私には、何が必要か。 私は何をしなければいけないか。 私はどうしたいか。 私は、これからどういう形になっていきたいのか。 どこへ行きたい。 何が欲しい。 後悔しない道は、どれ。 よく、考えた。 気持ち悪くなるぐらい、考えた。 こんなに考えたのは、もしかしたら生まれてはじめてかもしれない。 私は、今まで流されるように生きてきた。 辛いことがないように。 痛いものから逃げるようにして。 ただ失うことが怖くて、少しでも痛みが小さくなるよう、何もかもから目をそむけていた。 そのツケが今来た。 だから、いっぱい考えた。 今度こそ、考えた。 私は、明るい場所へ行きたい。 根木の家のように、笑い声のあるところにいたい。 根木のように、優しい人間になりたい。 私も、笑っていたい。 誰も恨みたくない。 誰も憎みたくない。 一人になりたくない。 優しくされたい。 傍にいてほしい。 もう、泣きたくない。 辛いのは嫌。 苦しいのは嫌。 千尋の悲しい顔は見たくない。 根木の優しさを失いたくない。 千尋はずっと傍にいてくれた。 私が呼吸を出来ていたのは、千尋のおかげだった。 根木の持つものは、私が欲しいものだった。 根木のおかげで、私は温かさを知ることが出来た。 それなら私は。 私は。 バイトから帰った根木と美穂さんと一緒に、ご飯を食べる。 今日は道隆さんはいなかった。 美穂さんのご飯は温かくて、おいしい。 二人の明るい会話に、心はゆったりとほどけていく。 この空間が、私は欲しい。 これが、欲しい。 お風呂に入って、カーティガンを着こんで、根木の部屋に向かう。 ノックをすると、開いているよ、といつものように朗らかな声が帰ってきた。 一瞬ためらって、けれど遠慮なくドアを開ける。 根木は部屋の隅に置かれているシンプルな勉強机に向かっていた。 椅子をくるりと回して、向かい合う。 好奇心に満ちた目が、私を見つめている。 私はそっと目を伏せる。 軽く、喉が渇いている。 ごくり、と唾を飲み込む音が頭の中に響く。 「どうしたの?」 ドアを開けたまま突っ立っていた私を、根木が小首を傾げて見上げる。 私は顔をあげて、一歩前に出る。 そして後ろ手でドアを閉めた。 「根木」 「はいはい?」 さあ、言おう。 これは、自分で決めたこと。 ようやく、自分で決めたこと。 誰のせいにもできない。 父でも母でも、根木でも千尋でもない。 これは、私の意思。 「あのね」 「うん?」 根木は急かさずじっと待っていてくれる。 優しい人。 最初に出会ったときから変わらない。 この人は、私の話を聞いてくれている。 「根木、私、明日、家に帰ろうと思う」 「………」 「千尋に、話す。もう一度、話す」 「………答えは出た?」 その声は、労わるような温かさに満ちている。 根木の切れ長の目が、私の意思を探る。 私は一度大きく深呼吸した。 それから、ちゃんと顔をあげて、その目を見つめた。 目は、そらさない。 顔は、下げない。 「うん」 そして、頷いた。 |