目を開けて、一瞬だけどこにいるのか認識することが出来なかった。 けれど、目の前にある、夢の中と変わらないキラキラと光る大きな目が、私に現実を教えた。 静かな目で、ソファに横になっていた私を見つめている。 「こんなところで寝ると、風邪を引く」 いつの間にか掛けられていた柔らかい毛布の感触に、頬を摺り寄せる。 長い指が私の髪を静かにすいた。 「私は、何かを言っていた?」 「……?」 あの頃多弁だった少年は、すっかり言葉を失った。 表情を失った。 髪の色を失った。 それは私の罪の証。 私はこの上なく愛おしい存在に、常に断罪されている。 けれど罪は償えない。 私は一生許されない。 すべてをかけて、彼に謝罪し続ける。 それでも足りない。 足りない。 足りない。 「そう、夢を見たわ」 「どんな?」 「懐かしい夢よ。とても懐かしい夢」 ガラスケースの中の華のようなとても綺麗で、どこか歪な記憶。 後悔と痛みを伴う、私の何より大切なもの。 「ね」 「どうした?」 私の声を聞き取るように、腰を屈めて体を寄せる。 すっかり成長して手足が伸びきったその体に、手を伸ばした。 変わってしまった男の子。 けれど変わらない、温かで優しいもの。 私が守りたかったもの。 私が欲しかったもの。 私が、壊してしまったもの。 私がもう、手に入れるものは叶わないもの。 だから私は貴方の幸せをただ祈る。 そのためだったら、なんでもしよう。 あなたから全てを奪い、粉々にしたのは私。 私の守りたかった、すべて。 |