美晴の部屋のソファで背中合わせに座りながら、思い思いに過ごす。
美晴は本を読んでいて、俺はゲームをして遊んでいた。
一緒にいて、でも自分のやりたいことを出来るのって、なんかいい。

急に背中の支えがなくなったので、後ろに倒れそうになる。
けれど倒れる、と思った時には支えられていた。
何なのかと思って振り返ると、美晴が何かを言いたげに俺を見ていた。
最近なんとなく、美晴が何かお願いごとをしたいときは分かる。

「どうしたんだ?」
「我儘を言っても、いいか?」

恐る恐る、いつものように遠慮がちにその言葉を口にする。
聞くかどうかは別として、なんでも言ってもいいと言ってるのに、相変わらず変なところで臆病だ。

「言えよ。聞きたい」
「キスして、いいか?」

聞いて思わず、俺から押し倒してキスしそうになる。
美晴がこんなにはっきりとキスしたいと意思表示するのは初めてだ。
俺から襲ってして、気分がのってお返しをくれるとかそんな感じだ。
だから答えは勿論決まっていた。

「いいぜ」
「ありがとう」

ソファに向かい合って、俺は目を閉じてじっと待つ。
なんだか、自分でするよりされるのを待つ方が、怖い。
いつ来るのか分からないから、余計に怖くて、心臓がバクバク言っている。
しばらくして、息が触れたかと思ったら、こわごわと震える唇がそっと重なった。
それは温もりを残すと、すぐに離れていく。

「………」

これで終わりかと物足りなくて目を開く。
けれど、美晴の黒い目はまだ何かを訴えていた。
なにかまだ、我儘を言いたいらしい。

「なんだよ?」
「………口の中を、舐めてもいいか?」
「え?」

予想外の言葉に、少しびびる。
でも、そんなの望むところだ。
むしろ俺が舐めまわしたい。

「勿論いいよ」

深山がほっとしたように、少しだけ表情を緩める。
本当に最近表情が分かりやすい。
俺のおかげかな、と思うとちょっとだけ気分がいい。

深山はまたゆっくりと、唇を重ねてくる。
でもさっきとは違い、今度はもっと深く重ねて、そして労わるように唇が舐められる。

「ん」

わずかに開いた口のあわいからぬるりと濡れたものが入り込み、ゾクゾクと産毛が逆立つ感覚がする。
遠慮がちに入ってくる舌を受け入れるために、俺も舌を差し出す。
そっとつつくと、安心したように美晴も舌を絡めてくる。

「う、ん」
「ん」

目をつぶったまま、口の中の感覚に集中する。
口の中を舐められるのが、こんなにも気持ちがいいことだなんて、知らなかった。
美晴も同じように気持ち良くなって欲しくて、俺もつついたり、舐めたり、絡めたりする。
触れる手は冷たいのに、美晴の舌は、とても熱い。

「は、あ」
「は」

息が苦しくなって、顔を離す。
飲み込めなかった唾液が、二人の間を伝う。
濡れた音とその光景がとてもいやらしくて、腰がずくりと重くなる。

頭の芯がジワリと痺れて、薄く靄がかっていく。
もっともっと、触りたい。
もっともっと、美晴に触れたい。
そう思って、美晴に視線を移すと、黒い眼はやっぱり俺に物言いたげにじっと見ていた。

「………なんだよ」
「もっと、触れても、嫌じゃないか?」

もっとって、なんだろう。
想像して、体が熱くなる。
ていうかどうしたんだろう。
今日の美晴は本当に積極的だ。
勿論嫌じゃない。
むしろどんと来い。

「嫌じゃない。美晴に触れられるのは、嬉しい。俺も触りたい」
「そうか。でも、とりあえず、僕が触らせてもらってもいいか?」
「………まあ、いいけど」

せっかくなら俺ももっといっぱい触りたい。
撫でまわしたい。
舐めたい。
美晴の、キスした後みたいな、いやらしい顔をもっと見てみたい。

でもせっかく積極的になってくれたみたいなので、俺は黙って美晴に更に近付く。
何をされるのか分からないけど、美晴が触りたいって言ってくれるのは嬉しい。
いつもは俺の方からお願いしているから。

「ん」

ぺたぺたと、形を確かめるように、白い手が俺の顔に触れる。
て、なんだよ、顔かよ。
まあ、いいけど。

「楽しい?」
「ああ」

美晴は本当に嬉しそうに、目を細めている。
まあ、嬉しいならいいけど。
そのまま、なんだか大切なものを扱うように、ゆっくりと触れられる。
鼻、瞼、頬、耳。
くすぐられるように顎のラインを撫でられて、ゾクゾクと背筋に快感が走る。
変な感じ。
やばい、勃ってる。
どうしよう。
顔触られてるだけなのに。
体の変化が気付かれないように、じっと身を固くして俯く。
ひとしきり触って満足したのか、美晴がまたお願い事をしてくる。

「体も、触りたい」
「え、い、いいけど」

体って、どこまでだろう。
ていうか本当にどうしちゃったんだよ美晴。
冷たい手が頬を伝って、首筋をさらりと撫でていく。

「………ん」

そしてまた確かめるように、シャツの上からぺたぺたと体を触ってくる。
ぞわぞわと、悪寒にも似た感触に、全身が熱くなってくる。
焦らされるような淡い感覚に、腰がうずうずと重くなってくる。

「………っ」
「シャツを脱がしてもいいか?」
「い、いい」

真面目な顔で聞かれて、一瞬言葉に詰まる。
恥ずかしい。
けど、もっと、触ってくれるなら、触ってほしい。
物足りない。
もっともっと、この手を感じたい。

「手を上げて」

うながされ、ちょっとためらう。
なんか、俺がものすごい欲しがっているようだ。
でも、訴えかける美晴の目には逆らえず、バンザイするように手を上げると、シャツを抜き取られた。
美晴が俺の体を見て、ごくりと唾を飲み込む。
真面目な顔は、一見冷静なように見える。
でも、その目尻は赤くなっている。
いつもキスした後に見せる、興奮してきている顔だ。
美晴も欲情している。
その事実に、俺もまた興奮して来る。

「触りたい」

美晴の目に熱が籠っている。
最近気付いた。
美晴の目は、その言葉より、行動より、何より彼の感情を伝えてくる。

「いい、よ」

許可すると、そっとむき出しになった鎖骨に、白くて長い指が触れてくる。
すっと一撫でされただけで、体が小さく跳ねる。
なんだか、どこもかしこも敏感になっている。

「……ふ」

思わず鼻から抜けるような声が漏れた。
揺れた体に美晴が一瞬動きを止める。

「………嫌じゃないか?」
「いやじゃ、ない」
「僕は君に触ることで、性的な興奮を覚えている。君は、嫌ではないか?」
「せい………」

だからどうしてこいつはこういういい方をするんだ。
なんだか余計に卑猥に聞こえて、顔まで熱くなってくる。

「嫌か?」

でも、俺が言葉に詰まると、美晴が不安そうに顔をゆがめた。
本当に鈍感馬鹿野郎だ。
そんな顔するなんて、反則だ。
仕方なく、恥ずかしい言葉を口にする。

「嫌、じゃない。美晴に触られるのは、気持ちいい」
「そうか」

美晴はほっと安心したように息をつく。
そして、また、その黒い目で訴えながら聞いてくる。

「もっと触ってもいいか?」
「い、い。もう、聞かなくていいから。どこ触ってもいいから」
「分かった。ありがとう」

いちいち聞かれるほうが恥ずかしい。
なんだかもう、顔も体も熱くて、くらくらする。
美晴の手が、さっきよりも大胆になって、体を這う。
首筋、鎖骨、背中。
わき腹をなぞられた時は思わず体が跳ねて声が出た。

「ん、は」

まるで実験をするように、俺の反応をじっと見ている。
その視線を感じて、恥ずかしさで全身が燃えるように熱くなる。

「………っ」

自分でする時よりもずっと柔らかくて頼りない刺激。
別に性器をふれられてる訳でもない。
なのに、体中が敏感になって、どこに触られてもびくびくと体が反応する。

「ん」
「乳首は、気持ちいい?男でも気持ちいいらしいのだけれど」

美晴の息も、少し上ずっている。
その手が、俺の乳首に触れて、何度も何度も撫でつける。
しばらくして、それがピンと立ち上がったのが分かった。
そんなところ、気にしたこともなかったのにピリピリとした不思議な感触に息が上がる。

「………う」
「嫌だろうか?」
「嫌じゃ、ないっ」

だから聞くな。
聞かれるたびに、その視線を感じるたびに、恥ずかしいの比例して、腰に熱が溜まっていく。
俺が声をあげて体を跳ねさせるところを覚えたのか、そこに集中して触れてくる。
変なところで学習能力使いやがって。
生温い刺激に浸っていると、美晴がその手をようやく止める。

「君の性器を触っても、いいだろうか」
「せ………っ」
「見たい。触りたい」

美晴がじっと、俺の目を見ている。
耳まで熱くなっていく。
もう、頭の中がぐらぐらと滾っている。
恥ずかしすぎる。
この馬鹿はどうしてこうなんだ。

「ば、かっ」
「………駄目なのだろうか?」
「聞くなって、言っただろ」

ようやくそれだけ告げると、さきほどのやりとりを思い出したのか美晴は目を細めた。

「………ありがとう」

ものすごく恥ずかしくてムカつく。
それなのに、その嬉しそうに弾んだ言葉に、何もかも許してしまう。
くそ、ずるい。

「じゃあ、触るから」

深山は器用にファスナーを下ろして、湿った下着の中からもうすでに元気になってる俺のソレを取り出す。
そして、そっと冷たい手が握りしめた。
急に訪れた直接的な快感に、腰が跳ねて背がしなる。

「は………っ」
「……勃起している」
「………ん」
「よかった」

その言葉が、本当に嬉しそうで、逆に恥ずかしくなる。
もうやだ、こいつ。
新しいおもちゃを与えられように、じっと美晴がそれを見ている。
そして、ゆっくりと恐る恐るではありながらも、的確に触れてくる。

「あ……ん…」
「もっと、硬くなってきた」
「う………」
「濡れてきた」
「………っ」
「震えている。気持ちいい?嫌じゃないか?」
「……ぅん…」
「気持ちいいだろうか?ここは?」
「ひっ」
「カウパー液が零れた。ここがいい?」
「や」

思わず美晴の体を押しのけて、その動きを止めさせる。
頭の中が混乱して、目が潤んで、視界がぼやけてくる。
俺だけこんな服脱いで、気持ちよくなってるのが恥ずかしい。
なにより、冷静に観察するような目と言葉が、恥ずかしくてしょうがない。

「みは、る……やめて、それ」
「触るのは、嫌か?」
「そうじゃ、なくって」

どう言おうと迷っていると、言葉を待たずに美晴が手の動きを再開する。
先から零れたのが、自分でも分かった。

「うぅ、あ………」
「また、零れてきた。気持ちいい?」
「も、や」

感極まって、堪えていた涙が零れてきた。
恥ずかしくって、もう駄目だ。
ぼろぼろと涙がこぼれてくる。

「…………」

美晴が手を止めて、息を呑む。
ようやくやめてくれるのかと顔を上げると、美晴はじっと俺を見ていた。
その目は熱くて、息は荒くなっている。

「………みは、る?」
「………」
「な、んっ」

いつもの穏やかなキスとは打ってかわって貪るように口づけてくる。
逃れることもできないまま必死にそれを受け止めて、舌を絡める。
その間にも冷たい手は俺の体を這いまわり、鼻から甘えるような声を出してしまう。

「も、やっ。な、に、急に」
「わから、ない」
「え………ひっ」

乱暴に、美晴がソファに俺を押し倒す。
そして、俺のを掴む手に力を込めて、追い立てるように動かす。
俺から零れたもので濡れた音を立てるから、耳からも犯されるようで余計に昂ぶっていく。

「もっと、見たい」
「な、なにっ?」
「気持ちいい?どこ?教えて?」
「だから、もっ」

もうなんなんだよ、こいつ。
性器を嬲っているのとは別の手で、さっき見つけられた弱いところをなぞってくる。
びりびりと痺れるような快感と、羞恥で、腰が重くて、皮膚がひきつれる。
じっと見下ろす美晴の目が、恥ずかしい。
そして、その目にすら感じてしまう。
恥ずかしくて、涙が止まらない。

「ひ……ん……うぅ」
「すごく、かわいい」
「な!」

何を恥ずかしいことを言ってるんだ。
もうどうしちゃったんだよ、本当にこいつ。
乳首をつままれ、性器を強くしごかれ、袋を撫でられる。
一気にきた快感に、ソファの上で体が跳ねる。

「あ、あ、も、駄目っ」
「………」
「みは、手、放して、も、イク」
「このまま射精して」
「ば、か、このっ」

離させようとソファを掴んでいた手を美晴の手を引きはがすために伸ばす。
けれどその前に、その冷たく濡れた手が俺の先端に爪を立てた。
我慢できずに、全身に力が入る。
そのまま一気に、快感が脳天まで駆けのぼる。

「あ、ああ!」

頭が真っ白になると同時に、美晴の手に吐き出してしまった。
一瞬の空白。
息が苦しくて、はあはあと自分の荒い息が耳元で聞こえる。
しばらくしてようやく焦点があってくると、じっと自分を見下ろしている黒い目と視線があった。

「う………うぅ……この、馬鹿……ひっく」

羞恥と興奮で泣いてしまっていた俺は、みっともなくしゃくりあげる。
いっつも性欲なんてありませんよって顔してたくせに、なんだこいつ。
本当になんなんだよ。
睨みつけるが、美晴は少し呆然としているようだった。

「なんだ、よ」
「なぜだろう」
「何がだよ」

美晴はじっと、俺の顔を見て、眉を寄せる。
興奮に上気した顔はえろくって、また俺もムラムラしてくる。

「君の泣き顔は見たくないと思う。君にはずっと笑顔でいて欲しいと思う」
「………うん?」
「でも、今、君が泣いているところを見て、すごく興奮した。もっと見たいと思った。君の泣き顔をもっと見たい」

なんかもう、なんて言ったらいいのか分からない。
美晴が心底困ったように問いかけてくる。

「………なぜだろう?」
「この、天然エロ野郎!」

そんなの俺が聞きたい。

けれど、怒った俺に嫌だったのかと不安そうに顔をゆがめるから、結局許してしまう。
どこまでもずるい奴。
ちくしょう、次は絶対俺がメロメロにしてやる。






表紙