「おはよう」

今日は簡単に朝メシを作ったので、時間に余裕があった。
ふと思いついて、弁当など作ってる時に水垣が起きてくる。

「おはよ、今メシ作るから待ってろ」
「分かった」

一旦手を止めて、煎り卵を作る作業に入る。
そぼろとほうれん草はもうあるから、卵を乗せれば完成だ。

「ほらよ」
「ありがとう。うまそうだ」
「だろう!」

手早く作って水垣の前に置き、さっさとキッチンに戻ろうとする。
しかしその前にくいっとエプロンが引っ張られる。

「なに?」
「………お前、起きるとき、俺も起こしていけ」
「は、なんで?」
「………」

人がせっかく気を使って起こさないでやったのに、なんで文句言われなきゃいけないんだ。
水垣は呼び止めたくせにちょっと視線をそらして、なんだか不満気にするだけだ。

「あー、起きる時俺がいなくて寂しいからとか?」
「………」

冗談でからかいついでに言ってみると、水垣の肩が揺れる。
心なしか、耳が少し赤くなっている。

「え、何、当たり?ガキか、お前」
「………うるさい」

添い寝がなきゃ寝られないとか、朝起きると一人は寂しいとか、どんだけ寂しがり屋なんだよ。
うさぎかよ。

「面倒くせーな、お前」

意外性通り越して、だいぶ面倒くさいぞ。
クールなイケメンぶってるくせに、手のかかる子供か。

「………」
「はいはい、了解。つーか、大人しく四天サンのところに寝にいけよ。いる時は」

水垣は返事をせずに、俺を睨みつけてきている。
本当に面倒くせーな。
まあ、ちょっと情けなさ過ぎて、少し可愛いとか思ってしまうが。

「あれ、昨日は司狼、朝日のところで寝たの?」
「………四天」

そんな話をしていると、のんびりとした声が割って入ってきた。
眠そうにあくびをしながら、四天サンが席に着く。

「おはよう、司狼、朝日」
「おはよう」
「………おはよう」

水垣の隣に座った四天サンが、水垣の頭をぽんぽんと撫でる。

「どうしたの、俺より朝日がよくなったの?寂しいなあ」

なんだそれ、サムいな。

「ち、違うけど」
「ん?」

四天サンに絶対服従で、借りてきた猫の子みたいになる水垣が、焦ったように首を横に振る。
でも、理由は言えないようで俯いて、黙り込む。
四天サンの分が出来たので、ダイニングに持っていきながら、代わりに俺が答える。

「四天サンが浮気者なのが気に入らないんだって。彼女がいるのにビッチに手を出したのが嫌だとさ」
「おい、原田」

水垣が焦ったように、俺を睨みつける。
俺に言わずに、本人に言え。
四天サンは不思議そうに首を傾げる。

「浮気者?………ああ、なるほど」

それから納得したように一つ頷く。
そして苦笑しながら、水垣の頭をもう一度撫でる。

「司狼は、そういうの駄目だったね。ごめんね」
「………」
「俺が好きな女は栞だけだよ、安心してね」

しおりってのが、彼女か。
四天サンにここまで言わせる女って、どんな女なんだろう。
見てみたいな。

「………ごめん、四天が悪いんじゃない。そういうの、別に、悪いことじゃないし」
「うん。まあ、男だし、下半身事情は別だから、ちょっと遊んじゃうこともあるかもしれないけどね」

冗談なのか冗談じゃないのか分からない発言をする四天サンを、水垣が恨めしそうに睨みつける。

「………」
「ごめんごめん。もうあんまり言わない。いい子だから許して」

四天サンはそんな水垣をなだめるように、肩をぽんぽんと叩く。
つーか水垣は自分も遊んでるくせに、なんでそんな潔癖なんだ。

「あれ、好きな女は彼女だけって、噂の魔性の女は好きじゃなかったの?」
「うーん」

四天サンは、テーブルに肘をついた手に顔を預け唸る。
そして俺を見て、綺麗な形をした眉をつりあげ、苦笑してみせる。

「朝日は、たまにすごく難しいことを聞くよね」
「そんな難しいこと聞いた?」
「うん。すごく難しい質問だった」
「ふーん、好きか嫌いかなんて、簡単じゃない?」

食べることは好き。
面倒なことは嫌い。
食べ物をくれる人は好き。
勉強は嫌い。
四天サンは好きじゃない。
水垣も好きじゃない。
志藤さんは好き。
ほら、こんなに簡単。

「本当に。確かに、簡単な話のはずなんだけどね」

でも、四天サンは、肩を竦めるだけだった。



***




「あ、あの」

水垣と連れ立って家を出ると、家の前には眼鏡のおかっぱ女がいた。
今日も変わらずおどおどとしたイラつく態度で、俺たちをちらちらと上目づかいに見ている。
なんで家の前にいるんだ。
別に学校に行く通り道って訳ではない。
つまり、わざわざここに来たってことだ。

「あれ、玉野、何してんの?」
「おはよう、玉野さん」
「お、おはようございます」

玉野は、落ち着く様にか胸に手を当てて、必死な顔で言ってくる。

「あ、あの、あの、い、一緒に学校行きませんか?」
「別にいいけど。ここまで来てるのに別に分かれていく必要性ないし」

行く方向が一緒なんだから、自然に一緒に行くことになるだろう。
別にわざわざダッシュで振り切って置いて行ったりする理由もない。

「水垣もいいよな」
「うん。構わないけど、どうかしたの?」
「あ、あのですね、どうせ苛められるなら、原田君の傍にいようかと。原田君の傍にいたら、多分原田君が追い払ってくれるじゃないですか。目立ちたくなかったんですが、あんなことになったらもう一緒です。だったら傍にいたほうがたぶん被害が少ないはずです!」

なんだその、名案でしょう、みたいなどや顔は。

「お前、相変わらず他力本願だな。その口使えば、自分でどうにかできんじゃねーの」
「けしてお邪魔はしませんから!」
「すでに邪魔じゃね?」
「ひ、ひど!!」

まあ、面白いし、言うほど邪魔ではないけど。
特に構わないのだが、つい面白くて言ってしまう。
水垣が俺の頭を軽くはたく。

「叩くなよ」
「いいだろ。お前友達いないんだし、玉野さんに遊んでもらえ」
「俺が付き合ってもらうポジションなのかよ」

どう考えても、付き合ってやってるのは俺だろ。
俺にメリットねーし。

「ま、別に助けたりしないし、それでいいなら、いいけどさ」
「ありがとうございます!いてくれるだけでいいんです!どうか私の盾になってください!」

とりあえず、殴っておく。

「痛い!」
「見捨てるぞ」
「ご、ごめんなさい!」

こいつは本当にどうして、言わなくていいことがぽろぽろ口から出てくるんだろうな。
たまに殴りたい。
殴ってるけど。

「でも、お前、水垣と仲良くしてたから苛められたんだろ。水垣と一緒にいたら悪化するんじゃねーの。朝は、だいたい水垣と一緒だぞ」
「そ、そうかもしれません。でも一人でいたくないし、原田君の傍がいいし、困ります」

そこで隣にいた水垣が、困ったように苦笑する。

「えっと、俺、邪魔者?」
「あ、いえいえいえいえ!ごめんなさい!水垣君は何も悪くないんです!私が、私が日陰の人間だから悪いんです!」
「なんだそりゃ」

慌ててぶんぶんと首を横にふって、フォローする玉野。
なんでこの眼鏡とれないんだろうな。
すごいな。

「えっと、俺も、力になるから、なんでも言ってね」
「は、はひ!」
「だから俺に隠れるな」

相変わらず水垣には弱いな。
こいつは、俺のことをなんだと思ってるんだ。
とりあえず仕方ないから、三人で学校に向かう。

「ところでいじめってどんなことされるんだ?」

実際にしたこともされたこともそういう場面に出くわしたこともないので、よく分からない。
昨日の玉野みたいに囲まれたりするのだろうか。

「え、えっと、えっと、下駄箱にゴミつめられるとか?」
「それは嫌だな。くせーじゃん」
「はい、あと、ど、動物の死体、とか?」
「それは最悪だな。つーかそれ犯罪じゃねーの」
「え、えっと、靴隠されたり!靴の中に画鋲入れられたり!」
「不便だな。なくしたら金かかるし。しかし、なんでそんな下駄箱に固執するんだ」

モノを隠されたり、ゴミを入れられたりするのはさすがに嫌だな。
やられたら、10倍にして返そう。

「えっと、下駄箱以外というと、あとは、えっと、机に馬鹿とか死ねとかカッターで削って書かれたり?」
「ノート取りづらそうだな」
「机の中の物隠されたり」
「あ、やべ。俺教科書ほとんど置きっぱなしだ」
「それは持って帰れ」

水垣が冷たくつっこみを入れる
だって勉強しねーし。
いや、でもしないと駄目だな。
試験が悪くて、メシ抜きとかにされたら死ねる。

「しかし、動物殺したり、ゴミ集めたり、カッターで書いたり、いじめってやる方も面倒くさいんだな」
「た、確かに、努力が必要ですね」
「な。何が楽しいんだろ」
「あ、あとは無視されたり、とかでしょうか」
「それ今となんか違うの?」

玉野は俺の言葉に、一瞬黙って、首を傾げる。
それからぱっと顔を輝かせる。

「あ、ち、違いません!私今も割と無視されてます!」
「だろ」

どうせ俺もこいつもぼっちだしな。
無視ぐらい今更なんとも思わない。
そんな話をしていると、水垣が深い深いため息をついた。

「なんだよ」
「………とりあえずゴミとか、そういうことなんかされてたら、全部写真撮っとけ」
「へ?」
「証拠集め」
「ふーん?」
「いいからやっとけよ」
「分かった」

証拠集めてどうするんだろ。
まあ、写真撮るくらいいいけど。
そして学校について、下駄箱に向かう。

「い、いよいよですね」
「うん」

同じクラスだから、俺たちの下駄箱は同じ列にある。
自分の下駄箱を開けると、中にはなんかメモ帳サイズの小さな紙がいくつか入っていた。

「おお」
「ひっ」

玉野も同じものが入っていたらしく、小さい悲鳴を上げる。

「どうだ?」
「えっと、死ねとか、ブスとか、帰れとか書いてあります」
「俺はチビとか不細工とか死ねとか書かれてるな」

女っぽい、ちょっと右上がりの割ときれいな字。
朝早くからわざわざご苦労だな。

「生ゴミじゃなかったな」
「か、隠されてないですね。画鋲も、動物の死体とかもないですね」
「よかったよかった」
「よかったです!」
「え、よかったの?」

とりあえずその紙は写真を撮ってから、水垣が回収した。
教室に来ると、俺の机には花瓶が飾られていた。
玉野の机にはでかい紙で、ブス、死ねと書かれている。
玉野がぱっと、笑顔になる。

「ここにもゴミないです!」
「教科書も全部あんな。隠されてたらさすがに殴り倒すところだったわ」

カッターで削られていたり、動物の死体があったりするわけでもない。

「よかったな」
「はい!」
「………いいんだ」

犯人は多分、隅っこでひそひそと話しながらこちらを見ているあいつらなんだろうけどな。
昨日の女が二人と、男が二人、か。
名前がやっぱり分からない。

「あ、こういうのって写真にとって訴えると犯罪になる?」
「とりあえず、民事で訴えることは可能かな。その前に教師に相談、駄目なら校長、その後教育委員会とかだと学校側も対応するだろ」
「ふーん」

だから、証拠集めか。
なるほどな。

「ま、いいか。写真、写真、と」

スマホで写真を撮っていると、紙を剥がした玉野がちょこちょこと寄ってくる。
そして、俺の携帯を指さして、おどおどと上目使いで聞いてきた。

「あ、あの、原田君、携帯持ってるなら、メアドとかラインのアドレスとか、交換してくれませんか」
「なんで?」
「怖い目にあったら呼ぶためです!」
「いやだ」
「ひ、ひどい!」
「どっちがだ」

こいつ、俺を便利な道具かなんかだと思ってないか。
却下すると、玉野が俯いて何か考え込む。
そして思いついたのかぱっと顔を上げた。

「え、えっと、一緒に、お、おいしいもの食べに、行きましょう!」
「お前と一緒にぃ?俺になんのメリットもないな」
「ひ、ひど。えっと、たまに奢りますから!それからそれから、あ、あ、あの、お祖母ちゃんが、おはぎ上手なんです!今度持ってきます!あと、お祖母ちゃんの煮物おいしいです!メールでレシピとか送れます!」
「よし。ケータイ出せ。俺よくわからないから交換しろ」

まあ、それなら交換してやらないでもない。
ただ、連絡なんて水垣と志藤さんと四天サンぐらいしかとらないから、やり方がよく分からない。
しかしぼっち仲間の玉野も分からないらしく、眉を下げる。

「わ、私もよく分からないです」
「………貸して、二人とも」

水垣がため息をついて、俺と玉野の携帯を受け取りなにやら操作している。
おお、さすがモテるイケメンは違うな。

「でも、連絡とって、二人でおいしいもの食べに行くって、それデートって言うんじゃないの?」
「ひい!?」
「ないない」

水垣が、ふと首を傾げて、そんな馬鹿なことを言う。
玉野が言葉もなく首を横にふっているのはムカつくが、まあ、俺も同意見だ。

「………なんか心配するだけ馬鹿らしいな」
「ん?」
「なんでもない」

水垣は軽く肩を竦めて、俺たちに携帯を返してくれた。



***




そしていつも通り授業をこなし、待ちに待ったお昼の時間になった。
なんか知らないが、玉野が寄ってきて、俺の席で弁当を広げる
一緒にいるって、昼も有効なのか。
別にいいけどさ。

「今日はお弁当なんですか?」
「おう!朝めしは簡単に済ませたからな!どうだ、おいしそうだろう!」
「はい、いつも通りおいしそうです」
「ふふふ、だろう」

二段の弁当の一段目には、余ったそぼろと鮭フレークを散らし、さやいんげんで彩ったご飯をぎっしり敷き詰めた。
二段目には冷凍卵で作ったスコッチエッグと、卵焼き、ニンジンとツナのサラダ、後はウインナーを炒めていれた。
我ながらうまそうだ。

「………」

玉野が箸を持ったまま、じーっと俺の弁当を覗いている。

「なんだよ」
「その、卵のやつ、おいしそうです」
「スコッチエッグな」
「へー………」

まだじっと見ている。
仕方ない。

「………お前のそのから揚げよこせ」
「はい!」

玉野がぱっと明るい顔をして、俺の弁当に自分のから揚げを入れる。
代わりに俺のスコッチエッグを玉野の弁当箱に入れてやった。

「おいしい!!」
「そうだろうそうだろう。ん、お前のから揚げもなかなかうまいな」
「おばあちゃん、料理上手ですよ」

冷えてはいるものの、味を損なっていない。
生姜も効いていて、鶏肉は柔らかく、うまい。

「あー、チビと眼鏡がぎゃーぎゃーうるせーんだよ」
「ぼっち同士、お似合いだけどね。他に相手にされないのでくっついて、寂しい。みっともないー。私だったら絶対ごめんだわ」

なんかあっちで言ってるな。
どっちがうるさいんだか。

「ひ!わ、私たち、うるさいらしいです。こ、これくらいの声ならうるさくないですかね」
「お前、面白いな」

ひそひそと玉野が声を潜めて、それでもしゃべって弁当を食っている。
こいつ、本当は全然堪えてないよな。
絶対一人でなんとか出来ると思うんだけど。
今もまた俺の弁当をじっと見てるし。

「原田君、その、卵焼きはどんな味なんでしょうか」
「やらないぞ」
「えっと、えっと、じゃあ、私のキンピラはいりませんか。おばあちゃんのキンピラおいしいです」
「よし、食え」
「はい!」

うん、本当に玉野のばあちゃんは料理がうまいようだ。
これは是非、レシピを聞かなければ。

「おい、無視すんなよ!」
「うぜえ!」

なんか気が付くと、女子二人と男子二人が近づいてきていた。
朝にひそひそしてたやつらか。

「え、俺らに話しかけたのか?」
「ご、ごめんなさい!無視して!な、なんでしょう!」
「ちげーよ!」
「ふざっけんな!このクソチビ!」

男子一人が、俺の机を蹴り上げる。
机は傾いたものの倒れなかったが、上に乗っていた俺の弁当が滑り落ちる。

「あはは、ごめん、当たっちゃったわー、ほら、俺足が長いからさー」
「かわいそー。弁当ぐちゃぐちゃー」
「………」

弁当はひっくり返って、ご飯が床にぶちまけられている。
俺の会心のスコッチエッグが転がっている。

「は、原田くん駄目です!」

玉野がなんか青い顔をして、俺の袖をひっぱった。
それを振り払い、机を蹴った奴に思いっきり体当たりして床に倒す。
そのままそいつの腹の上に乗っかる。

「ぐ、は!げほっ」

ガタガタと周りの席が倒れるが、弁当は乗っていなかったし、知ったことじゃない。
悲鳴が辺りから上がっている。
とりあえず横にあった弁当を持ち上げ、下にいる男の顔に押し付ける。

「ぶ!!」
「おい、てめえ、何、食いもん無駄にしてんだ。無駄にすんなよ。食えよ。ほら食えよ。無駄にするなんて許さねーからな。全部食えよ、残さず食えよ。俺と材料作った人間に感謝して食え」

ぐりぐりと弁当を押し付けて、なすりつける。
ああ、でも、これじゃ食えねーか。

「ぶ、ぶぶ、ぐ」
「ほら、口開けろ、残すなんて許さねえ」

一旦弁当をどけると、顔をソースやらレタスやらで汚した男の顔が現れる。
きたねえな。
こんな奴に食わせるなんてもったいないが、仕方ない。

「ほら、口開けろって」
「ぐう!」

口を閉じようとするから、無理やり開けさせた。
そして、落ちて埃まみれになったスコッチエッグを口の中に突っ込む。
ついでに、卵焼きもつっこむ。
なんか涙目になってる。
ふがふが鼻で息をしている。
鼻水出てきたな。
本当に汚ねえな。

「後、俺のメシを無駄にした分、学食代払えよ。金よこせ」

スコッチエッグ、楽しみにしていたのに。
玉野に食われて、終わってしまった。
ああ、俺の卵焼き。
ニンジンのサラダ。
奮発した高いウインナー。
やっぱり許せねえ。

「は、原田君、なんか、原田君の方がいじめてる人っぽいです」
「ああ!?」
「ひ!ごめんなさい!!」

玉野が恐る恐る、後ろから話しかけてくる。
俺が何をしたっていんだ。
俺は、弁当を台無しにされたんだぞ。

「なんでだよ。俺、いじめられてんだろ?証拠写真撮ってるしな。キョウイクイインカイとかに駆けこめば、俺が被害者だろ?」
「いえ、結構、なんかだいぶ加害者な感じです!」
「うるせえ。俺は正当な要求をしてるだけだ」

俺は、何も悪いことをしていない。
食べ物を粗末にしようとした奴に、教育してやってるだけだ。

「ほらさっさと食えつってんだろ」
「ご、ごべんな」
「うるさい。食え」
「う、うえ」

なんかもごもご言ってるけど、聞こえねえ。
ぐちゃぐちゃになったご飯も箸でとって、突っ込んでやる。

「や、やめろよ!」
「何してんだよ!」
「ああ!?」

なんか傍で見ていた他の奴らが、ぴーぴーうるさい。
睨みつけると、黙り込んだが。

「え、えっと、原田くん、その」
「おい、まだサラダ残ってんだから、早く飲み込めよ」
「う、ううう」

もう一個スコッチエッグを突っ込もうと箸を握ったところで、後ろからいきなり持ち上げられた。

「ああ!?」
「待て待て待て待て」

後ろを見ると、水垣が困った顔で俺を持ち上げていた。
なんだこいつ。
いつ戻ってきやがった。

「………なんだよ」
「やりすぎだ」

子供をたしなめるように言われると、頭の中がかっと熱くなる。

「こいつらは、俺の、メシを、無駄にしたんだぞ!!!」
「分かってる。お前が悪くないのは分かってるけど、今、若干お前の方が悪くなりつつある」
「なんでだよ!俺の、メシだぞ!?」
「分かった。分かったから」

そのまま持ち上げられて、立たされる。
そして肩をなだめるようにポンポンと叩いてくる。
それから、寝っころがっている男と、他の三人に視線を送る。

「謝ってくれるかな。お前らがやってるのは、いじめだって分かってるよね?」
「で、でも」
「な、なにを」

水垣の穏やかな、けれど低い声に、びくりと三人が震える。
寝っころがってた男は体を起こして、げえげえ口の中に入ってるものを吐いている。
俺のメシを吐きやがって。

「じゃないと、こいつ、マジでその弁当全部食わせるまで止まらないよ」
「当たり前だろ。吐き出した奴も食わせるぞ」
「………っ」

吐いてた男が、なんか泣き出した。
本当に汚い。

「ほら、早く。それに、いじめの証拠、残ってるしね。大事にしたくないよね?」

水垣が笑いながらも強く言うと、まず吐いてた男が座ったまま頭を下げた。

「ご、ごめんなさい」

すると他の奴らもしぶしぶと言った顔で頭を下げる。

「………ごめんなさい」
「ごめん」
「………」

絶対反省してねーよな。
ああ、ムカつく。
許せるわけなんかない。

「いいから金よこせよ」

手を差し出すと、また後ろから水垣に押さえられる。

「………俺が奢るから。あっちも謝ったんだし、ちょっと落ち着いてくれ」
「………」
「帰りも、なんか奢るから」

そこまで言うなら、仕方ないか。
こいつが奢る理由なんてないんだけど、まあいいか。
腹も減っている。
こいつらに関わっている時間がもったいない。

「もう、するなよ。次、食材を無駄にするようなことしてみろ。10リットル圧力鍋で殴り倒すからな」
「本当にこいつやるからな。おとなしくしとけよ」

そして水垣に引きずられるようにして教室を後にする。
なんか気が付けば教室内の奴らが、遠巻きに俺らを見ていた。
どこか怖がっているように見える。

「あ、後、俺、いじめやるような子はさすがに引くから」

教室から出る前に、水垣が振り返って、突っ立ってた女二人に向けて言う。
女子二人がさっと視線を逸らす。
そういや、あいつらこんな分かりやすいいじめを、好きな男の前でしてどうするつもりだったんだろ。
普通いじめするような女に惚れる男いねーだろ。
ま、いいか。

「お前ら、そこ片付けとけよ。よし、水垣、学食行くぞ」
「はいはい」

腹が減った。
駄目だ、倒れそうだ。

「は、原田くん、結構、怖いですね」

気が付けば後ろに玉野がいた。
びくびくとしながらも、ついてきている。

「なんでついてきてるんだよ」
「………あ、あんな空気のところいられませんよ」

まあ、楽しくメシを食う空気でもないか。
つーかこいつ、机倒される時に自分の弁当だけガードしていて無事だったぞ。
いい根性してるよな。

「玉野さんは大丈夫?」
「は、はい」
「そういや、お前いいの?お前もいじめられるんじゃないの?人気者の水垣君のくせに」
「まあ、別にいじめやるような人が傍からいなくなるなら、それはそれでいいし」

そこまで言って、水垣は肩を竦めてため息をつく。

「ただ、お前はやりすぎ」

それは確かに、言われたとおりかもしれない。
反省すべき点がある。

「………確かに俺、ちょっとひどいこと言った」
「え」
「え」
「フィスラーの鍋を、あんな奴らを殴るのに使う訳にはいかない」

大事な鍋を、あんな汚ねえ奴らを殴る武器に使う訳にはいかない。
金属バットで十分だ。

「………原田君はどこまでも原田くんですね」
「………ああ」

ああ、腹減った。
俺のスコッチエッグ。

あいつら、絶対許さない。





BACK   TOP   NEXT