長い一日が終わった。
今日は色々あった……。
寝床として提供してもらった和室で布団に思いっきり倒れこむ。
陽の匂いがした。
肉体的な疲れより、精神的な疲れの方が大きい。
遅刻、電車、ニシジマ、迷子。
あー、疲れた。
でも、それ以上にいいことも、あった気がする。
鈴鹿の両親もいい人だったし。
お母さんの飯うまかったし。

鈴鹿が、俺のこと少しは意識しててくれること分かったし。

今回の滞在は3泊4日。
その間にもっともっと意識させてやる。
ニシジマになんか負けるか。

今年からは中学に上がる。もうガキじゃなくなる。
親父も背は結構高かったし、俺も絶対でかくなる。
差は、縮まってるはずだ。
弟とか小さいとか言わせない。俺だって男なんだからな。


決意も新たに、布団の上で伸びをする。
そこに、ふすまをノックする音がした。
「駿君、入るね?」
「どうぞ」
がらっとふすまを開けて鈴鹿が入ってくる。
鈴鹿は風呂上りだった。
顔が上気して、全身紅く染まっている。
髪を後ろで軽くまとめている。
そしていつもパジャマがわりにしているんだろう。
大き目のTシャツとラインパンツ。
う、くそ。
心臓がスピードを上げる。
「お風呂空いたから入って」
「……分かった」
「冷めないうちに入ってね。本当はお客さんが先のがいいのに」
「いいよ、そんな気を使われるほうが嫌だって」
「本当に出来た子だねえ」
落ち着け落ち着け。
子とか言われたことにも構えない。
落ち着けって俺!こんなんで動揺するな!
どうにか心臓をなだめすかして、冷静に答える。

て。
改めて鈴鹿を見たんだが……。
……こいつ。こいつこいつ!

色の薄いTシャツなんか着るんじゃねえ!
ていうか下になんか着ろ!
頼む着てください!
うわ、透けそう。ていうか透けかけなあたりがまた想像力が……。
見るな見るな見るな!頑張れ俺の視神経!
「……じゃ、すぐ行く」
「うん、早くね」
そう言って部屋から出て行った。

た、助かった。
俺はそのまま前のめりに布団に突っ伏した。
やばかった。マジやばかった。
つーか俺本当に男という生物として見られてんのか。

色々な意味で、しばらく動けそうになかった。




ようやく動けるようになったので風呂に入った。
疲れた。本当に疲れた。
一日の終わりにマジ疲れた。
マンションらしい機能的な風呂のバスタブでゆっくりと手足を伸ばす。
やっぱり風呂はうちの方がいいな。
やっぱマンションは大きさがなー。
なんだか変なふうに力の入っていた筋肉をほぐす。
そこに脱衣室の扉が開いたのが磨りガラス見えた。
「駿君?ごめんシャンプーなかったでしょ」
鈴鹿の声が聞こえた。
そのまま影が大きくなるって。え?
風呂場のドアノブが動く。
「て、おい!ちょっと待て!」
慌てて湯船により深く座る。
静止など聞こえないように、ドアがちゃりと音を立てる。
「ごめんねー、忘れてた。ここ置いてくね」
少しだけ開き、姿は見せないまま手を伸ばしてシャンプーを入れていった。
その後すぐにいなくなった。


しばらく俺は動けなかった。
心臓はまだばくばくいっている。
あいつ、絶対俺のこと男としてみてない。
危機感がまったくねえ!

「くっそー!」
湯船に思いっきり顔を突っ込んだ。
鼻に少し水が入った。



道はまだまだ遠く、険しい。






TOP   鈴鹿side