しばらく何か考え込んでいた様子の水垣に、一応聞いてみる。

「で、どうすんの?」
「様子見」
「そればっかだな」

本当にこいつ、解決策あんのか。
何も考えてないだけじゃないだろうな。
このまま様子ばっかり見て、手遅れになったりしないのだろうか。
いや、まあ、俺はいいんだけどさ。

「まあ、なんとなく、分かってきたかも」
「マジか」
「多分な」

口から出まかせじゃねーだろうな、こいつ。
まあ、そんな嘘ついても仕方ねーんだけどさ。

「あ」

そんなことを話しているうちに教室についた。
女友達と話していたらしい高橋が、ぱっと顔を輝かせて近づいてくる。
本当に分かりやすいな、この女は。
ある意味素直だ。

「あのね、本当に、水垣君のおかげだよ!ありがとう!」

にこにこと笑って、お団子を揺らしながら水垣を見上げる。
水垣もにっこりと笑って頷く。

「ううん。よかった、力になれて。もう、俺はいなくても大丈夫かな」

それから少しだけ首を傾げて、そんなことを聞く。
すると、高橋は慌てた様子でぶんぶんと首を横に振る。
それからつっかえつっかえ、言葉を探しながらしどろもどろに話す。

「あ、あ、あ、でも、ほら、まだ一日だから、ちょっと怖いな。もう少し、その一緒にいてくれると、嬉しいんだけど、あ、ちが、その怖いから」

それを受けて、水垣はやっぱり笑顔で頷く。

「そっか。うん。そうだね。まだ、怖いよね。ごめんね、気が付かなくて。もう少しだけ、力にならせて。傍にいても、いいかな」
「う、うん!」

高橋は嬉しそうに、表情を蕩けさせる。
おお、すごい女の顔してんな。
水垣、このテクニックだけで世の中渡っていけんじゃねーか。
別に四天サンに養ってもらわなくても平気な気がする。

「す、すごいですね。これが言葉の魔術師ってやつですか」
「いや、単なるタラシだろう。でも、確かにすごい。俺は尊敬する」

隣にいた玉野がひそひそと俺に話しかけてくる。
言葉の魔術師かとは言いすぎだが、まあ、尊敬するのは確かだ。
俺にはこんな舌が何枚も生えてきそうなことは言えない。

「原田君、アレ真似したらモテるんじゃないですか?」
「俺に真似出来ると思うのか」
「無理ですね」
「断言するな」
「痛い!」

いや、自分でも分かってるんだが、なんとなく玉野に言われるとムカつく。
自分で言うのはいいけど、玉野はムカつく。

「ま、いいや。さっきも言ったけど、とりあえず玉野、放課後付き合え」

とりあえず高橋のことは水垣が分かったらしい。
なので水垣に任せればいいとして、俺は俺のやるべきことをしよう。

「え、な、なんですか」
「トイレットペーパーがおひとり様一点限り。後、サランラップもだな。生活用品に一切興味はないんだが、義務だから仕方ない。なるべく行きたくないから大量に買いたい」

食材や調味料の買い出しは大好きだが、生活雑貨などの買い出しには興味がない。
サランラップは必要だからいいんだが、トイレットペーパーとかティッシュペーパーとか洗濯用洗剤とか、本当なら面倒なので買い出ししたくない。
だが、一応家計を握っているものとしては、買わざるを得ない。
なるべく安く買って、残ったお金で新作のお菓子なども食べたい。

「ま、また荷物持ちと頭数ですか」
「夕メシ食わす」

そう言うと、玉野は少しだけ黙り込む。
そして恐る恐るこちらを伺ってきた。

「………今日のご飯なんですか?」
「何食いたい?」
「う、うち、和食ばっかりなんで、なんかかっこいい名前の洋食食べたいなーとか」

かっこいい名前の洋食、か。
中々難しい事を言う。
だがリクエストをもらうのは嫌いじゃない。
自分では考え付かないメニューが浮かんだりもする。
俺が作ってみたいものの中にあった、かっこよさげというか、横文字の料理はなんだっただろうか。

考えろ。
深く深く考えろ。

確か、いくつか、作ってみたいものがあったはずだ。

「………そうだな。じゃあ、イカのクスクスのサラダ風と、エビとキノコのアヒージョ、アボガドとズワイガニのディップを、バケットで食べるか」
「か、かっこいい!!」

この前大型スーパー連れて行ってももらった時に、クスクスを買ってみたのだ。
それと、どっかからかもらってきたカニ缶があったはず。
あれを利用するにはいい機会かもしれない。
玉野はなんだか目をキラキラとさせて、こちらを見ている。

「クスクスってなんですか?」
「えーっとアフリカのパスタ、だったかな?」
「へええええ、物知りですね。かっこいいです!食べたいです!」
「だろう。よし、買い物付き合えよ」
「はい!」

そして労力をゲットして前を向くと、いつの間にか高橋は消えていた。
呆れた顔の水垣が俺と玉野を見ている。

「………二人とも、話しは済んだ?」
「おう。今日の夕メシはクスクスだ」

俺が答えると、水垣が、ふうっとため息をついた。

「………そうか。よかったな」

なんなんだ。
感じが悪いな。



***




放課後、職員室に提出物があったのを忘れて帰りそうになり、水垣に怒られた。
仕方なく提出してから、教室に帰る廊下の途中で、でかいお団子姿の女が見えた。

「あれ、高橋?」
「………原田」

振り返った高橋は、さもいやそうな顔をしていた。
おお、水垣の前とは本当に態度が正反対だな。
分かりやすくてなかなかよろしい。

「何してんだ?」
「部活、しばらく休んでるから、挨拶しにいってきた」
「へえ、お前部活入ってんだ」
「………まあ」
「今日は帰るのか?」
「………うん」

そうか、帰るのか。
ああ、それならちょうどいい。

「じゃあ、お前これから暇?なんか用事ある?」
「は?別にないけど。なに」
「よし、それならお前もスーパーに付き合え」
「は?」
「今日買い物するから頭数ほしい」
「何言ってんの、あんた」
「一緒に帰ろう。水垣もいるぞ」
「え、み、水垣君も?」

本当に分かりやすいな、こいつ。
よし、このままならいけるだろう。

「そう。水垣とスーパーに買い物に行くんだ。お前も付き合わないか」
「え、えっと、そ、それなら」

顔をわずかに赤らめながら、嬉しそうに高橋が小さくうなずく。
よし。
チョロいな。

「じゃ、さっさと教室に荷物取りにいこう」
「私持ってんだけど」
「俺が持ってない」
「………」

別に水垣や玉野のように下駄箱で待っていてくれてもよかったのだが、なんかしらんが高橋は教室までついてきた。
そして教室の前まで来たとき、開け放たれた廊下側の窓から中の声が聞こえてきた。

「つーかさ、理紗のなにあれ」
「ああ、水垣君に付きまとってるあれでしょ」

高橋がびくりと震えて足を止める。
俺がさっさとドアに手をかけようとすると、その手を掴まれ、止められる。

「なんだよ」
「しっ」

抗議するが静かに指を一本立てられて制止される。
なんなんだ。

「よくやるよね。ユーレイ見えるとか言って、相談してるらしいよ」
「やっば、レーカン少女だ。レーカン少女。うける。ユーレイ見えるとか言ってるのって、小学校まででしょ。ああいうのいたよね」
「いたいたー。高校にもなって何いってんの、あいつ。キモ」
「あの子、あんな痛い子だったっけ」

高橋が俺の手を掴みながら、ガタガタと震えはじめた。
顔も、あのバケモノを見たときのように青ざめている。
ああ、なるほど、今噂されてるのはこいつか。
なんともえげつないことだ。

「部活やめるみたいだから、トモダチほしいんじゃないの。ほら、あのチビと眼鏡もレーカン少女とレーカン男でしょ」
「やばい、超痛い。レーカン男とかないわ」
「水垣君も本当に大変だよね。あのチビと眼鏡女だけでも大変そうなのに、更にレーカン女まで加わっちゃったよ」
「水垣君も面倒見いいからね。可哀そう」

俺までなんか言われてるし。
その水垣自体、レーカン男なんだけどな。
優しいから俺たちに付き合ってるわけじゃなく、今回についてはあいつから俺たちに寄ってきたんだけどな。
なんて言っても、まったく届かないんだろうな、こういうやつらは。
イケメンはいつも正しいとか、理不尽すぎる。

「マジ、理紗、前からうざいと思ってたんだよね」
「でしゃばるなって感じ。お前人気者でもなんでもねーから」

おお、更にえげつない感じになってきたな。

「いやー、すげーよく言葉が出てくるな。お前あいつらに本当は嫌われてんの?」
「………っ」

高橋は、俺の言葉にボロボロといきなり涙をこぼし始めた。
一瞬驚いて、言葉を失う。

「え、泣くの?自分も同じようなことしてただろ」
「うるさい!」

そしていきなり頬を叩かれそうになる。
慌てて避けたその瞬間。

「あ」
「………っ」

人気のない廊下の先の隅に、白いワンピースで黒い髪の女が立っているのが見えた。
そして、もう一度見直すと、すでにいない。
顔は、まだ見えていなかったと思う。
でも、もう、額が見えていた気がする。

「………出たな」

高橋はガタガタと震えて、ボロボロと涙を流す。
そして俺から手を離し、小さな声で、それでも叫ぶように言った。

「もう、いやっ!!こんなの、いやっ!」
「あ、ちょ」

そして走って、あのバケモノとは逆の方に走って行ってしまった。
揺れるお団子が小さくなっていくのを見ながら、自分の頭を掻く。

「うーんと」

さて、どうしたもんだ。
まあ、高橋、荷物持ってたしいいかな。

「俺、ちょっと悪かったかな」

あんな嫌われ者が陰口を言われたからといって、正論を言ってはいけなかったかもしれない。
悪いことをした。

「ま、いいか」

身から出た錆って奴だな。
とりあえず、俺は教室で鞄を取ってさっさと帰らなければけない。
さっさと扉を開けて、中に入る。
すると中にいた女子たちはいっせいにこちらを見て、驚き、そして怒りをあらわにして睨みつけてくる。
ああ、俺と玉野にいちゃもんつけてきた奴らもいるな。
つーか男子もいたのか。
声が出てこないからわかんなかった。

「あ、な、あんた、き、聞いてたの」
「ああ、うん。お前らが性格と頭が悪そうな会話してるのを聞いた。暇だなー」
「う、うるさい!あんたには関係ないでしょ!盗み聞きとか最低!」
「うん、関係ないし、興味ない。だから教室なんかで話すな。迷惑」

聞かされるこっちもいい迷惑だ。
そう言うと、女どもは顔を真っ赤にしてきーきー叫び、男共もこちらを睨みつけてなにか言っている。

ああ、本当に面倒くさいな。





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