「ただいま」
「えっと、お邪魔します」

玉野と一通り買い物をして家に帰ると、リビングには同居人が三人寄せ集まっていた。
ソファに座ってなにやらパソコンを弄りながら話していた四天サンと志藤さん、そして向かいのソファに座って本を読んでいた水垣が一斉にこちらを向く。
どうやら四天サンと志藤さんの仕事は終わったようだ。

「帰ってたんだ、二人とも。水垣も」
「うん。お帰り、朝日。あれ、玉野さんも来たんだ、いらっしゃい」
「はい、お帰りなさい、朝日さん。いらっしゃいませ、玉野さん」
「お帰り。玉野さんも」
「は、はひ!」

悲鳴一歩手前の変な返事をした玉野が俺の後ろに急いで隠れる。
また隠れるのか。
そして、くいくいと、後ろから俺の袖をひく。

「なに?」
「か、帰りたいです」
「は?」

来た早々何言ってんだこいつ。
しかし玉野は涙目になって上目使いでこちらを見ている。

「………眩しいです」
「は?」
「イケメン勢ぞろいで、眩しすぎてくらくらします」
「ああ」

相変わらず重症だな、こいつ。
そしてやっぱりそのイケメン枠に俺は入ってない訳だな。
もうつっこむのも面倒くせーけど。

「分かってたことじゃねーか。なんで来たんだよ」

玉野は視線を逸らし、うつむいてぼそぼそと言う。

「………だって、ニョッキ。ニョッキが。原田くん、食べさせてくれるって、言うから」
「よし」

イケメンへの恐怖より、俺のメシへの欲が勝ったと言うことか。
それは喜ばしい。

「帰るか?メシいらない?」
「………食べます」
「よし」

うん、やっぱりこいつは結構好きだ。
食事を大事にする奴は、いい奴だ。
食をおろそかにする奴は、駄目なやつだ。

「ああ、そうだ、朝日、そっち」
「ん?」

そんな話をしていると、四天サンが呼ぶのでそちらを向く。
そして指さした先には大きな段ボール箱があった。

「頼んでたもの、来たよ」
「あ!」

それが何かが思いついて、心臓が大きく跳ね上がる。
興奮に血が沸きあがり、頭がの中が熱くなる。
急いで段ボールに駆け寄る。

「こんなに高いと思わなかった。なんでもとか言うんじゃなかった」
「まあ、朝日さんはこの前大変な目に遭いましたし」
「そういえば、朝日、怪我はもう大丈夫?って、聞いてないね」

急いで包装を開き、中に入った箱を取り出す。
ああ、もう、手が震えてしまう。
心臓がバクバクいっている。
興奮のあまり焦って箱を壊してしまいそうだ。

「え、えっと、それなんですか」

玉野が俺の後ろからやってきて、恐る恐る覗き込んでくる。
俺はようやく取り出したそれを掲げてみせる。
なんて美しいフォルムなんだ。

「見てみろ玉野!」
「は、はい?」
「どうだ!」

玉野は俺が手にしたものを見て、眼鏡の奥の丸い目をパチパチと瞬かせて軽く首を傾げる。

「え、えっと、鍋?ですか?」
「そうだ、鍋だ!」
「は、はい、鍋ですね」
「大きいなあ、大きい!いいなあ!」
「え、えっと?」

この前買うと約束してもらった、10リットルの圧力鍋は、その容量に相応しくでかい。
ずっしりと重く銀色に輝いている。
ああ、これでどれだけのものが煮込めるのだろう。

「ありがと、四天サン!ありがとう!ありがとう!」

一応言うだけ言ってみただけだったのだが、本当に買ってもらえた。
こういうところは、この人は太っ腹だ。
こういう時は、素直に感謝してやってもいい。
四天サンはなんか困ったような顔で、頷いている。

「う、うん。えーと、朝日がそんな素直に礼を言うの、初めて見た」
「こんな笑顔の朝日さんは、本当に初めて見るかもしれません」
「特に四天に、素直に礼を言うなんてな」

三人でなんか言っているが、俺の耳には届かない。
ただ今は、この美しい鍋をどう使おうかに想いを馳せるだけだ。
ああ、ずっと欲しかったんだ、圧力鍋。
時間をかけて煮込むのもいいが、圧力鍋は短時間ですごく柔らかくなるらしい。
それにこんな大きな鍋だ。
圧力鍋として使わなくても、大量の煮込みが出来る。
すごい。
なんてすごいんだ。

「ありがとー!超嬉しい!嬉しい!すげー、圧力が三段階ある、超高圧がある!取っ手の着脱もスムーズだ!うわあ!すげー!」

思わず抱きしめて頬ずりをしてしまう。
冷たい感触が気持ちいい。

「ありがとな!四天サン、ありがと!超嬉しい!」
「………どういたしまして。そこまで喜ばれると買った甲斐がある」
「うへへー!あー、今日のじゃがいももこれでゆでようかな。あー、でも、ちゃんと説明書読んでからの方がいいよな。そうだよな。大事に使わないと駄目だよな。うん」

大事に大事に使わなくては。
我慢だ我慢。
いきなり壊したり焦げ付かしたりするわけにはいかない。
ちゃんと説明書を熟読して、丁寧に扱おう。
せっかく四天サンが買ってくれたんだ。
四天サンもたまにはちょっとだけいい人だ。

「うひひ」

ああ、嬉しい。
本当に嬉しい。
今日はこの鍋を抱いて寝たいぐらいだ。
まあ、そんなことして鍋を壊したらいけないからしないけど。

「玉野、いいだろ!この鍋」
「え、ええ。はい。えっと、お鍋お好きなんですか?」
「うん!俺、もうちょっと料理うまくなったら鉄鍋育てるんだ!」
「え、育てる?え?鍋を?」

今はまだ料理を焦げ付かせることも多いから、テフロンをしばらくは使おう。
俺にはまだ鉄鍋は早い。
ああ、でも、もうすぐ鉄鍋を買って、油を染みこませて、俺だけの鍋を育てるんだ。

「あー、本当に嬉しい!超嬉しい!」

このままずっと鍋を抱いていたいが、そういう訳にもいかない。
腹も減った。
さあ、料理を作ろう。

「今日は圧力鍋を迎えたお祝いだ!オイル漬けの鶏も、今日出しちゃおう!」

ニョッキとサラダと何か肉でも焼いて簡単に済ませようかと思っていたが、何かの時に使おうと漬けこんで冷凍してあった鶏ムネ肉も、出してしまおう。
せっかく圧力鍋が来てくれたお祝いだ。

「玉野手伝え!」
「は、はい」

キッチンに向かうと、後ろからちょこちょこと玉野が付いてくる。
レースのエプロンをつけて、腕まくりをする。
今日はイタリアン系で攻めてみるか。

「えっと、カプゼーゼとオイル漬けの肉焼いて、スープとニョッキと、後、イカもあったな。カラマリも作ってみるか!ブルスケッタも作ってみようかな!ああもう、カルボナーラも作っちまうか!」

それと何が作れるだろうか。
冷蔵庫には後何が入っていたっけ。
あ、でもカプレーゼとチーズソースのニョッキだとチーズ尽くしになっちまうか。
もう一品サラダ作ればいいか。

「………朝日、テンションあがってるところ悪いけど、時間かかるから3品ぐらいでいいから」

とりあえず鍋に水をいれてじゃがいもを入れたところで、四天サンが横やりを入れてきた。

「えー」
「遅くなると、玉野さんも困る。それに朝日もお腹空くでしょ」

ああ、でも確かに全部作っていたら何時になるか分からない。
そうしたら、俺も腹が減ってしまう。
腹が減りすぎると、動けなくなる。
それは、辛い。

「………うん」
「他のメニューはまた今度にして」
「………分かった」

しぶしぶ、頷く。
まあ、仕方ないか。
確かに作りすぎて、お腹いっぱいになったら、美味しく食べられるものも美味しく食べられない。
適切な量を適切なタイミングで食べるのも、大事なことだ。

「え、えっと、大丈夫ですか」
「………うん」
「うん、とか素直に言っちゃう原田君、ちょっと逆に心配なんですけど」

玉野が恐る恐る隣で聞いてくる。
俺だって、そんな聞き分けが悪いわけじゃない。

「大丈夫だ」
「そ、そうですか」
「うん。だって、明日があるからな!明日は圧力鍋で、何作ろう!何がいいかなー、カレーかなー、角煮かなー、ブリ大根に、牛すじ煮込みなんかもいいなー。骨まで食べられる軟骨の煮込みもいいなー」

やっぱりカレーだろうか。
スパイスを買い込んで、鶏肉を入れて、じっくりゆっくり煮込むのもいい。
水垣と四天サンは辛すぎると駄目だから、ちょっと控え目にしないといけないだろうか。
ああ、でもぐっと辛いカレーを作ってみたい。
夢が、広がる。

「………えっと、私、男の子とあんまり接することなかったんで知らないんですが、男子高校生って、ここまで鍋で喜ぶものなんですか?」
「うん、そんな訳ないね。原田が変だから」
「で、ですよね」

水垣と玉野が何か言っている。
今は何を言われても気にならない。

だって、俺には、鍋があるのだから。



***




今日も夕食後に、水垣と一緒に玉野を家まで送ることになった。
夕食のチーズソースは中々濃厚でニョッキに絡んで美味しかった。
オイル漬けの肉もつけ込んだだけあって、オリーブオイルと黒コショウとガーリックがよく染みて美味しかった。
一緒に蒸し焼きした野菜も食べやすく、水垣と四天サンも美味しいと言っていた。
結局カプレーゼはやめて、フリルレタスと人参に、オリーブオイルとハーブソルトを合えたサラダ。
中々満足出来る出来だった。
しかし、ひとつだけ不満が残る。

「ちょっとニョッキが柔らかすぎたかな。もうちょい固めでもよかったかも」
「十分うまかったけどな」
「はい、美味しかったです」
「うーん」

前に店で食べたのはもうちょっと弾力があって、歯触りもよかった。
じゃがいもに対して卵が多すぎただろうか。
それともゆですぎただろうか。
強力粉より薄力粉がよかっただろうか。
今度はちょっとレシピを変えてみよう。

「あの、原田くん、本当にすごく、おいしかったです。ありがとうございました」

そんなことを考えていると、玉野の家の前の交差点まで来た。
家まで送り届けるのは嫌だと言うので、そこで別れる。
明るいし、人通りもそこそこあるから、大丈夫だろう。

「そうか。じゃあ、明日も頑張れよ」
「う」

エールを飛ばすと、玉野がうめく。
水垣がその様子を見て、首を傾げる。

「どうかしたのか?」
「ああ、明日からこいつイジメに遭いそうだなーって話」
「は?」
「俺もなんか嫌がらせされそうだよな」

水垣が顔にはてなマークを浮かべて、眉間に皺を寄せる。

「なんでまた?」
「お前と仲良くしたからだって」
「は?お前はだから、説明が足りない」

面倒くさいが、経緯をすべて説明する。
玉野が水垣と仲良くしたせいで、クラスの女子っぽいやつらにいじめに遭いかけていた。
それをうっかり俺が適当に処理してしまったせいで、余計に怒りを買ったかもしれないと。

「………なるほど。お前は本当に………」

水垣はますます眉間に皺を寄せて、ため息をついた。
そして、玉野の前に立ち向き合う。

「原田はともかく、玉野さん」
「は、はい」
「何かあったら、言ってね。助けになるか分からないけど、俺も相談に乗るから」
「ひ!」

玉野は悲鳴をあげると、一歩後ろに飛びずさって逃げた。
そして、俺の方にきて、襟首をつかむ。

「襟首掴むな」
「聞きましたか!原田くん!これですよ、これ!これがあるべき男子の姿ですよ!」
「んなこと言ってもどーせ、こいつが入っても悪化するだけだろ。期待を持たせるだけタチ悪いって」
「なんでそんなにシビアなんですか、原田君は!」

争いの原因の水垣が入っても、悪化するだけじゃねーのか。
まあ、こういう場合、どう対応するのがいいことなのか、分からないけど。
この2年間、人とあんまり関わってないし。

「えーっと」

せっかく玉野にフォローしたのに、放置された水垣が困ったように頬を掻く。
それからもう一度玉野に近づき、目を見つめる。
こいつもめげないな。

「とにかく、本当に何かあったら言ってね」
「は、はい、ありがとうございます。じゃ、じゃあ!では!」

顔を近づけられると、玉野は顔を真っ赤にする。
そして逃げるようにつーか、急いで逃げた。
その後ろ姿を見ながら、水垣が苦笑している。

「お前、なんか出来るの?」
「出来ると思う。たぶんな。お前は敵を作るような言動をするな」
「ふーん」

モテるイケメンはそういうのも調停できるのか。
俺には真似できないな。
モテたいが、やっぱり面倒だから、モテなくてもいい。

「お前は玉野さんの友達だろ」
「友達なのかな?面白くて好きだけど」

俺の言葉に、水垣はまた呆れたようにため息をつく。

「じゃあ、助けてやれよ」
「俺、人のこと助けられるほど器用じゃない。余計に悪化させる自信がある」
「………」

水垣がまた、いつも見せる、嫌悪感のようなものを表情に浮かべる。
俺の言葉が気に障ったのだろうか。
いつもこれくらい言ってんのに。
本当にこいつのツボは分からない。

「傍にいてやるだけでも、違うんだよ。一人でも、誰かが傍にいてくれるだけで、支えられる」
「ふーん?」

やっぱりいつものようにすぐにその表情を消し去って、静かな表情に戻る。
傍にいるだけで、ね。
玉野は俺が傍にいて嬉しいものなのだろうか。

「お前はもうちょっと、人に関心を持て」

言われて、なんとも言えず肩を竦める。
別に人に興味がない訳じゃない。
それ以上に興味があるものが多すぎるだけだ。



***




家に帰ると、クーラーの効いた室内で四天サンと志藤さんがのんびりとしていた。
ソファに腰かけコーヒーを飲む志藤さんの膝に頭を預け、四天サンが寝っころがっている。
いわゆる、膝枕という奴か。

「はー、お腹いっぱい。朝日のご飯はやっぱりおいしいよね」
「食べてすぐ寝ると、牛になりますよ」
「なにそれ。あー、でももういっそ牛になって朝日に美味しく料理されたら幸せかな」
「何をおっしゃってるんですか。後で少し運動しましょう。お手合わせ願えますか?」
「えー。志藤、本気でやるから疲れる」
「本気じゃなきゃ意味がないでしょう」

四天サンはだらだらと志藤さんの膝の上で打ち解けた表情を見せている。
志藤さんも困ったように笑いながらも、いつものように甘やかしている。
二人が部屋に入った俺たちの方を向き、同時に微笑む。

「お帰り、司狼、朝日」
「お帰りなさい、お二人とも」

この家に来てから割とよく見る光景。
二人は本当に引くぐらい仲がいい。
水垣のこともベタベタに甘やかしている二人だが、二人の間には入れない空気のようなものがある。
今まで特になんとも思ってなかったんだが、ふと疑問が浮かぶ。

「そういや、あんたらって、もしかしてコイビト同士とかだったりするの?」
「ぶは!」

志藤さんが飲んでいたコーヒーを吹き出した。

「きったないなあ。やめてよ」
「も、申し訳ありません。じゃなくて!」

膝の上にいた四天サンが、不快そうに眉間に皺を寄せる。
志藤さんは口を拭いながらも、顔を真っ赤にしている。
おお、こんな動揺している志藤さん、初めて見たぞ。
やっぱり付き合っていたのか。

「な、何をおっしゃてるんですか、朝日さん!」
「今更だけど、必要以上に、すげーベタベタしてんなーと思って。いや、別に俺は二人がコイビトでも気にしないんだけど。単なる興味で」
「いやいやいやいや、変な誤解をなさらないでください!」

志藤さんは思いきりぶんぶんと首を横にふる。

「縁が、そんな焦るところ見ると………」

ふと隣を見ると、水垣が青ざめて、呆然としている。
なんか、ショック受けてるな。
大好きな四天サンが、人のモノだったことが嫌だったのだろうか。

「司狼さんまで何をおっしゃってるんですか!二人ともいい加減にしてください!」
「いやだって、四天と縁は、すごい仲がいいから………」
「司狼さん!ですから!」

志藤さんが焦れば焦るほど、真実味を帯びてくるのはなぜだ。
いやまあ、どっちでもいいんだけどさ。
俺に害がなければ。

「くっくく、あっはは」

そこにさも楽しそうな笑い声が響いた。

「本当に面白いこと考えるね、朝日は。別に俺らは恋人同士じゃないよ」

四天サンはそんなこと言いながらも、志藤さんの膝の上にうつぶせになる。
それから伸び上りし、志藤さんの頬に手を伸ばす。

「まあ、一回ぐらいシテみてもいいけど、上と下、どっちがいい志藤?」
「四天さん!お二人の前で、変な冗談はおやめください!」
「あはは、本気で怒られちゃった」

志藤さんは本当に目をつりあげて、怒鳴りつけている。
四天サンはそれでも膝の上からはどかず、くすくすと笑っている。

「恋人じゃないよ。そうだなー、兄弟って奴」
「は?兄弟?血がつながってんの?」

そんなことは聞いたことはなかったが、兄弟だったのか。
でも、名字は違うぞ。

「四天さん!」
「違う違う、穴兄弟」

志藤さんが顔を真っ赤にして、怒鳴りつけている。
それに構わず、四天サンは楽しげに変なことを言う。
穴兄弟。
初めて聞く言葉だ。
隣にいた水垣を見上げて、聞いてみる。

「なあ、水垣、穴兄弟ってどういう意味?」
「えーっと」

水垣が眉間に皺を寄せて、怖いような困ったような顔をしている。
代わりに四天サンが答えてくれた。

「お互い、同じ穴を共有した仲間ってこと」
「四天さん!いい加減にしてください!」

穴を共有。
穴。
穴ってなんだ。
ああ、なるほど、そういう意味か。

「おお。なるほど」

中々うまいことを言うもんだ。
つまり同じ女とエッチなことをしたことがあるということか。
同じ女。

「え、マジで?」
「うん」

この二人と寝る女。
なんだその豪傑。
志藤さんと四天さんなんて一応かなりハイスペックな方だろう。
二人とも絶対女にモテるし。
そんな男二人を手玉に取る女って、どんな女なんだ。
しかもこんな仲がいい二人を引き裂くような真似をできたってことか。

「すげえ、なに、四天サンと志藤さんの両方とヤった女がいんの?え、もしかして、三人でヤったとか?え、取り合いとか?ドロドロ?え、楽しそう、なにそれ」
「おい、原田、その辺でやめろ」
「すげー、どんな魔性の女なの!超ナイスバディの色気むんむんのお姉さんとか!?すげー、見てみてー!やっぱ美人なの?水垣知ってる?」
「いや、知らないけど」

水垣が止めようとするが、好奇心は止められない。
人の色恋沙汰はあんまり興味ないが、さすがにそんな猛者な女がいるとなると気になる。

「く、くく、くく、あっはは」
「………四天さん」

四天サンが大笑いして、涙を拭っている。
志藤さんがなんか苦い顔をしている。
この態度だと、もしや志藤さんが負けたのだろうか。
ああ、二人にいったいどんな泥沼ドラマが。
ドロドロの恋愛ドラマにはまる人間の気持ちがちょっと分かったかもしれない。

「別に美人じゃないよ。ただ、まあ、魔性には違いないかな」
「誰、誰!」

四天サンは指を一本立てて笑って見せる。

「秘密。すごーいタチの悪い人だよ」

こいつがこんなこと言うなんて、本当にどんな魔性のビッチなんだ。





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