「ここ、どこよ………」

確か私はさっきまで、自室でビールを飲んでいたはずだ。
それは確かだ。
ビールは片手にある。
室内着のジャージそのままだ。
てことは確かにさっきまでは自室にいたはずで。

「*****************」
「*************」

なんで、こんな石畳の部屋で、コスプレみたいな恰好した人たちに囲まれてるんだろう。
私もしかして寝てるのか。
そういえば最近、ビール飲んだままベッドに入らず寝てしまうことが多い。
もう歳なのかなあ。
やだわ、30過ぎてから一気にきた。
前はビール2本で気付かないうちに寝てるなんてことなかったのに。
そろそろ節制しないとなあ。
こんななんかファンタジーな夢見ちゃうし。
いい年こいて恥ずかしいわ。
先週DVDでロード○オブザリング見たからかしら。

「*****************」
「*****************************」

なんかずらずらと長かったり、鎧みたいの着てたりする人たちが私を指さして何か話している。
本当にその姿は先週見たファンタジー映画そのもの。
随分小汚い所がまたリアリティがある。
私、ファンタジー小説とかって苦手だったんだけど、結構影響されやすいんだなあ。
ジャージのまま座り込んだ石畳が冷たくて腰が冷えてくる。
冷えは女の大敵なのに。

「******」
「***********」

とかなんとか考えている間も、私を囲んでいる男性3人は私について何かを話している。
しかし、落ち着いて観察してみると、なんともイケメンだ。

一番目立つのは、40代いくかいかないかの濃い茶の瞳と髪をした人。
もっと若くも見える。
髪と同じブラウンの髭を蓄え、とてもワイルドだが人を惹きつける魅力がある。
彫りの深い目鼻立ち。
一目で目に入ってしまう、自信あふれる笑顔。
動きやすい服を身につけて、腰には剣など佩いている。

その隣にいるのは彼の部下、なのだろうか。
まだ若い、二十代後半だろうか。
私より年下のような気がする。
ブラウンの人よりも随分大人しめの印象。
目の覚めるような赤毛をしているけれど、しかしどこか地味で目立たない。
清潔な印象を与える真面目そうな男。
目はトパーズのような、明るいけれど濃い黄色。
そして丸い眼鏡がよく似合っている。

もう一人は文句なしの美青年。
金髪碧眼。
長く輝く、明るい金髪。
透き通る湖のような、綺麗な青い瞳。
美しい、なんて表現を男性に使うことはなかったけれど、その表現がぴったりだ。
まさに、美しい。
なんだかズラズラとした冴えない鼠色のローブみたいのを着ているが彼の美貌を隠すには至らない。
穏やかな表情でにっこりと微笑んでいる。
急にすっぴんなことが恥ずかしくなってきた。

しかしやっぱり、西洋人てのは人間としての種が違うとしか思えない。
大和民族とはもう、どこまでも違う生き物だ。
足の長さとか彫りの深さとかもう、なんていうかオーラが。

「***************」
「***********」

それにしても、夢なのだから言葉ぐらい通じないのだろうか。
私の英語力を、こんなところでも思い知らせなくても。
いや、これは英語じゃないのだろうか。
少しも分かる単語がない。
私の英語が苦手という意識が、英語を訳の分からない言語にしてるのだろうか。

「***************」
「*******************」

男3人は座り込んだ私を指さし、何やら討論している。
イケメンだけど、感じが悪い。
何か笑ったりもしている。

どうせ私はすっぴんだ。
眉毛ないし。
くすみもシミも隠してない。
昨日遅かったせいでクマもひどい。
ていうか一人暮らしの寝る前にそんなもの求められても困る。

にしても、うるさい。

「うるっさい!!」

ぴたりと、3人の男の会話が止まった。
私はそろそろイライラが頂点に達しようとしていた。

「あんたたち、うるさいのよ!今日は早く帰れたからビールでも飲んでさっさと寝ようとしてたのに、なんなのいったい!私の夢なら夢らしく、私にちやほやするとか、お姫様扱いするだの夢を見せてみなさいよ!ホストクラブの方がまだサービスいい!サービス業なめんな!」

夢の中なのに眠いわ、熱いわ、笑われるわ。
まったく不快。
こんな疲れる夢なら泥のように夢も見ずに眠れた方がいい。
明日もまた、疲れる毎日が待ってるつーのに。

私がぶつぶつ言っていると、困惑したように話し合う3人。
そのうち、相談が決まったのか金髪の美青年が近付いてくる。
なんだ、ようやくサービスが始まるのか。
美青年が懐から取り出した、ネックレスを首からかける。
私は動けずに、されるがままだ。
無愛想な皮の、緑の石がついたネックレス。
露天なんかで売ってそうなチープさだが、石は高そうだ。
座り込んだまま見上げると、美青年が私の前に手をかざして、また何事かいう。
なんなんだ、一体。

『すいません、私の言うことはわかりますか?』

しかしその次の瞬間、頭の中に入り込んできた言葉にびっくりする。
な、なんだ。
急に翻訳!?
日本語吹き替えバージョンか!?

『大丈夫ですか?』

見とれてしまうような笑顔とともに、ゆったりとした穏やかで綺麗な声が頭の中に響く。
声?
声なのか?
この人今口開いてなかったぞ。

『ああ、これは声じゃありません。私は今、思念で貴方の脳に直接語りかけています』

何言っちゃてんの、この人。
思念とか言ってやばい、怖いわ。
イカレてる?
よくいる祈らせてください系?
いやいやいや、これは私の夢だし。
私ってこんなやばげな思考してたんだ。
うわー、危ないわ。
宗教とかはまらないようにしないと。

『あなたの思考は少し読みづらいですね。でも、狂人という訳でもなさそうですし』
「誰が狂人よ。失礼な人ね。私の夢のくせに。」

困ったように首をかしげる美青年に、私は思わず応えてしまう。
美青年はその言葉が通じたのか通じないのか、にっこりと笑った。

『あ、今の言葉の意味はなんとなく感じ取れました。とりあえず、これは夢じゃありませんよ』
「は?夢の中で夢じゃないとか言われちゃうのもまたよくできてるわねえ」

にしても綺麗な人だ。
なんか言ってることが微妙にムカつくが、顔がいいとそれほど腹がたたない。
美形は得だ。

『ありがとうございます』

目の前で顔を近づけられてニコニコと笑う。
うわ、まずいドキドキする。
こ、こんなイケメンにこんな近づかれたことはない。
ていうか周りにいない。

『ふふ、かわいいですね』

うわ、かわいいとか言われてしまった。
私より年下の男にそんなこと言われるとは。
しかし悪い気分ではない。

『おそらく、私はあなたより年上ですよ。おいくつですか?』

誰がそんなこと言うか。
いい加減誕生日が嫌になる独身女だ。

『31ですか。やはり私より年下ですね。私はどうも若く見られがちなので』

え、どう多く見積もっても二十代後半だろう。
何言ってんだ、ってこの人。
え、ちょっと待った。
私、今自分の年言ってないわよね。
ていうかこれまで私、話してないわよね。
ずっと黙りこんで話していただけなはずなんだが、なんで話が通じてるんだ。
え、どういうことだ。
え。

『ああ、混乱されないでください。私は今あなたの思念を直接読み取り、直接思念によって話しかけています。言葉は必要ありません』

え、どういうこと。
思念って、直接って。
え、それはつまり。
頭の中を見ているってこと、になるの。
そういう解釈でいいのかしら。

『ええ、あなたの考えていることは私にはつつぬけです』

はああああああああああああああああ!?
にっこり笑って何いってんだこの男。
え、てことは今考えていることが全部この男に聞こえてるってことで。
あ、だからこの人口が動いてないのか。
え、私の考えてること丸見えってそれはちょっと。

私が混乱していると、美青年は困ったように笑う。
手で頭を軽く押さえて、頭痛をこらえるように眉をひそめる。

『混乱されると、沢山の思念でこちらも混乱しそうです。とりあえず落ち着いてくれませんか』

落ち着けと言われて落ち着けるものか。
なんて夢だ。
私の潜在意識は一体何を考えているのか。
何もかもをイケメンたちに知られたいとでも思ってるのか。
んな訳あるか。

『落ち着いてくれませんね。困ったな。とりあえず要点だけ説明しますね。あなたが思ってることは私に筒抜けです。お腹すいたとか眠いとかトイレ行きたいとか』
「は!?」

思わず声が出てしまった。
どういうことだ、つまり私が頭痛いとかトイレ行きたいとか考えるとこの人にわかるのか。
他にもおならしちゃったとか、生理でお腹痛いとか。

『すいません、全部ばれてしまいます。大変申し訳ないのですが、この術を解くためにも早く言葉を覚えてください』
「何言ってんのよ、ちょっと!プライバシーの侵害よ!セクハラで訴えるわよ、この野郎!部長よりタチ悪いじゃないのよ!いくら顔がよくてもやっていいことと悪いことが、ていうか逆にイケメンだからこそ知られたくないことがいっぱいあるつーの!」
『思考がまた混乱されてますね。仕方ないのでこちらの言いたいことだけ言わせてもらいます』

美青年は私の罵詈雑言を笑って受け流す。
くそう、絶対分かってるはずだろう。
なんだこのタチが悪い夢は。

『先ほども申し上げましたが、夢ではないです。そして、意思の疎通を図るためにこのような手段をとらせてもらいました。今、あなたが考えていることは私にすべて分かってしまいます。あ、ちなみに一方通行です。私はあなたの考えてることを読むことも、あなたに私の言葉を伝えることもできますが、私は全部をあなたに伝えている訳ではないです。隠しごとも嘘もできます』

なんだそのこいつに都合のいい設定は。
ていうかいくらファンタジー設定でもあんまりじゃないか、これは。
こんな微妙なリアリティ設定のファンタジーは見たくない。
にしてもどうするんだ。
このセクハラ行為。
なんでこんな目にあってるんだ。

『いやーすいませんね。こちらも困ってるんですよ。だから言葉を覚えてください』

言葉って、さっきこいつらがなんかしゃべってたあれか。
自慢じゃないが、私は英語万年5だった。
10段階評価で。
大学だって優とったこともない。
毎回良だ。
日本人らしく文法はできるが単語もスピーキングもヒアリングも得意じゃない。

『あなたの世界の言語のことですか?どうしましょう、こちらの言葉を覚えるのが嫌なら、この術を周りの人全員にかけることもできますが』

それはあれか。
こいつだけではなく、他の人間にも私の考えが筒抜けになるということか。

私は周りにいる二人の男に目を向ける。
ブラウンの自信満々の男は楽しげにこちらを見ている。
赤毛の眼鏡はどこか心配そうに、おろおろとしていた。

『ええ、全員にあなたが便秘だとか下痢だとか生理が重いとかばれますね。そちらがいいですか?』
「いい訳あるか!この馬鹿!」
『でしょう。だから私だけにしておきますから、早く言葉を覚えてください。すいませんねえ、乱暴な方法で』

にこにこと笑う男は、全然謝っているように見えない。
いったい何なんだ、この理不尽な状況は。
なんて夢だ。
全くいやな夢だ。

『だから夢じゃありませんって』

いや、これは夢だ。
夢のはずだ。
現実であるはずがない。
石畳に座り込んだお尻がいい加減痛くなってきたこととか。
トイレに行きたくなってきたとか。
おつまみしか食べてない胃が空腹を覚えるとか。
なんか知らないけど現実感を訴えるが、これは夢だ。
こんな現実が、あっていいはずがない。

『強情だなあ。まあ、とりあえず信じるまでは夢でもいいですよ。なので言葉を覚えてください。そうしたら術も解除しますから。はっはっはっはっは』

男は朗らかに綺麗な笑顔で笑う。
その顔を張り倒したい衝動にかられた。
一体なんなんだ、この状況は、本当に。
とりあえず、夢が覚めるまで、私は付き合わなきゃいけないのか。
一体、私が何をしたっていうんだ。

そして、私の覚めない夢は始まった。





TOP   NEXT