09/12/27 好意

彼が家に遊びにきた。
話の成り行きで、金曜日に学校がなかったことがばれてしまった。
馬鹿だアホだと言われた。
その言葉に悪意は感じず、不快な気持ちにはならなかった。
怒っているわけではないらしい。

そして突然、好きだ、と言われた。
心臓が跳ね上がったような気がした。
聡さん以外に、こんな風にまっすぐに好意をぶつけられたのは初めてかもしれない。
血圧が上昇して、血液が顔に集まるような気がした。
僕は人に好意を向けられることに、慣れていない。
僕が好ましいと思った人間に、好かれることは少ない。
そのためか、とても嬉しかった。
だから、僕も伝えた。

僕も君が大好きだ。
君のおかげで色々なことを知ることが出来た。

彼は嬉しそうに、蕩けるように笑った。
その笑顔はやっぱりなんだか頼りなく感じて、保護欲を掻きたてられた。

09/12/28 恋人

朝に、聡さんのところに顔を出した。
もう講義はないらしいが、庶務があり顔を出したとのことだった。
それと職員の忘年会らしい。

恋人とは順調かと聞かれたので、おそらくうまくやっていると思われると告げた。
彼といると不思議な感触を覚えることを伝えて、これがなんなのかと聞いた。
聡さんは、少し難しい顔をして、答えは今度にさせてくれと言われた。
難しい問題なのだろうか。
その後も色々聞かれたので、登山靴を買いに行ったことや、テフロンフライパンが喜ばれたこと、揃いで買ったお弁当箱で弁当を作ってもらったことを話した。
プレゼントを沢山しているんだね、本当にその子が好きなんだ、今度ぜひ合わせてくれと言われた。
僕もぜひ会ってほしい。

彼のバイト時間になるのを待って、喫茶店に行った。
なんだかはしゃいで仕事をしていて、マスターに怒られていた。
本当に、最近の彼は最初とは比べ物にならないぐらい明るく、表情豊かだ。
おそらく前が無理をしていたんだと思われる。
このまま、彼が笑ってくれていると嬉しい。

09/12/29 フライト

今日から家族でハワイ旅行だ。
年末年始はハワイで過ごすことになっている。
数少ない家族全員が揃う団欒の旅行だ。
今年は聡さんは来なかったのが残念だ。
冬兄さんと顔を合わせたのは本当に久しぶりで新鮮だった。
大学生活は楽しいらしく、満喫しているようだ。
長いフライトの間は聡さんに勧められた本を読んで過ごした。
僕もいつか数ある未解決の問題を解くことができれば嬉しい。
長すぎるフライトにお婆さんがが疲れないかが、少し心配だ。

09/12/30 ハワイ

相変わらずハワイの日差しは焼けつくようだった。
前までは駆けまわっていた千秋は、日焼けを気にして日傘をさして澄まして歩いていた。
いつのまにか大きくなっているのだな、と思った。
久しぶりの冬兄さんとの会話にお婆さんがとても嬉しそうだった。
千秋も冬兄さんと話していて、とても楽しそうだった。
そういえば瀬古は、冬兄さんに似ているかもしれない。
明るく自由で、人を引き付ける空気を持っている。
僕にはないものなので、羨ましく感じる。

家族は少し休んでからショッピングに出かけた。
僕はホテルの前のビーチで泳いで過ごした。
綺麗な海は、ただ浮いているだけでも気持ちがいい。
ずっと連なる青い海と空に、溶けていくような気分になれる。

彼もここに来たら、喜ぶだろうか。

09/12/31 大晦日

朝の五時に起きて、彼に電話をした。
向こうはもう新年のはずだ。
恋人は、本当は年末年始は一緒に過ごすものらしい。
彼がそれを望んでいるかは分からないが、一応電話だけでもしてみることにした。
それに、彼の声が聞きたかった。

迷惑かと思ったが、早く会いたいと言ってくれた。
その言葉を聞いて、なぜか、一瞬言葉に詰まった。
すぐに、僕も彼に会いたいと伝えた。
最後に、国際電話なんてもったいないことするなと怒られた。
本当につつましくて、つい笑ってしまった。

大晦日は店は夕方には閉まってしまう。
クリスマスからずっと続くお祭りに、街中はとても浮き立っていた。
家族は買物や観光や食事に精力的に動き回っていた。
僕は今日はダイビングに行くことにした。
僕がいると家族に気を使わせてしまうので、ちょうどいい。
水の中は別世界のようで、空に浮かんでいるようだった。

夜はニューイヤーパーティーで爆竹と花火がそこらじゅうではじけていた。
その喧騒は、嫌いではない。
彼や聡さんがいたら、きっともっと楽しかっただろうと思った。

10/01/01 元旦

新年になった。
去年は、なかなかいい年だった。
今年も、いい年であるといいと思う。

今日は家族で食事をしたりパーティーに参加したりして過ごした。
僕が入ると、家族の空気を乱すようで少し居心地が悪い。
両親は僕に気を使い、冬兄さんがそれをつまらなそうに見ていて、その冬兄さんをお婆さんが気を使う。
千秋だけが明るくて、空気を和ませてくれる。

家族といるととても申し訳ない気分になる。
来年は僕は参加しないほうがいいだろうか。

10/01/02  ハワイ

今日で最終日だ。
毎年のことのはずなのに、なんだか疲れた。
長旅のせいだろうか。

変わらず海は綺麗で心が洗われるが、帰りたいと思った。
帰って、彼の顔が見たいと思った。




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