「え、え?」
「ビビらすな。四天はいい人だろ」

水垣が俺の頭を軽くはたいてくる。

「殴るんじゃねーよ。つーかあいついい奴かあ?」
「いい人だろ」
「いい人ってのは、志藤さんみたいなことを言うんだろ」
「まあ、縁もいい人だけど」
「縁も、じゃねえ。縁は、だ。」

志藤さんはいい人だと断言するが、四天サンはまかりまちがってもいい人とは言えない。
あれは性悪の塊だ。

「えっとえっと、そういえば、皆さんなんで一緒に住んでるんですか?」

間にはさまれた玉野がとりなすように、あたふたと質問してくる。
一緒に住んでる理由か。
そういや言ってなかったっけ。

「あー」

どう説明しようかと考えていると、その態度をどう思ったのか玉野がまた飛び上がる。

「は!もしかしてこれもタブーな感じでしたか!?アンタッチャブルですか!?すいません、ほんとすいません、空気読めなくてすいません!」
「お前が空気読めないなんていつものことだろ」
「ほんとゴミですいませんー!」
「だからビビらすな」

もう一度水垣に頭をはたかれる。
ていうか今度は俺、何もしてないだろ。

「大丈夫、玉野さん?」
「ひ!」
「だから俺に隠れるなって」

覗き込む水垣から逃れるように、玉野が俺の後ろに回り込む。
つーかビビらせてるのは水垣の方じゃねーか。

「えっと、俺と原田が、この前の、そうだな、オバケみたいなの、見えるのはこの前分かったよね」

水垣が苦笑しながら、玉野に諭す様に話しかける。

「え、あ、はい」
「四天と縁は、ああいうのに対応する仕事してるんだ。その関係で身寄りがなくて、そういう力があった俺と原田を引き取ってくれたの」
「あ、ゴーストバスターズですね!」

玉野はその説明を聞いて、顔をぱっと輝かせた。
手を叩いて、訳の分からないこと言う。

「なんだそれ」
「昔そういう映画があったんです!掃除機でお化け退治するんです!」
「掃除機はつかわねーぞ」
「バットですね!」

いやまあ、バットだけど。

「なるほどです。あのお二人はオバケ退治してるんですね!あれ、でも四天さんはまだ学生さんですよね?」
「うん、四天は大学生しながら仕事してる」
「二足のわらじ!すごいですね、忙しいですね」
「うん、忙しそうだね。一応縁が所長みたいな扱いになってるけど」

あのだらだらした男のどこが忙しそうなんだ。
俺が一番見ている姿は、四天サンの寝てる姿な気がするぞ。

「でも、なんか、四天さんの方が偉そうでしたよね?って、あ、偉そうとか失礼でしたよね!えっと、志藤さんが下僕のようというか!違う、えっと、四天さん王様みたいっていうか、あああ、違う!」
「お前って、本当によくそんな余計なこと言えるよな。ある意味尊敬するわ」

俺は特に気を使う気がないから口が悪いが、こいつは気を使って口が悪いってすごいな。
時々わざとやってんじゃねーかと思う。

「あはは、四天の実家で、昔、縁が雇われてたらしいよ。四天の実家は結構旧家みたいで、そこで働いてたんだって。あんまり聞いたことないけど、縁がお世話係みたいなものだったのかな。四天が実家出た時一緒に来たみたいだし、元々仲良かったんだろうね」
「あー、お世話係。なんかそれっぽい。四天サンに過保護だよなあ。まあ、志藤さんは俺らにも過保護だけど」
「縁は人の世話を焼くの好きだからな」

四天サンにはそれこそ下僕のように世話しているが、俺や水垣にもあれこれと心配して面倒見てくれる。
怒らないし殴らないし温厚だし優しいし、やっぱり本当にいい人だ。

「そういう理由で、縁が一応責任者だけど、四天の方が偉そうに見えるのかも」
「あ、偉そうっていうか、その、えっと、そう、ですか」

玉野はどう反応していいか分からないように曖昧に頷いた。
まあ、あいつの態度は偉そうとしか言えないだろう。

「四天サンは何もしてねーけどな」
「四天は色々してるんだよ」
「その姿を一度見てないから分からねーよ」

俺と水垣の言い争いがまた始まりそうになったとき、玉野がまた恐る恐ると割って入ってくる。

「えっと、では、原田君と水垣君も、もしかして、お化け退治とか手伝いしたりするんですか?この前、退治してましたよね」
「あ、そうだ、明後日の金曜日いないんだ」
「へ?」

そういえば、仕事が週末にあるんだった。

「その仕事で休む。玉野、ノートとっといてくんない?」
「え、へ?はい、えっと、いいですけど」
「ありがと」
「え、えと」

俺の端的な説明に訳がわからないというように玉野が首を傾げる。
すると水垣が、軽くため息をつく。

「お前は説明が足りない。そのお化け退治の仕事、俺たちもたまに手伝ってるんだ。それで週末は仕事でちょっと遠方に行くから休むんだ」
「あ、なるほどです!」
「できれば俺もノート借りていい?」
「は、はいいいい!」
「ありがとう」

お前は別に玉野に頼まなくても、借りれる奴いっぱいいるだろ。
絶対玉野の反応を楽しむためだけに言ってるよな。

「え、えっと、ど、どこに行くんですか?」

玉野が更に水垣から離れるように隣にきて、俺を見上げる。
しかし、そんな質問をされても答えられない。
そのまま水垣の方を向く。

「どこに行くの?」
「ちゃんとそれくらい聞いておけ」
「だって皆行くなら俺知らなくていいじゃん」
「ったく。しょーがねーな」

水垣が呆れきったように深く深くため息をつく。
別に俺が連れてく訳じゃないし、俺が知らなくてもいいじゃねーか。

「あ、そうだ、前にも言ったけど、俺達がこういう仕事してるとか、オバケ見えるとかは内緒にしておいてくれる?あまり知られても面倒だしね。見えない人には理解されないし」
「あ、はい、それはもちろんです。はい!」
「どうせこいつ言いふらすような友達いねーよ」
「う」
「そういうこと言わない」

そしてまた頭をはたかれた。
こいつは人の頭をぽんぽんと叩きやがって。

「でもよかったらまた、遊びに来て。君が来ると原田も楽しそうだから」
「なんだそりゃ」
「お前が友達作ったのこっち来て初めてだろ」

まあ、友達と呼べる人間は2年前から作ってはいないが。
隣の玉野を見て聞いてみる。

「友達なのか?」
「え?え?え?」

しかしこれが友達なのか。
玉野も困ったように視線を彷徨わせている。
やっぱり友達ではない気がするな。

「っと、ごめん、ちょっと外す」

その時、着信があったらしく水垣がポケットから携帯を取り出す。
俺たちからちょっと離れて、なにやら話し始める。
なんだ、また女か。

「はあ」

俺と共に残された玉野が、水垣の姿を見ながら息をつく。

「優しいですねえ、水垣君。顔がよくて頭がよくて、おまけに性格もいいなんて………。本当に、眩しすぎます。遠目から眺めているには最高ですね」
「近寄ったらどうなんだ」
「ビビります」

なんでだからそんな無意味に堂々としてんだ。
そして、やっぱ俺より水垣の方にビビってんじゃねーか。
玉野は不思議そうに俺を見上げる。

「なんで原田君、水垣君のこと嫌いなんですか?あんなに心配もしてくれるし、優しいし、買い物にも付き合ってくれて荷物持ってくれるし。ていうか、仲いいですよね」
「あの荷物はあいつらの食糧でもあるんだからな。なんで嫌いって、とりあえず背の高いモテるイケメンは嫌いだ。後あいつは性格よくない。そして仲もよくない」

色々突っ込みたいところはあったが、とりあえず簡単に答えておく。
あいつのどこが優しいんだか、さっぱり分からない。
こいつもおもちゃとして遊ばれてるじゃねーか。

「え、原田君、モテたいんですか?」

くいつくのはそこか。
そんなの答えは決まってる。

「モテたい!」
「え、そ、そうなんですか?」
「なんだよ、その反応」
「いや、その割に、女の子に興味ある感じじゃなかったし」
「女はうるさくてあんまり興味ない」
「え?じゃあなんで?」
「別に女と付き合いたい訳じゃない。ただモテたい。でもそのために水垣みたいに媚びうるのも面倒くせえ」
「………それじゃ、モテないと思います」
「分かってる。黙っていてもモテてヤラせてくれる女でもいたら最高だなって思うぐらい」
「さ、最低です!」
「分かってる。だから別に今のところ現状維持でいい。そしてわかってるけどモテる奴はムカつく」

自分でも言ってることがアホくさいのは分かってる。
別に格段努力をして女の興味を引こうとは思わない。
というか面倒くさい。
ヤってみたいとは思うが、彼女が欲しいとか思ったりもしない。
ただモテたいだけだ。
ちやほやされたいだけだ。
そしてモテる奴がムカつくだけだ。

「原田君ってアホですね………って、痛い」
「お前には言われたくない」

失礼なことを言う眼鏡の頭を軽くはたく。
アホにアホと言われるとこれほどムカつくとは。

「でもそんなので水垣君嫌われてるって、本当に理不尽ですね………」
「まあ、確かに俺があいつ嫌いなのは確かだけど」

玉野の言葉に、肩を竦める。
何が理不尽なものか。

「あいつが、俺のことを嫌いなんだよ」
「へ?」

そんな話をしていると、電話を終えた水垣がこちらにやってくる。
そしていつも通り余所行きの柔らかい表情で玉野に微笑む。

「お待たせ、ごめんね」
「あ、いえいえいえいえ」
「何話してたの?」

玉野が困ったように俺をちらりと見る。
別に隠す必要はない。

「えっと」
「俺がお前を嫌いな、理由だよ」
「なんだそれ」

水垣が呆れたように、苦笑する。
性格は悪いが、人当たりはよく、他人よりぞんざいとは言え、俺にもそれなりに接している。
会話はするし、大きな喧嘩なんかもしない。
玉野が言うとおり、仲が悪いようには見えないかもしれない。
本人も自覚しているのか分からない。

でも、こいつの態度の奥から感じるのは、俺に対する拒絶、だ。





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