少し遅くなったのに、屋上で律儀に高橋は待っていた。

「ごめんね、お待たせ。放課後に時間とって、大丈夫?」
「う、うん」

近づいて水垣が微笑みかけると、顔をわずかに赤らめて俯いた。
もじもじと両手を合わせて無意味に動かしながら、そわそわとしている。

「原田に、聞きたいことがあったんでしょ?どうしたの?」
「………う、ん」

嬉しそうだった高橋がそこで少しだけ表情を暗くする。
別に俺がいるからってわけじゃなさそうだな。
なんだか、恐怖を少しだけ滲ませている。

「大丈夫。信じないかもしれないけど、俺も見える方だから」

水垣がそんな高橋をなだめるためか、肩に手をおいて顔を近づけて覗き込む。

「え、え」
「嘘だと思う?それならそれでもいいけど、高橋さんが信じてくれると、嬉しいな」
「う、ううん」

少しだけ哀しげに笑う水垣に、高橋がぶんぶんと首を横にふる。
水垣の目を見つめて、頬を赤らめ、目を潤ませ、堅い表情ながら笑う。

「あの、ね、信じる。水垣君のこと、信じるよ」

俺達への態度とえれー違いだな、おい。
誰だこいつ。
そして水垣の態度も言葉も、背中がかゆい。
こいつも本当にそのタラシスキルすげーよな。

「どうかしたの?なんか、困ってることあるの?」
「あ、あの」

高橋が促されて、意を決したようにぎゅっと手を握る。
そして、震える声で、話し始める。

「なんか、最近変なの」
「変?」
「そ、そう。なんか、えっと、最近」
「うん」
「なんか変で、その信じないかもしれないけど」
「うん」
「こ、こんなこと言っても、変な子って思わないでほしいんだけど」

うぜえ。

「それは分かったからさっさと先に進め」

思わずつっこんでしまった。
だって俺、とっとと帰りたいし。

「な、なによ!あんたには言ってないでしょ!あんたには関係ない!」

高橋はさっきとは違う感情で顔を赤らめて、俺を睨みつけてくる。
ああ、うん。
なんかこっちの方が落ち着くな。

「だってさ、水垣。俺帰っていい?」
「駄目だ」

くそ。
便乗して帰っちまおうと思ったのに。

「高橋さん。原田は君の相談を聞くためにここに来たんだ。ああ見えて、こういうことでは頼りになる奴だ。俺たちを信じて、話して?」

水垣が高橋の頬に手をそえて、屈みこむ。
優しい優しい声で、囁く。
ああ、やっぱりこいつの声っていい声だよな。
思わず、俺も聞き惚れそうになる。
脳裏にまで染み渡り、全てを委ねてしまいそうな声。
「ね、落ち着いて。大丈夫から。俺たちは聞くから」

あー、でもほんとキモいな。

「う、うん。ありがと」
「うん」

高橋は頬を染めて頷く。
そしてこいつはチョロいな。

「あ」
「あ」
「きゃあ!」

なんて考えてる時に、視界の片隅に何かが見えた。
屋上の扉のところに、なにか、人影が見えた。

「なんかいたな」
「いたな」

水垣と俺が同時にそちらを見るが、そこにはさっきちらりと見えたものはいなかった。
あれは、そうだな。
白いワンピースを着た、髪の長い女、だろうか。
一瞬しか見えなかったから、よく分からなかったけど。
とりあえず、あんな恰好した奴、学校にはいない。

「い、いたよね!?いたよね!」

高橋が水垣の腕に掴みかかり、つばを飛ばす勢いで叫ぶ。

「な、なんか、あれ、が見えるの。私だけ、私だけ、いつも、ちらっとだけ見えるの。あの、変なの」

ぶるぶると震えて、顔が青くなっている。
声も、体も震えて、怯えている。

「お風呂で髪洗ってる時に、鏡にちらっと見えたり、洗面台の鏡で、後ろの扉から少しだけ見えたり、ベッドで寝てたら、窓の外に見えたり、自転車乗ってたら、電信柱の影に、いたり」

日常から、ずっとあいつが見えるってことか。
それは確かにうざいな。

「でも、振り返ると、いないの。すぐに振り返るのに、見えないの。それに、誰も見えないの。だから勘違いかもしれないんだけど、でも、確かに見えて。私、頭、おかしくなっちゃったのかと思って」

高橋の目に、涙が浮かんでくる。
俺をいびって笑っていた女とも思えない。

「病気なのかと、思ったんだけど、でも、もしかしたら幽霊とか、そういうのかなって、だから、原田に聞いてみたくて」
「ふーん」

幽霊、か。

「水垣、さっき何見えた?」
「髪の長い、女?」

同じものが見えたのか。
俺に見えたのも、白いワンピースを着た、長い黒髪で顔を覆った女だった。

「俺も。白いワンピースの髪の長い女。しかし、白いワンピースってベタだな。なんか最近のオバケネタって、白いワンピースの女じゃね?」
「まあ、ああいうのはイメージで出来てるのが多いから、有名な女幽霊に影響されるってのはあるんだろうけど。でも、白装束で黒い長い髪の女ってのは、かなり前からスタンダードだぞ」
「ああ、そういやそうか。着物がワンピースに変わっただけか。やべえ、オバケも時代に乗らないといけないんだな。流行に敏感じゃなきゃいけないのか。大変だな」
「人間のイメージってのは、時代を経ても変わらないもんなんだな」

常に時代の最先端を走りつつスタンダードを守る。
伝統と流行をミックスした、すごい存在ではあるかもしれない。

「ね、ねえ!なに、のんきに話してんのよ!」
「ん?」
「な、なんなの、あれ!私が、頭おかしいわけじゃないの!?あれ、あんたちも見えるの!?」

高橋が俺の腕に掴みかかっている。

「痛い痛い痛い、爪刺さってる痛い」

なんか、さっき水垣を掴んでるのと力の入り具合が違う気がする。
つーか、わざと爪立ててないか。

「………うん。大丈夫、高橋さん」

水垣がそんな高橋の手を、俺の腕からそっと外す。
そしてその手を握ったまま、にっこりと笑いかける。

「う、うん」

怯えていた高橋は、その笑顔に毒気が抜かれたのか、急に小さくなって頷く。
だから玉野もこいつも、態度変わりすぎたろ。
所詮男は、顔か。

「あれは、俺たちのも見える。だから、安心して。どうにか、するから」

なんて言ってるけど、あんなんどうにかできるんかね。
まあ、こいつがどうにかできるっていうならできんのかな。

「あ、ありがと」

高橋が、そこで鼻声になる。
それからいきなりボロボロ泣き始めた。

「ず、ずっと怖くて。怖くて。誰も分からないし。なんか、みんな、馬鹿にするし、笑うし、怖くて、怖くて」
「怖かったね。可哀そうに」

黒い涙を流して、バケモノになっている高橋の頭を優しく水垣が撫でる。
その猫のかぶり方は、ある意味尊敬する。

「大丈夫だからね」
「う、うん」
「大丈夫、大丈夫。怖くないよ。どうにかするから」
「………うんっ」

涙を拭い、鼻をすすって、高橋が息を一つつく。
どうやら少し、落ち着いたようだ。
それから、水垣の腕の袖を掴んで、必死な様子で話す。

「あのね、あの」
「うん?」
「あいつ、最初は、たぶん、もっと屈んでたの」
「え」
「こう」

高橋が、その場で自分も腰を曲げてみせる。
ちょうど足と体が90度になる形だ。

「おじぎ、してるみたいな感じだったの」

おじぎ、か。
さっきのあいつはそんな腰を曲げてたっけ。
あんま見えなかったからよくわからないけど。

「どんどん、起き上がってるの」
「………」
「今はもう、顔が、見えそう」

そういえば、少しだけ腰が曲がっているような立ち方だったっけ。
あれは、前はそうじゃなかったのか。

「………もし、あいつの顔が見えたら、私、どうなっちゃうのかなあ」

ぽろりと、もう一粒、高橋の目から涙が零れ落ちる。
弱弱しい声。
さすがにちょっと可哀そうな気がしないでもない。
水垣が高橋の頭を優しく撫でる。

「大丈夫だよ」



***




とりあえず泣く高橋をなだめ帰してから、また明日話すことになった。
途中スーパーに寄って、買い物して帰宅する。
荷物をほどいて冷蔵庫などに入れながら、キッチンに付いてきた水垣に聞いてみる。

「で、お前どうにかできるの?」
「ノープラン」

涼しい顔で、言い放ちやがった。
あんな堂々と大丈夫とか言ってたのに。

「ほー、大口叩いたもんだな」
「よく分からないけど適当になんとか頑張ります、とか言えないだろ」
「………まあ、そうだな」

それは確かに一理ある。
そんなこと言う奴に、じゃあ信じる、とか言えねーわ。

「俺たちの商売はそういうリップサービスも、料金のうち」
「なるほど、そうしてお前や四天サンみたいな口から出てきたみたいな人間が出来上がるわけだな」
「そういうことだな」

悪びれもしねえ。
まあ、いいけどさ。

「で、高橋のアレなんなの。明日まで大丈夫なのか?」
「もうしばらく大丈夫だと思う。多分、呪いかな。高橋さんを弱らせて、最終的に殺すまでいくのか分からないけど」

呪いとはそりゃまた物騒な。
まあ、呪う相手には事欠かなそうな女だけど。

「………どうにかなんの?」
「死ぬ前にはどうにかできるとは思う。まあ、最悪廃人になるかもしれないけど」
「お前割と怖いこと言うな」
「………そうだな」

あんなに高橋の前では、大丈夫とかかっこいいこと言ったくせに、冷たいもんだ。
この二重人格が。
ストレートに表も裏もない俺の方が性格がいいのではないだろうか。

「とりあえず、明日は高橋さんに気を付けて、一緒に行動してみよう」
「へーいへい。面倒くさい」
「働け」
「はいはい」

これもこの家で養ってもらうためだと思えば、仕方ないか。
おいしい飯を食うためだ。

「じゃ、明日また考えるってことで、とりあえず今日はメシだな!」
「スコッチエッグ作るのか?」
「あれ、卵冷凍しなきゃいけないから、今日無理」

冷凍卵のスコッチエッグを作ってみたかったのだ。
ただのゆで卵じゃ意味がない。

「じゃあ、何作るんだ」
「ふふふふふふ」

俺はスーパーの袋から、先ほど買ったものを取り出し、掲げてみせる。

「じゃじゃーん、豚の角煮に決めた!そう決めた!」

カレーにしようか、軟骨にしようか手羽先にしようか。
色々迷ったのだが、決めた。
決めたのだ。

「この鍋の初めての相手には、この極上の豚バラブロックがふさわしい!」

スーパーの精肉売り場でこの豚バラブロックに一目惚れした瞬間、それしか考えられなかった。
鍋の使い初めには、この肉ほど似合うものはいない。

「………そうか」
「大根いれてー、卵も煮てー、うひひ」

前作った時は結構煮込むのに時間がかかったのだが、今回はどれくらいで出来るのだろう。
この鍋の、お手並み拝見だ。
見事受けて立ってくれると信じている。

「よし、いくぞ!」

とりあえず材料をそろえて、調理に入ろうとすると、水垣がまだキッチンに突っ立っている。
いつもはさっさと自室に戻るくせに。

「何してんの?」
「手伝う」
「マジか」
「ああ。手伝うって言ったし」
「へえ。本気だったのか」

そういやそんなこと言ってたな。
てっきり口から出まかせかと思っていた。
水垣はちょっと怒ったように眉をつりあげる。

「こんなことで嘘はつかない」
「そりゃどーも」

まあ、手伝ってくれるというのならありがたく使わせていただこう。
早く料理ができるのは喜ばしい。
今日は豚の角煮に八宝菜だ。

「んじゃ、そっちのキャベツを四分の一にして、四分の一にした奴の一つを3センチ角ぐらいに切って」
「えっと、これだな」
「そうそう。包丁はその下にある」
「分かった」

その間に俺は豚の角煮の用意を進める。
鍋の使い方も、結構簡単そうだ。
茹でた青梗菜を添えたいところだが、八宝菜とかぶるかな。
でも、うまいんだよなあ。

「痛い」
「は?」

なんて考えていると、隣から声がした。
そちらを向くと、水垣の血まみれの手を呆然と見ていた。
どうやら、包丁で盛大に切ったらしい。

「お前、開始1分経たずに怪我するとか、どんだけ不器用なんだよ!逆に器用だろ!」
「いや、俺もびっくりした」

水垣は自分でも驚いているのか、ただじっと血まみれの手を見ている。
血が溢れて、まな板に落ちそうだ。

「ああああ、キャベツにかかる!」

慌ててその手を掴み、引き寄せるが、今度は豚バラ肉にかかりそうになる。

「あああ!」

そのまま咄嗟に、伝う血を落とさないために、水垣の手の平を舐めとる。

「え、原田!?」
「………」

どう切ったのか、人差し指と中指が切れていて、血が溢れている。
ぷつりと玉になり、溢れていく。
その血がもったいなくて、もう一度舐めとる。

「おい!?」
「んん」

二つの指を含み、しゃぶりつく。

「っ………、おい、原田」
「ん、ん、はあ」

水垣の焦ったような声。
ああ、駄目だ。
でも、止められない。

「ちょ、おい」
「ん」

あまい。
なんていい匂いで、なんて、甘い。

「はあ」

美味しい。
濃厚な血の味が、鉄の味が、酷く甘く感じる。

「おい、ちょっと待て」

顔を離した瞬間、指が無理やり引き抜かれた。
俺の顔を押し返して、水垣が距離を取ろうとする。

「落ち着け、原田」
「なあ、もっと舐めさせて」
「おい!?」
「お願い」
「ちょ!」

水垣の指を引き寄せ、もう一度、伝う血を舐めとる。
ああ、やっぱり、おいしい。

「あ、なんかやらしいことしてる」
「四天!!!」

何か、のんびりとした声がする。
でも、今は水垣の血を舐めることで精一杯だ。
なんて、甘くておいしいんだろう。
砂糖水よりはちみつより、ずっと甘い。

「し、四天」
「なに泣きそうな顔してるの、司狼」
「た、助けてくれ!」
「んーと」

ペロペロとアイスキャンディーのように指を舐めていると、いきなり後ろから引きはがされた。

「あ!」
「こら、朝日。何やってるの?」

後ろを振り向くと、四天サンが俺を持ち上げて、水垣から引き離していた。
せっかく、舐めていたのに。

「何すんだよ!!!」
「司狼が嫌がってるからやめなさい」

ちらりと見ると、水垣は手をガードして距離をとっている。
そんなビビらなくてもいいじゃないか。
血を舐めるぐらい。
って。
ちょっとアレか。
よくよく考えればおかしいな。
なんで俺、血なんて美味しく感じたんだ。
そんな性癖はないはずだぞ。

「………」
「ん?どうしたの、朝日?」
「なあ、四天サン」
「何」
「血、舐めさせて」
「はあ?」

なんで血なんておいしく感じるんだろう。
誰の血でも、おいしく感じるのだろうか。
とりあえず、試してみよう。

「ちょっとでいいから」
「やだよ、痛いし。ていうか何。どうしたの」

四天サンは俺を持ち上げながら、首を横にふる。
ち、ケチめ。

「なんか、水垣の血、すっげーおいしく感じたんだけど。うまい。甘い。だから四天サンの血も、もしかしておいしいのかなって」
「ああ」

そう言うと四天サンは納得したように頷いた。

「俺は多分おいしくないよ。司狼と朝日は契約してるからね。朝日は、司狼の力感じるの好きでしょ?気持ちいいでしょ?それは契約してるから」
「あー、うん。確かに」

水垣の白い力を感じてふわふわする瞬間は気持ちがいい。
あの力と、こいつの声は嫌いじゃない。

「その関係だと思うよ。つながりがあると、その人の力があるものが美味しく感じるみたい。特に体液は、力の媒介になるものだからね」
「体液?」
「そう、血とか汗とか」
「マジか」
「うん。唾液とか精液とか」
「マジか!!」

なんかエグい単語が出てきたな。
どれもおいしく感じたら人として終わりな気がする。
だが、しかし、水垣の血は美味しかった

「みたいよ?すごく美味しそうに飲んでるの見たことあるし。俺はよく分からないけど」

そうなのか。
契約したりして、つながっていると、美味しく感じるのか。

「………体液、か」

体液は、おいしく感じるか。
たとえば。

「血とか汗とか」
「唾液とか精液とか」

おいしいのだろうか。
それはすべて、おいしいのだろうか。

「………」
「………待て、こっち見るな」

思わず水垣を見てしまうと、更に一歩ひいた。

「なあ」
「嫌だ」
「頼みがあるんだけど」
「聞かない」
「なー、ちょっとだけ、もうちょっとだけ舐めさせて」
「嫌だ!」

だが諦めきれずにもう一歩近づくと、更に水垣が逃げる。
ていうか力を漲らせて結界を張ろうとしている。

「寄るな!来るな!」
「血はやだ?」
「嫌に決まってるだろ!」
「じゃあ、お前汗掻いてる?」
「………どうするつもりだ」
「勿論舐める」
「堂々と言うな」

血より痛くないんだからいいじゃねーか。
それに本当においしいかどうか、分かる。
おいしくなかったら、人の汗舐めるとか最悪だけどな。

「じゃあ、どうしろってんだよ。さすがに怪我しろとは言ってないだろ」
「なんでお前がキレてんだよ。おかしいだろ」

だって、あんなに甘くておいしかった。
もう一度、舐めたい。
怪我させるのは申し訳ないから、その他の体液でいいんだけど。

「怪我しないでも舐められる体液は汗以外にもあるでしょ」
「唾液と精液か」

精液は、さすがにハードル高いな。
だが唾液だったら水垣も痛くないし、すぐに対応できる。

「唾液、か」
「おい!?やめろよ!?」

水垣が慌てて逃げ出して、四天サンの後ろに隠れる。
こいつは玉野か。

「し、四天!」
「あはは。司狼かわいいなあ」
「四天、変なことをそいつに言うな!」
「ごめんごめん」

後ろに隠れた水垣の頭を、四天サンがぽんぽんと撫でる。
くっそ、そこにいかれると捕まえられない。

「なんだよ、減るもんじゃねーし、少しぐらいヤラセテもいいだろ。女じゃあるまいし」
「うわあ、清々しいほどゲスい発言だなあ、朝日」
「別に精液飲ませろって言ってんじゃねーんだし」
「言われてたまるか!」
「ちっ」

ちょっとだけでよかったのに。
試してみたかっただけなのに。

「朝日は本当に、面白いなあ」

四天サンが綺麗な顔でくすくすと笑いながら、そんなことを言う。

「そういう割り切りがあれば、楽だったのにね」
「ん?」
「なんでもなーい」

まあ、水垣がそんなに嫌がるなら仕方ないか。
また機会はあるだろう。
その時にまたお願いしてみよう。

「それより朝日、今日のご飯は?」
「聞いて驚け、圧力鍋で作った、角煮だ!」
「わーい、すごーい。肉だー。嬉しいな」
「ふふん、だろ!」

水垣がビクビクしながら、相変わらず四天サンの陰から俺を見ている。
そんな人を犯罪者のような扱いしなくてもいいだろう。

「水垣は怪我したんだし、あっちにいろ。つーかなんで避けてんだよ」
「………避けるだろ」
「男らしくないな」
「男だから嫌なんだよ」
「………」

ちょっとだけ考えて、納得した。
確かに汗だろうか精液だろうがなんだろうが、男に舐められたらキモい。
最悪だ。

「そりゃそうだな。悪かった」

でもおいしかったのだ。
次の機会を狙おう。





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