弱く体をゆすられているのを感じて、意識がゆっくりと覚醒する。
目を開けて、一瞬だけどこにいるのか認識することが出来なかった。

けれど、目の前にある、夢の中と変わらないキラキラと光る大きな目が、私に現実を教えた。
静かな目で、ソファに横になっていた私を見つめている。

「こんなところで寝ると、風邪を引く」

いつの間にか掛けられていた柔らかい毛布の感触に、頬を摺り寄せる。
長い指が私の髪を静かにすいた。

「私は、何かを言っていた?」
「……?」

あの頃多弁だった少年は、すっかり言葉を失った。
表情を失った。
髪の色を失った。

それは私の罪の証。

私はこの上なく愛おしい存在に、常に断罪されている。
けれど罪は償えない。
私は一生許されない。
すべてをかけて、彼に謝罪し続ける。
それでも足りない。
足りない。
足りない。

「そう、夢を見たわ」
「どんな?」
「懐かしい夢よ。とても懐かしい夢」

ガラスケースの中の華のようなとても綺麗で、どこか歪な記憶。
後悔と痛みを伴う、私の何より大切なもの。

「ね」
「どうした?」

私の声を聞き取るように、腰を屈めて体を寄せる。
すっかり成長して手足が伸びきったその体に、手を伸ばした。
変わってしまった男の子。
けれど変わらない、温かで優しいもの。

私が守りたかったもの。
私が欲しかったもの。

私が、壊してしまったもの。

私がもう、手に入れるものは叶わないもの。



***




だから私は貴方の幸せをただ祈る。
そのためだったら、なんでもしよう。

あなたから全てを奪い、粉々にしたのは私。

私の守りたかった、すべて。






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