「………くん」

薄茶の髪と薄茶の目をした、着物を着た小さなガキが笑っている。
楽しそうに、笑ってる。
小指を差し出し、何か話してる。
指切りげんまんを求めているようだ。

「また、来てくれる?また、僕と遊んでくれる?」

少し不安そうに、顔を曇らせるガキに指を差し出し、指切りげんまんをする。
そうすると、薄茶色の髪と目をしたガキは、ぱっと顔を輝かせて楽しそうに笑った。



***




また、この夢か。
この夢を見るときは、決まって夢の持ち主が同じベッドにいる時だけだ。

「………またか」

俺の腰を後ろから抱き、しがみつくように寝ている男。
俺よりずっと筋肉のついた腕と、堅い体をしている。
暑苦しいが、ご丁寧にクーラーがついているから寝苦しくもなかった。

「おい」

腕の中で体勢を変えて後ろを振り向くと、目をつぶって寝ている男がいる。
睫毛まで薄茶で、白い肌は暗闇の中でも光って見える。

「寝る前に来いつってんだろーが」
「………」

目を瞑っていたが、今睫毛がピクリと動いた。
寝ていたのかもしれないが、覚醒したのだろう。
でも、目を開けない。
このまま誤魔化そうとしている。
往生際の悪い。

「寝たふりしてんじゃねーよ」
「………」

水垣の腕をほどき、起き上がる。
唇も少し動いた。
うん、起きてるな。

「いいけど、お代はもらうぞ」
「………」

返事をしないし、抵抗しないなら知らない。
遠慮なく、水垣を仰向けにしてその体に乗り上げ、上半身を倒す。

「ん」
「………っ」

思ったより柔らかい、熱い唇に、自分の唇を重ねる。
水垣の体がビクリと動く。
腕を押さえつけて、一応抵抗を封じる。

「……ふ」

引き結ぼうとする唇を舌先でつつく。
それでも解こうとしないので、軽く唇を噛む。
また、小さくピクリと体が震える。

「っ」
「なあ、口、開けろよ」
「………」

もう一度噛みついて言うと、ためらいながらも唇から力が抜ける。
自分の舌でこじあけ、水垣の口の中に差し入れる。
触れる唾液に、舌先に甘い味が広がる。

「ん、ん、ん」

おいしい。
おいしいおいしいおいしいおいしい。
口の中を味わうために、舌を動かす。
水垣の舌を引っ張りだして、絡めて、唾液を飲み込む。
されるがままだった水垣の舌がようやくしぶしぶ動き出す。

「ふっ、う、ん」
「ん」

水垣の舌で、口の中を優しくかき混ぜられると、おいしさと一緒に、ぞわぞわと背筋や脇腹がむずがゆくなってくる。
頭がぼうっとして、体が熱くなってくる。
きもちいい、おいしい、きもちいい。

「ふ、あ」

力がぬけて、水垣の体の上に自分の体重を乗せてしまう。
おいしい、きもちいい、おいしい。

「ん、あ」

舌が痺れそうになるぐらい吸われて、ゾクゾクと背筋に寒気が走る。
思わず体を逸らして、唇を離してしまう。
名残惜しいが、そのまま体を起こして、水垣を見下ろす。

「あ、はあ、おいし」

もったいないので、唇に残る唾液を舐めとる。
水垣は俺の下で、薄茶の目でじっと俺を見ていた。
やっぱり起きてたじゃねーか。

「………これ、なんか間違ってないか」

そして静かな声と表情で、それだけ言った。
いつものように怒ってる訳じゃない。
諦めに似た感情も感じるな。

「どの辺が?あれだろ、ギブ&テイクだ」
「………だからと言って間違ってる」
「それにお前も嫌じゃねーだろ」
「嫌だ」
「抵抗しねーじゃん」
「してるだろ!」

眉を吊り上げ、いきなり怒鳴る。
だがそんなこと言われても、説得力がない。

「殴り倒してでも抵抗しろよ。お前の方が強いんだからさ」

こいつがその気になれば、俺なんて簡単にのすことができる。
野球しかしてこなかった俺と、武術を小さい頃からやってきたこいつじゃ、勝負にならない。
でも、しないってことは、本気で嫌って訳じゃないってことだ。
たぶん。
水垣が目を細めて、俺を睨みつけてくる。

「………」
「そんな顔すんなって。いいじゃん、俺はお前の抱き枕になってお前は安眠できる。俺はおいしい思いが出来る。ほら、誰も困らない」
「………はあ」

俺がせっかく説明してやってるのに、水垣は深く深くため息をついた。
失礼なやつ。
ま、いいか。
もう夜も遅い。
そろそろ寝たい。

「ま、寝ようぜ。眠いだろ」

水垣の上から降りて、俺より大きな体を引き寄せてやる。
つってもでかいから、なんか俺の方がしがみつく感じだけど。
まわした手で、背中を摩ってやると、水垣の体からも力が抜けてくる。

「ほら、よしよし。サービスで子守唄歌ってやろうか?」
「断る」
「じゃあ、おやすみ」

俺もあくびをひとつ、目をつぶる。
そうするとすぐにもやってくる睡魔の波。

最後に、水垣が深くため息をつく気配がした気がした。



***




いつもの朝6時すぎ。
夜中に起こされつつも、今日も気持ちよくすっきり起床。
そして、隣にいる水垣に、キスをする。

「ん」

寝起きは抵抗しないし、口が開いてるから舐めるのが楽だ。
ああ、本当においしい。
ずっとこうして舐めていたい気がする。
おいしい。

「んー!!」

そして、これまたいつも通り、水垣が覚醒した。
目を見開き、俺を全力で押しのける。
名残おしいが、腹も減ったし素直に離れる。

「ぷは!」

水垣が慌てて起き上がり、俺を睨みつける。

「だから!寝込みを襲うな!」
「おはよう」
「おはようじゃない!」
「いい朝だな」
「流すな!」

まるで人を犯罪者のような目で見ている。
失礼なやつだな。
せっかく起こしてもやってるのに。

「寝込み襲われるの分かってんだから、嫌なら来ないか、俺より早く起きろ」
「夜明けと共に起きてるじいさんのようなお前と一緒にするな!」
「朝日なだけにな」
「親父か!」

朝が弱いとか言ってたけど、結構元気じゃねーか。
すっきり覚醒できていいことだ。
これも俺のおかげじゃないだろうか。

「朝から元気だな、お前」
「誰のせいだ!」
「だから嫌なら来るなって。お前が俺のベッドに入らなきゃ、俺だって襲わねーよ」

そこにおいしいものがいたら味見をしてしまうのは当然だろう。
おいしいくせに、俺の目の前で横たわっているのがいけない。
襲われても仕方ない。

「………」

水垣がそこで口を尖らせて黙り込む。
悔しそうに、眉を顰めている。
襲われたくはないけど、一人じゃ眠れないのか。
なんかちょっとかわいそうになるな。

「厄介な性格だなあ。お前も」
「………うるさい」

いつもは本当に冷静で大人びていて人当たりのいい奴なのに、なんかたまに本当に子供っぽくなる。

「これからも一緒に寝るならもうキスぐらいでガタガタ言うな。減るもんじゃねーし、目つぶってりゃ男も女も変わんねーだろ。一瞬我慢すりゃすぐだ」
「………最低だ」

水垣が顔を抑えて、がっくりと肩を落として俯く。
やかましい。

「あーもう、うっせーな。これ以上ぐだぐだ言うなら唾液以外も舐めるぞ」
「………っ!」

水垣はばっと顔をあげて、後ずさる。
そして俺は勢いで自分で言った言葉に、改めて気づく。

「………唾液以外か」

そういえば、唾液がおいしくて満足していたのですっかり忘れていた。
他の体液って選択肢もあったんだな。

「おい、待て」

血液、はさすがに怪我をさせるつもりはない。
後はそうだな。
涙は、泣かすのが大変そうだ。

「おい、こっち来るな」

にじりより、水垣に顔を近づける。
爽やかなような甘いような、いい匂い。
おいしそうな、水垣の匂い。

「おい!」

クーラーはタイマーをかけていたらしく、いつのまにか切れていた。
今はもう夏。
じっとりと暑い室内に、汗を掻いている。
水垣の喉元から、いい匂いがする。

「おい、ちょ、んっ」

その首筋を舐めると、しょっぱいと認識しているのに、なぜか甘く感じる。
唾液も血液もそうなんだが、不思議だ。
脳はまずいと認識しているはずなのに、何より甘い、蜜のように感じる。

「あ、やっぱり、汗も、おいしい」

それに、いい匂いだ。
唾液よりも血よりも味は薄い。
一番は、やっぱり血が美味しい。
その次が唾液で、次が汗か。

「でも、おいしい」
「ちょ、はら、だ!」
「ん」

首筋を舐めて、耳を舐めて、首の後ろの方を通って、胸元まで戻ってくる。
水垣が擽ったそうに、体をぴくぴくと震わせている。

「やめ、ろ!!」
「はあ………」

そして無理やり体を引きはがされる。
ああ、残念だ。
汗もおいしかった。

「何、すんだよ!」
「………お前ほんと、全身おいしいなあ」

なんて、奇跡の存在なんだ。
ずっと嫌いだったが、やっぱり水垣が好きになれそうだ。
こんなおいしくて気持ちいいやつ、きっとほかにいない。
水垣はいい奴だ。

「おいしいとか言うな!」
「なあ、やっぱり、他の体液も美味しいんだよな」
「知るか!」

血液、唾液、汗。
後は涙に鼻水に精液か。

「下半身を見るな!!」

濃厚な方が、味が美味しいようだ。
となると、やっぱり次においしいのは、精液だろうか。

「やっぱりちょっと抵抗あるんだよな。でも、勇気を出すべきか」
「そんな勇気は必要ない!」
「でもほら、人間って、タンキューシンってのが必要なイキモノだろ?」
「探求すべきものじゃないことも、世の中にも存在する!知らない方がいいものはたくさんある!」
「でもさー」

おいしいものを追い求め続けたら、きっと得るものはあると思うんだ。
探求すべきじゃないなんて、そんなことはきっとない。
きっとそこには、何かがある。

「分かった!キスするから!していいから!寝る前にはキスをする!」
「おお」

水垣が俺の体を押しのけて、必死な顔で言いつのる。

「だから、それ以上はなしだ!」

まあ、ひとまず、それでいいか。
抵抗しないなら、それでいいし。
さすがに俺も精液は抵抗あるし、怪我させるわけにもいかないし。

「とりあえず、分かった」
「とりあえずとか言うな」

でもやっぱり少し興味があるなあ。
いやでも、男のだしなあ。
さすがになあ。

「だから、下半身を見るな!」

なんとも悩ましいところだ。





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