「お前は、なんでも受け止めるんだな」 人と関わるのは正直本気で面倒くさい。 出来ればずっと家で寝ていたい。 まあ、幼い頃の経験から、それはより面倒だと知っているからしないが。 とりあえず深く関わることはしたくない。 当たり障りなく、適当に過ごしたい。 敵にも味方にもなりたくない。 本気で心底面倒くさい。 空気のような存在になりたい。 だから私は、誰かに相談事をされたら黙って聞く。 誰かに恋愛話をされたら黙って聞く。 誰かの悪口を聞いても、黙って聞く。 だって、私に向かって吐き出している人は、別に私に話している訳ではない。 相談事も、恋愛話も悪口も、結局は自分自身に向かってしていることだ。 相談事で、人の意見を求めてる人なんてほとんどいない。 自分の立場への同情、自分の意見への肯定を求めているだけ。 恋愛話の相談、愚痴も特に人の意見を求めていない。 大半は愚痴も相談もノロケ以外の何物でもない。 人の悪口はちょっとデリケート。 下手に肯定すると、どちらかの立場につくことになる。 でも否定すると、今度はその子の敵になる。 だからだた頷く。 そうすればそのうち飽きる。 へーそうなんだー大変だねーで、すべては解決だ。 真剣に相手をしなければいい。 あんまり楽しくない子としてすぐに飽きる。 それでも、なんでも聞いてくれる人間として、たびたび寄ってくる。 とても面倒くさいが、それぐらいがちょうどいい。 それくらい当たり障りのない表面上の付き合いが、ちょうどいい。 私の周りには適度に人がいる。 そして適度に人がいない。 これくらいが、ちょうどいい。 「日和、一緒に帰ろう」 いきなり教室に表れた幼馴染に、私は黙って頷く。 周りの女の子がきゃあきゃあと騒いでる。 翔太は目立つ外見と性格をしている。 人を寄せ付けない彼が私には寄ってくることにたまにからかわれる。 正直、そういうことは面倒くさい。 だが、断るのも面倒くさい。 翔太はそういうことを全く気にしない性格だ。 大人しく合わせた方が、楽だろう。 無気力に立ち上がり、笑顔を作ってクラスメイトに挨拶をする。 私に相談事をしていた彼女たちは、男が現れたことで快く送り出してくれた。 これだけは、ちょっとありがたかった。 「珍しく遅かったな。何をしてたんだ?」 「友達の恋愛相談にのっていたの」 といっても半分以上ノロケ話だったが。 まあ、人に聞かすことで気が済むなら、させてやろう。 言葉を叩きつけられるだけのサンドバックにだってなんだって、なってやる。 嫌われたりハブかれたりするほうが、面倒だ。 「そんなものお前が聞いて、楽しいのか?」 「まあ、そこそこ。面倒だけど」 翔太は何を言っても言いふらさないし、何も感じないだろうから私は本心を話す。 それに私が取り繕うようなことを言うと、なぜかこの子は怒る。 私の被っている猫が、気に入らないようだ。 本音で話せと、問い詰められる。 面倒くさい子だ。 人の鑑賞は好きだから、誰かの感情を聞くのは別に嫌いじゃない。 私は友達が、嫌いではない。 むしろ少女らしい生態は微笑ましく思える。 彼女たちはパワーに溢れている。 私には、できない。 尊敬する。 「そうか、お前も恋愛とかに興味を持つのか?」 「特には」 この年下の幼馴染は、人のことなど気にしない癖に、なぜか私に拘るところがある。 何が原因だったのか分からないが、いつからか付いて回って色々な事を聞いてくる。 私も割と彼には興味があるが、私に拘るところは辟易する。 私の行動や考えなんて、いたってシンプルだ。 面倒か、そうじゃないか。 すべてはそれだ。 真理や翔太のように、自分から火の中につっこんで行くような生き方を見ているのは、好きだ。 バイタリティ溢れている人間は、嫌いじゃない。 真理は馬鹿でかわいくて、泥の中這いずり回ってるようなたくましい汚さがある。 翔太の行動は、私と同じくいたってシンプル。 勝ちか負けか。 誰にも負けない。 シンプルで、そのまっすぐな生き方は綺麗だ。 私はどちらかというと、ドロドロしているのが好きなので、真理の方に興味を惹かれる。 「人の勝手な言い分を聞くのは、疲れないか?腹が立たないか?」 「面倒だけど、疲れたり怒ったりはしないよ。面倒くさい」 怒るのも泣くのも笑うのも、感情を高ぶらせるのは、疲れる。 そんな面倒なことしたくない。 すべてを穏やかな気持ちで見ている。 それが一番楽。 「お前は、なんでも受け止めるんだな」 翔太はどこか感心したように、私を見て頷く。 なんでも受け止める。 そう見えるのか。 「それは違うでしょ」 「どういうことだ?」 ああ、本当に面倒くさい子だ。 私に付きまとって何が楽しいのだろう。 だが振り払うのも、面倒くさい。 だから私は答える。 それが一番楽な方法だから。 「なんでも受け流しているだけよ」 |