「そう言えば、昨日は何回ヤったの?」

なんとか落ち着いた後、休憩がてら道の駅でお茶を飲んでいると、四天さんが朗らかに、前触れなく爆弾を落とされた。

「はあ!?」
「ぶはっ」

三薙さんは顔を即座に真っ赤にされて、声をあげる。
私は含んでいたお茶を吹き出した。

「な、な、な、何言ってんだ、お前!何言ってんだ!」

三薙さんは慌てふためき、手を意味なくバタバタとさせながらご自分の弟に対して怒鳴りつける。
焦る兄とは対照的に弟である四天さんは涼しい笑顔のままだ。

「何回セックスしたの?」
「ば、馬鹿!何聞いてんだ!」
「だからエッチの回数」
「違う、なんで聞いてんだ!」
「興味。兄さんフラフラだし、そんなに頑張ったのかあって。思春期の少年らしい他愛のない好奇心」

三薙さんの仰りたいことは十分お分かりになっているだろうに、のらりくらりと答えにならない答えを返す。
そんな風に三薙さんをからかっていらっしゃる四天さんはとても楽しげに見える。
内容はともかく、こうして見ていると仲のいいじゃれあうご兄弟に見える。
三薙さんにとっては、たまったものではないだろうが。

それにしても、思春期の少年とは、なんとこの方にそぐわない言葉だろう。
不敬にもそんな考えが浮かんでしまった。
だが、大人に対しても怪異に対しても、一歩も引けを取らず対峙して見せるこの方は、私よりもずっと大人びていらっしゃる。
時折少年らしい潔癖さや悪戯っぽさも見え隠れもしているが。
今のこのやりとりが少年らしいと言えるのかどうかは判断つき難いが。

「あ、アホか!」

大人びた四天さんとは反対に、三薙さんは顔を真っ赤にさせて怒鳴りつけるその姿が年よりも幼く見えてしまう。
ご本人にはとても申し上げられないが、そんな姿がとても可愛らしく、四天さんがからかってしまうお気持ちも分かる。
勿論、真っ直ぐで純粋で頼りがいがあり、尊敬に値する強い心を持つ人ではあるのだが。
可愛らしく、けれど頼もしくお強い、素晴らしいお方だ。

「オールで一晩中頑張っちゃったとか?」

それにしても四天さんは、中性的で綺麗なご容姿をお持ちだから中々気づかないが、割と下世話な会話がお好きな気がする。
というか下ネタがお好きな気がする。
こんな会話をしているのが私だったら、周りはもっと違う反応になるだろう。
なんとうか、ご容姿がよろしいというのは、本当に得だ。
いや、四天さんもお強く賢く冷静な、尊敬に値するお方ではあるのだが。

「するか!」
「じゃあ、十回ぐらい?」
「できるか!」
「五回くらい?」
「そ、そんなにしてない!」

この流れは、そろそろお止めしないとまずい気がする。
私のようなものがご兄弟の会話に口をはさむのはおこがましいが、これはまずい気がする。

「あ、あの、お二人とも、そのへんで………」

なんとか割って入ろうとするが、そんなことを許される四天さんではない。
馬鹿にしたように嘲笑って見せる。

「えー、じゃあ一回で終わり?思ったより体力ないね。志藤さんもうちょっと頑張れると思ったのに。情けないなあ」

そして三薙さんは、思った通りの反応をお返しになった。

「そんなことない!三回はした!」

ああ。
埋まりたい。
いますぐここに、埋まりたい。

「わあ、若いなあ。元気ー」

四天さんが楽しそうに手を叩いて見せる。
自分よりも5つも年若の方に、若いと言われる自分を呪う。

「あ」

そこで、三薙さんがご自分が何を仰ったのか分かったのか、さっと顔色を変える。
青くなりそして、またすぐに赤くなる。
悔しそうに震えながら、怒りを讃えた目で、四天さんを睨みつける。

「お、お前本当に最悪………」
「いや、こんなのに簡単にひっかからないでよ」
「ひっかけるほうが悪い!」

私もそう思います。
心から同意いたします、三薙さん。

「いやーでも絶倫だなあ」
「………絶倫って、何?」

三薙さんはお怒りになっていらしたが、知らない単語にあどけなく首を傾げる。
どうしてこの方は、こう、ピンポイントで無知でいらっしゃるんだ。
囲い込んでこの方を育てたという一矢さんの手腕を、心から恐ろしく思う。
この方のこのいとけなさが、人の劣情を煽ってやまない。
て、だから何を考えているんだ。

「なんでしょうね、志藤さん?」

そして末の弟であるはずのこの方は、この年でどうしてこんな擦れていらっしゃるんだ。
にっこりと笑って、私の顔を覗き込まれる。

「………お願いですから、そろそろ勘弁してください。もう、本当に………」

不思議そうに首を傾げる三薙さん。
涼しい顔で、けれど楽しげに笑っている四天さん。
私は、このご兄弟に、どこまで巻き込まれ振り回されるのだろう。

まあ、それが嬉しく感じてしまう自分がそもそも、末期なのだろうけど。






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